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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第13章 精霊の選択

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(30)癒しの風⑨

――なんてこった


 カイルは頭を抱えた。

 厄介な世界の番人と、すすんで交流するなど、カイルにもディム・トゥーラにも計画はなかった。カイルの希望とシルビアの選択は、まさに真逆だった。


「シルビア様、素晴らしいです」


 ファーレンシアが尊敬の眼差しでシルビアを、見つめている。

 こちらもカイルにとって計算外だった。ファーレンシアはシルビアを全面的に支持をしている。


「世界の番人と交渉が可能など、そんな発想が私達にはありませんでした」

労使交渉(ろうしこうしょう)は基本です。労働の対価は正しくもらわねばなりません」

労使交渉(ろうしこうしょう)――ですか?」

「ファーレンシア様も正しく要求するべきですよ?世界の番人の助言による先見で、健康に害がでていたのですから、交渉の余地が十分にありますよ?」

「私が、ですか?」

「はい」


 ファーレンシアは考えこんだ。


「でも、私はすでに願いごとを叶えてもらっています」

「カイルのことですね?」


 あっさり看破したシルビアの言葉に、ファーレンシアは頬を染めた。


「僕?」


 鈍い反応に、はあ、とシルビアが小さな吐息を漏らした。


「鈍いですね。ファーレンシア様が願うのは、貴方に関することに決まっているでしょう」

「シルビア様っ!」

「何を世界の番人に願うと言うのさ。僕がファーレンシアを好きなのは、僕の意志だ。世界の番人が干渉(かんしょう)する余地など、これっぽっちもないし、今後も干渉(かんしょう)させるつもりはない」

「――」

「――」


 ファーレンシアは婚約者の言葉に、()で上がったタコのように真っ赤になった。


「カイル?」

「何?」

「貴方は天才的に無自覚で人をたらす才覚に恵まれています。でももう少し場を読む修行を積むべきです」

「場を読む修行って、何さ?」

「そういう言葉は、私のいないところで言えば満点でした。さあ、今から二人きりにしてあげますから、再チャレンジしてみましょう」

「え?」

「トゥーラ」


――なあに?


「アイリのお菓子を食べに行きますよ。同行しますよね?」


――もちろん 「馬に()られる」 前に って ヤツだね?


「よくわかっている賢い子ですね」


――よくできる 賢い子 代表


 鼻高々にウールヴェは出口に向かうシルビアに付き添った。


「シルビア?」

「さっきの台詞(セリフ)をもう一度復唱するまで、戻ってきちゃダメですよ?」

「シルビア?」


 シルビアは聖堂から立ち去り、カイルは呆然と見送った。

 ふと、振り返るとファーレンシアは、顔を真っ赤にして両手に顔を埋めている。

 シルビアの最後の言葉を反芻(はんすう)していたカイルは、先程、自分が放った無意識の台詞にようやく辿り着いた。


「……あ」


 無意識に生み出した台詞の内容を自覚したとたん、羞恥(しゅうち)にカイルも顔を赤らめた。


「あ、あの、ファーレンシア、これはね、その――」

「…………です」

「え?」

「ふ、二人きりで……さ、先程(さきほど)の言葉……言われたい……です」

「――!!!」



 シルビアが命じた課題の難易度が、致命的に急上昇した。






――僕 役に 立った?


「いろいろな意味で、とても役に立ちましたよ」


――よかった


「世界の番人は怒っていませんか?」


――大丈夫 困惑しているだけ


「困惑ですか?」


――こんなこと 言われたの 初めて だから――あっ!!


「どうしました?」


――余計な ことを 言うな と 怒られた


 しょんぼりするウールヴェにシルビアが笑った。


「そういう余計なことを教えてくれれば、アイリのお菓子をあげますよ?」


――本当?




 シルビアはウールヴェの買収に成功した。

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