(4)魔の森④
移動装置が定着した場所が危険地帯ならば、やはりエトゥールのカイル達と合流することが優先になる。
「ココカラ、エトゥール、ドノクライ?」
「エトゥール?王都は遠いよ?……馬で十日くらいかなあ」
『まあ、そんなものだな』
馬で十日。直線距離で500kmを1日50km走破しての計算だ。村や街に泊まれないとなると、さらに走破距離は落ちる。しかも馬などない。走るにしても、街道では目立つ。森の中を直線で北上するしかないかもしれない、とサイラスは思考を巡らせた。
「魔獣ハ、街道ニモ、デル?」
「出るよ、夜は特に危ないよ。ここの領主様は全然討伐してくれないんだ。最近、すごく増えている」
あの黒豹に似た生物は魔獣だったのか。夜に遭遇すると、手こずるかもしれない。
武器をどこかで調達する必要がある。盗賊達の武器は粗悪品だった。
「サイラス、エトゥールに行きたいの?」
リルの問いに、サイラスは頷いた。
「あたし、エトゥールまで送ってあげるよ」
「――」
「エトゥールなら父ちゃんと何回かいったから、道もわかるよ。サイラス、この国のこと知らなすぎて、すごく心配」
わずか10歳の子供に知識不足を心配されてしまった……。事実とは言え、サイラスは遠い目をした。
「……子供を巻き込むのかぁ」
ディム・トゥーラは悩んだ。
「悩ましいけど、悪くない話よね。案内人は欲しいところよ。この子の安全を守れるなら、私は推奨するわ」
イーレは意見を述べる。
サイラスは黙り込んでしまった。
即座に拒否されなかったということは、彼の方でも思うところがあるのだろう。リルはドキドキしながら彼の反応を待った。
「……武器ガ欲シイ」
「あ、そうか。昼間素手で戦ってたもんね」
盗賊団の武器と鎧を回収してたのはそのためだったのか、とリルは納得したが、彼らの残した武器はそれほどいいものではなかった。それはサイラスも気づいているらしい。
うーん、とリルは考え込み「サイラスならいいか」とつぶやいた。食事を終えているサイラスをちょいちょいと手招きをする。
リルは隣の部屋に招きいれると、壁の板を軽く押した。カタっと小さな音がして隠し扉があく。扉の中には地下に通じる階段があった。リルは灯を用意し、階段を降りていく。
地下室はかなり広く、棚がたくさんあった。保存食らしき袋や衣服や日用の雑貨まで山積みされている。壁にはいくつかの武器がかかっている。
「――」
「うちの父ちゃん、商人だったの。在庫があるから、今も食うには困らないんだ。これを少しずつ売って暮らしているわけ」
リルは灯を持って、地下室の一番奥の棚に案内した。そこには、剣や弓、ナイフから槍、大剣のあらゆる武器があった。
「父ちゃんが仕入れてたヤツ。結構、いいでしょ?好きなの持っていっていいよ」
リルは得意気に言った。
リルの言葉にサイラスはそこにある武器の吟味を始めた。
「使える?」
「……サア」
なんとも頼りない返事がきたが、お貴族様はそんなものかもしれない、とリルは納得した。結局、彼は剣と弓の一式、数本の槍を選んだ。
武器を選んだサイラスの手に、リルは彼の着替えを積んでいく。サイラスの服が変だから、とフード付長衣まで用意された。
「皮鎧は?」
「イラナイ。金、エトゥールデ、払ウ、イイカイ?」
その言葉はリルの同行の了承だった。
ぷぷっとリルは笑う。
「さっきの報奨金でいいよ。お金ないのに、いらないって言うなんて、路銀はどうする気だったの?」
村も街も無視して走り抜くつもりだったと言わず、サイラスは微笑みで、ごまかした。
「出発は明日の午後ね。午前中は準備があるから。こっちでゆっくり休んで」
休む場所として、リルはサイラスを死んだ父親の部屋に案内した。
「おやすみ、サイラス」
「オヤスミ」
サイラスは部屋を見渡す。
使う者がいないはずなのに、部屋は綺麗に掃除されていた。そこに自分に協力を申し出た幼いリルの寂しさを見出しサイラスは吐息をついた。