(5)子供商人
翌朝、リルはすでに手際よく準備を進めていた。
飲み水用の樽に井戸から水をくみ、蓋をしてサイラスに荷台にあげてもらう。馬の飼葉や野営用の鍋やスキレットも積み込むと、リルは薪が足りないことに気づいた。
「サイラス、薪を集めてきて」
「……『薪』ッテ、ナニ?」
貴族のおぼっちゃまって、薪も知らんのかーい、とリルは衝撃を受けた。
リルはとりあえず荷馬車から斧と鉈を取り出した。
「薪というのは焚火をするための木材だよ」
見本になる薪を指し示し、斧と鉈を渡す。
「これがいっぱい欲しいの」
「イッパイ?タクサン?」
「たくさん」
サイラスは剣帯の帯皮を腰に巻くと斧と鉈を持って森に消えた。
地下室から角灯やら毛布、食料を運び上げる。午後には出発できるなあ、とリルは考えた。簡単に家の中を片付け、外に出たリルはぽかんとした。
わずか1時間で荷馬車のそばには、恐ろしい数の薪が山積みされていた。
「何、これ――っ?!」
「『薪』……違ッタカナ?」
「ち、違わないけど……こんなに使わないよ……」
「売レバ?」
「……売る……うん、売ろう」
薪の横には魔獣の死体もあった。
魔獣の四つ目は普通は兵団で狩る代物である。なんで野ウサギみたいに積まれているんだろうか?
「……これ、サイラスが倒したの?」
「ドクガアッテ、アブナイカラ、ネ」
サイラスは強い。強いが常識がなさすぎるお貴族様だ。リルはしっかりとその事実を頭に刻みこんだ。
だが、リルは気づいた。
毒があることを知っていて、あえて危険を冒して多数退治したのは、付近に住む人間を気遣ってのことだろうか?
貴族が平民を気遣う?
ありえない行為だが、なんだかリルは、サイラスの行動にほんわかした。討伐隊を派遣してくれないこの地方の領主より、はるかに彼のことが尊敬できた。
リルは山積みされた薪の中に異質な木材を発見した。
「……リグナムじゃん」
これ、めちゃくちゃ硬くて、なかなか伐採できない高級素材なんだけど――リルは素早く原価計算をした。
「サイラス、これを1mぐらいの長さでいっぱい欲しい。多分路銀になるよ」
サイラスは了承の印か親指をたてて再び森に向かった。
リルは最初にたどり着いた村で解体屋を訪れ、四つ目の死体を売った。解体屋は持ち込まれた数にギョッとしていた。
「兵団の討伐があったのか?」
「傭兵さんの無料奉仕だよ。買い取ってくれる?」
ちらりと戸口の長衣の黒髪の男を視線でしめし、自分が代理人であることを無言で主張する。
「ああ、もちろん。ありがたいぜ、最近増えてたからな」
「だよねー」
解体屋は感謝の気持ちか、相場より高く買い取ってくれた。これで当面の路銀の問題は解決した。
「リグナムじゃないか」
リルが差し出した木材の見本に問屋の親父が驚いたように言う。
「まさか、森で伐採したのか。魔獣もいただろうに」
「退治したんだ。四ツ目を解体屋におろしたから、牙とか毛皮とか素材が欲しけりゃ、今のうちにだよー。リグナム1本あたりいくらで買う?」
「……これぐらいでどうだ?」
親父が指で値段を示す。
「はあ?馬鹿にしてるの?」
リルはむっとしたように、入口の黒髪の男に声をかける。
「サイラス、別の店に行こ。この店しみったれだ」
「まてまてまて」
親父は慌てて指を1本増やす。
リルは首をふる。
「別の店にいく」
「わかったわかった。1本9銅貨でどうだ」
「50本あるよ」
「なんだって?!」
「全部売るから、食糧を2人分、3日ほどサービスしてよ」
「50本あるなら一週間分にしてやるよ」
「マジ?やったあ、ありがとう」
商談成立。
リルは、にっとサイラスに笑ってみせた。
『たくましいな……』
「同感……」
サイラスが最強の案内人をゲットしたことは、間違いなかった。




