(1)駆け引き①
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カイルは驚いていた。西の地で、そして東国で友好的とは言い難い彼と会うのは三度目だった。
エトゥールで彼の手配書が出回っているというのに、こんなに堂々と日中に闊歩しているとは、予想外もいいところだった。
しかも瞬間移動を駆使してまで、カイルに接触してきたのだ。
「……貴方は、いったい何をしているの?」
「開口一番の台詞がそれか?」
アードゥルがそっけなく、言った。
「他に何を言えと?」
「もう少し、この状況に危機感を持ったらどうだ?」
カイルは少し首を傾げた。
「危機感を持てと言うけど、貴方が本気になったら、僕なんかとっくの昔に吹き飛んでいるでしょう?もしくはあの場で四つ目の餌になっている」
カイルの言葉にアードゥルはわずかに片眉をあげた。
「そういう手段を持っているにも関わらず、貴方がこうして僕を連れ出したのなら、害することが目的じゃないでしょ?」
「……」
「だから、僕の胸は初恋の人に再会したかのように高鳴っている」
「……………………いい根性をしているな」
「ちゃかさないと、緊張で倒れそうなんだ」
カイルは視線をそらしたが、本心でもあった。
「おまえ、エルネスト並みのふざけた性格だぞ?」
「アドリー辺境伯には及ばない」
「なんだと?」
カイルは降りたたんだ紙片を長衣の衣嚢から取り出し、黙って差し出した。
「?」
訝しんで、紙片を開けて読んだアードゥルは、声をあげて笑った。
意外にも笑うと、男は表情の険しさが消え魅力的であり、カイルは驚いた。彼は笑いを噛み殺しながら、紙片を返してきた。
「エルネストに、既にやり込められた、ってか?」
「僕のプライドはズタボロだ」
「なんで、これを持ち歩いているんだ?」
「己を戒めるために」
「生意気な若者を正すのは年長者の務めだ」
「腹を刺すような指導はいらない」
「合間に勝手に飛び込んできたのは、詰めの甘い大馬鹿者じゃないか」
「――」
だめだ。初代達には勝てない。
能力でも、頭の回転でも、相手を精神的に叩きのめす根性の悪さにも――。
「私は昔から根性が悪いんだ」
――筒抜けだった。
カイルは慌てて遮蔽を強化した。ディム・トゥーラ並みの精神感応の持主だ。
「で、用件は?僕も貴方に会いたかったから、渡りに舟だけど」
アードゥルは腕を組んで、カイルを軽く睨んだ。
「このふざけたイベントは何だ?」
「イベント?」
「エトゥールの妹姫とメレ・アイフェスの婚約の儀だ」
「祝福にかけつけてくれるとは、感激だ」
「祝福じゃないという証明にここらへんに、四つ目達を離そうか?」
「ごめんなさい」
カイルは即座に謝りつつも、反論した。
「別にふざけた儀式じゃない」
「なんだと?」
「彼女と添い遂げる覚悟だよ」
「――」
「初代だって、精霊の姫巫女と添い遂げているじゃないか」
「あの馬鹿と一緒にするな」
「……馬鹿なの?」
「馬鹿も馬鹿の大馬鹿だ。彼は、あれで特権官僚資格を捨てたんだぞ?」
「僕もアドリー辺境伯に大馬鹿認定されたんだから、行動が似るのは当たり前じゃないか」
「……………………」
アードゥルはカイルの言葉にものすごく顔をしかめた。
「お前と話すと調子が狂う。本当にエルネストみたいな奴だな」
「それ、褒めてるの?貶してるの?」
「貶しているに決まっているだろう」
「なんだ、残念」
「なんだと?」
「アドリー辺境伯は貴方の相方だから、てっきり褒めているのかと――」
周囲の圧があがったようだった。
「ごめんなさい」
ちっ、とアードゥルは舌打ちをする。
多分、四つ目を召喚する気だったのだろう。カイルの謝罪に圧は消えた。
カイルは、ほっとした。この取り扱い注意度は、ウールヴェを目の前にしたディム・トゥーラ並みに高かった。
「そんな恐喝じみた対話手法はやめてよ」
「そうさせているのは、若造、お前だ」
「そんなに、僕は失言しているかなあ?」
「無自覚か」
アードゥルは睨んでいる。




