(3)駆け引き③
「でもさ、あれだけの四ツ目を使役できる精神感応者で、他者まで一緒に瞬間移動できる念動力を持ってれば、立派な規格外だよ」
カイルの言葉に、アードゥルが目を細める。
「思い出した。そういえばお前は西の地で、どうやって野生のウールヴェを使役した?野生化したウールヴェが使役できないのは、さんざん実験済みだ」
カイルは溜息をつきたくなった。
同調能力を一言で説明するのは、なかなか難しい。
「あー、なんというか――使役したんじゃなくて、野生ウールヴェに意識をあわせただけだよ」
「なんだと?」
「僕はウールヴェになって暴れたんだ」
「なった?」
「……僕の持つ特殊な能力だと思ってくれていいよ」
「――」
アードゥルはカイルを凝視している。カイルは説明を端折ることにした。馬鹿正直に話す必要はない。
「他に質問は?」
「地上が滅亡するまでエトゥールで過ごすつもりか?」
「滅亡しない」
「するぞ」
「しない。恒星間天体の軌道を変えるんだ」
「軌道を変える?」
「観測ステーションを恒星間天体にぶつける」
「………………は?」
さすがにこの話は、アードゥルの意表をつけたようだった。
「お前は何を言ってる?」
「これも事実だ。僕の優秀な支援追跡者がそのために奔走してくれている。質量を削って、地軸のぶれない位置に落下させる」
カイルは静かに語った。
「それは大陸の中央にあるエトゥールという場所だけどね」
二人の間に長い沈黙が続いた。
「……お前は鬼畜か?」
「東国で大量虐殺をした貴方に言われたくない」
「本当に何を考えているんだ?その状況で婚約式まであげるだと?」
「量子コンピュータにかけて出した結論だ。中央は絶対に動かない。自力でなんとかするしかないじゃないかっ!今のところ、この惑星を救う最良の策がこれなんだ。だから僕は協力者が欲しい。貴方とアドリー辺境伯の助けが。僕が対話を望んだ理由はそれだ」
カイルは感情を爆発させないように淡々と語った。それでも滅ぶエトゥールを思えば、声が震える。
「泣くな。みっともない」
「泣いてない。でも、大声で泣きたい気分だ。アドリー辺境伯にも伝えてよ。帰還の意思はないというけど、本当にこれが最後の機会になる。大災厄後はどんなに望んでも、帰還できない。観測ステーションがないんだから」
――その時、上空から影が降ってきた。
それが、付近の屋根から路地裏に飛び降りてきたアッシュだと、気づくのにカイルは数秒かかった。
彼は二本の短剣を抜き放つと一気に、四つ目使いに襲いかかった。
だが彼の行動は、見えない壁に弾かれた。
アードゥルは防護壁を張っていた。
カイルはその場に現れたミナリオに腕をつかまれ、その背後に庇われた。
アードゥルは笑いを漏らした。
「護衛が合流するまでの時間稼ぎか?凝った話で感心したよ」
「違うっ!!」
「まあ、邪魔が入ったから、話はここまでだな」
「アードゥル!!」
アードゥルの姿はかき消え、代わりに一頭の四つ目が路地に現れた。
「四つ目っ!!」
カイルが息を飲んだが、アッシュは既に行動していた。愛用の飛鋲を四つ目の両目めがけて放ち、命中させていた。
剣を抜き放ち正面から、視覚を失った四つ目の頭骨を叩き切る。
一瞬で鮮やかに決着がついた。
ふぅ、っとアッシュは、息をつき、剣の血糊を振り払った。
「……アッシュ、腕をあげてない?」
「……カイル様、言うべき言葉が違います」
「……えっと……四つ目を退治してくれて、ありがとう」
「それも違います」
「……よく、見つけてくれたね?」
「それも違います。が、クトリ様が作った腕輪のおかげです」
アッシュは、カイルの傍らに立つミナリオを顎で指し示した。




