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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第13章 精霊の選択

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(37)閑話:導師(後編)

シリアスのように見えますが(いや、一応シリアスな閑話なんですが)、第二話「邂逅」のカイルの考えなしの台詞が、精霊の御使い扱いされる原因となったギャップをお楽しみください。

 だが、ファーレンシアの目に映ったものは違った。


 精霊鷹がいる枝に重なるように青年がいるのだ。

 白い異国の服を着ている。くつろいだように枝に座り、片膝を抱え込んでいる。

 二十歳前後というところだろうか。

 珍しい金の髪と瞳は、物語の中の初代エトゥール王と同じであり、神聖な印象を与えた。

 透明の透き通る姿だったが、彼は確かにそこにいた。


 食い入るようにファーレンシアは見つめたが、彼はファーレンシアに気づいてなかった。しかもすぐに立ち去りそうな気配があった。


「お待ちください、そこの御方(おかた)


 ファーレンシアは勇気をふりしぼり、声をかけた。


「どうか、私と対話のお時間をいただけないでしょうか?」


 精霊鷹に声が届いた。だが、返事はなかった。

 青年がなぜか残念そうな表情を浮かべている。

 ファーレンシアは気づいた。相手は精霊なのだからエトゥール語ではだめだ。


 ファーレンシアは、直接、精霊鷹に語りかけた。


「どなたですか?お名前をいただけないでしょうか?」


 今度は反応が間違いなくあった。

 彼はあたりを見回して、人を探している。自分が声をかけられたと思っていないのだ。


「鳥に姿を変えていらっしゃる貴方様のことです」


 ファーレンシアが精霊鷹に向かって語りかけた言葉に、彼は驚いたように見つめてきた。

 通じた!ファーレンシアの胸は高鳴った。


「私はファーレンシア・エル・エトゥールと申します」


 他国の王などにする最大級の敬意を表する礼を選び、頭を下げる。しばらく()があった。


『……カイル』


 小声の――ファーレンシアが聞き取るかどうか試すような返答がきた。


「カイル様ですね。お会いできて嬉しく思います」


 対話が成立したことに、喜びで胸がふるえる。うれしくて自然に微笑むことができた。


「カイル様はどうして鳥の姿をしていらっしゃるのですか?」


『え?君にはどう見えていると?』


 ファーレンシアは素早く頭の中で判断した。「どう、見えている」というのは、人の姿のことを言ってるに違いない。


「鳥と重なってお姿が見えます。失礼ですが私の兄よりお若い――金色の髪、と瞳。初代エトゥール王に似ていらっしゃいますね」


 相手の機嫌を損ねないように、言葉を選びながら、精霊の御使(みつか)いが見えているという事実をはっきりと相手に告げた。さらに驚いたような反応がかえってきた。


『――皆が君のような能力を持っているのか?』


 能力とは、何を指すのだろう?先見のことだろうか?ファーレンシアの疑問を相手は察した。


『――君は鳥ではない僕の姿を見た。僕と会話ができる』

「ああ……多分一族特有の能力です。誰にでもあるわけではございません。身近では私と兄ぐらいでしょうか」


 姿を見ることと会話ができることは特別らしい。やはり精霊の御使(みつか)いなのだ。ファーレンシアは会話を紡ぐために、急いで問いかけた。


「カイル様はどうしてこちらに?」


『……地上を見ていた』


 どきりとする。まるで世界の番人が最後の審判をするために、地上人の行動を見守っているようだ。


「地上はいかがですか?」


『……まだよくわからない』


「そうですか」


 その返答にファーレンシアは、ほっとしたが、次の質問は予想外だった。


『君から見た地上はどう見えるのだろう?』


 この質問はお試しだろうか?エトゥールの王家の資質を問いただしているのだろうか?


「――先の嵐による水害で土地は荒れて、病気も蔓延しております。食料不足が予想される中、隣国との戦争も危ぶまれています。エトゥールを継いだばかりの若き領主の能力を疑い、内乱の兆しもあります。西国の民との和平もままなりません。この滅びの前兆の夢も見ます」


『滅びの前兆?』


「はい」


 ファーレンシアは祈るように両手を組んだ。


「カイル様、どうか地上を平穏にお導きください」


 その言葉とほぼ同時に、精霊鷹は力強く飛び立ってしまい、対話は唐突に途切れた。





「ファーレンシア」


 声をかけられて、現実に引き戻された。

 セオディア・メレ・エトゥールが精霊樹のもとに座り込んでいるファーレンシアのもとにやってきた。おそらく侍女のマリカが、精霊樹に近づいていいのか判断をつきかね、エトゥール王を呼んだに違いない。

 もう陽がおちる時刻が迫っていた。自分はいったいどのくらいここにいたのだろうか?


「大丈夫か?侍女たちが心配をしている」


 冷えかけているその身体に、自分のマントをはずし、肩にかけてきた兄の行動に、ファーレンシアはようやく思考を取り戻した。


「……夢を……夢を見ていたようです……」

「……先見か?」

「……いえ……」


 ファーレンシアは二人の足元に赤い羽根が落ちているのを見つけた。


――夢ではなかった。あれは夢ではないのだ。


 ファーレンシアは急いでその証を拾いあげて、エトゥール王に差し出す。

 メレ・エトゥールは眉をひそめ、それを静かに受け取った。


「……精霊鷹が……きました……精霊の御使いとともに」

「――」



 

 エトゥールの大災厄にまつわる激動の時代の伝承の始まりであった。

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