(4)駆け引き④
「本当にクトリ様にこの装置を作っていただき、よかったと思います」
傍に立つミナリオが深刻な顔をしている。それから彼はカイルに対して深々と頭を下げて詫びた。
「この不手際、申し訳ありません」
「不手際?」
「何度目でしょう。またカイル様を危険に晒してしまいました」
カイルは意味がわからずキョトンとした。
「カイル様、貴方が言うべきは、貴方を守ることが出来なかった専属護衛達に対する叱責と、命令です」
アッシュも無表情で語る。
「はい?」
カイルは思わず聞き直した。
「叱責なんか必要ないよ」
「目の前で拉致されたんですよ?」
「あれは相手が悪いよ。ああいう能力をもった地上人はいないでしょ?」
「そういう問題ではありません。身をもって詫びるレベルです」
「身をもって?」
「切腹です」
カイルはその特異な単語の言語検索に数秒を要した。検索結果に彼は慌てた。
「切腹?!」
「はい」
「それ自殺手法の一種だよね?!」
「腹切り、割腹、斬服、責任をとる行為で、東国の風習です。お命じください」
「いやいやいやいや」
カイルは青ざめた。
「意味、わかんない。なんで、アッシュが腹を切り裂くのさ?!」
「専属護衛の責はそれほど重いからです」
「――」
「護衛の任を失敗し、誘拐され、婚約の儀の前に怪我までおわせてしまいました。万死に値します」
「待って待って待って」
カイルはアッシュを押しとどめた。
「と、とりあえず、城に戻ろう。その話については、ゆっくり時間をかけて語り合おう」
「そのような時間は惜しいと思います」
「ミナリオもなんか言って!」
カイルは救いを求めてミナリオを振り返ったが、結果、見事なまでに梯子をはずされた。
「私もアッシュと気持ちは同じです」
「ミナリオっ!」
「我々が専属護衛失格なのは明らかです」
「失格なんかじゃないよ!あれは相手が悪かったっ!君達はちゃんと僕を見つけてくれたじゃないか?!」
「クトリ様の功であり、我々のものではありません」
「相手に殺意はなかったっ!その証拠にトゥーラは飛んでこなかったっ!!」
「……そういえば、そうですね」
「だろ?!」
「殺意はなくても、害意はありました。頬を傷つけられています」
アッシュが静かに指摘する。
「侍女達は許さないでしょう」
アッシュの言葉にカイルは事態の深刻さを悟り、がたがた震え始めた。
「……僕は四つ目を従えているアードゥルより侍女達の方が怖い」
「同感です」
アッシュは真顔で応えた。
三人はこっそりと城に戻り、聖堂に直行した。
「本当に治せるのですか?」
「治せなかったら、我々が侍女達に八つ裂きにされるだけだろう」
「八つ裂きで済めば、いいですが」
「……ねぇ?君達が話題にしているのは、侍女達の話題だよね?」
「間違いなく」
「それ以外、何があると言うのです?」
「魔獣の話題かと思ったよ」
「四つ目なら、まだ倒せます」
「……怖くなるから、それ以上言うのはやめて」
カイルはこの間と同じ場所を選び、冷たい石床に腰を下ろした。それから、どこかにいるはずのウールヴェに呼びかけた。
「トゥーラ、来てくれ」
――なあに?
主人の招請に白いウールヴェはすぐに現れた。
床に胡座を組んでいるカイルに首を傾げる。
――あ 怪我 してるね?
「それなんだけどね、この怪我をこっそり治したいんだ」
――自業自得って 言ってる よ
「誰が?」
――番人
「やっぱり見てたのか」
カイルは溜息をついた。
「僕が癒すとコントロールがきかなくて、おおごとになりそうなんだ」
――そうだね
「そこは否定して欲しかった……。トゥーラ、協力してくれない?かすり傷だけど、3日後は婚約の儀だ。この傷をこっそり消したいんだけど」
――シルビア に 言えば?
「怒られる。侍女達にばれる。ファーレンシアにばれる」




