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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第13章 精霊の選択

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(29)癒しの風⑧

「ですが、私に関しては、賠償(ばいしょう)の代価が見合っておりません」


――――なんだと


「天上でカイルが突然消えたため、私は彼の健康を監視する立場であったにもかかわらず、任務を全うできず信用を失いました」


――――ほう


「私は彼の消失ですさまじいストレスに見舞われ、身体を壊しかけました。それ相応の賠償の代価を望みます」


――――交渉上手だな。何を望む?


「賠償の代価をいただけると?」


 シルビアは穏やかな微笑を浮かべたが、カイルはそこに潜んだ真の感情を見抜いていた。


「世界の番人に二言はございせんね。大変感謝いたします」


 巧みに先に礼を言い、交渉が成立したかのように振る舞う。シルビアは代価として何を望むのだろう。


「では、私は代価として、今後もこうして会話を交わす権利を要求します」


――――………………………………


 ものすごく長い沈黙だった。

 世界の番人が無視して立ち去ったかと勘違いするほど、静寂が続いた。


「あら、帰ってしまわれましたか?」


――――いる………………


「まあ、よかった。お帰りになられたら、どこに訪ねていけば、わかりませんから」


 唇に指を押し当てて、シルビアがにっこりとウールヴェに微笑む。


――――治癒師よ、なぜそれが代価になるのか、代価の意味が理解しかねる


「え?それほど、難しい要求じゃないと思いますよ?金貨も消費しない極めて妥当(リーズナブル)な価格かと」


――――なぜ、会話を交わすことが代価になるのか?


「極めて高級な代価です。希少な価値があります」


――――どこに価値を求めた?


「貴方となかなかお話する機会が限られているからです」


――――審神者(さにわ)になりたいのか?


審神者(さにわ)――ナーヤのお婆様やファーレンシア様のような世界の番人の代弁者の職ですね?いいえ、私の職は「治癒師(ちゆし)」です。別に代弁者として、民衆と貴方を繋ぎたいわけではありません」


――――ではなぜ望む?


「貴方のような存在の概念(がいねん)が私達には全くないからです。この無理解(むりかい)は大災厄を止める上で、障害になります。もちろん、貴方側の誓約(せいやく)が存在していることは理解しています。その隙間(すきま)を縫って、相互理解の道を歩むにはこういう方法しかないかと」


――――隙間(すきま)を縫う?


「貴方は地上の民には、生死にかかわる多大な干渉ができない。大災厄は止めたい。初代達と誓約(せいやく)を交わしている。人々が望むことを叶えることが、原動力になっている」


 シルビアは指をおりながら、推論を述べていく。

 世界の番人の返答はなかった。


「あとは、答えることが可能なことは、答えてくれる――私は、私の賠償(ばいしょう)対価として、貴方との対話を望みます。叶えていただけますよね?」


――――…………知恵者だな


「褒め言葉として、受け取ってよろしいですよね?」


――――もちろんだ。小細工を弄して、こちらを引きずりだす大馬鹿な頑固者より遥かに好ましい


「ちょっと、それって――」

「貴方のことです」


 カイルの抗議の言葉を、シルビアはピシャリと封じた。


――――よかろう、代価を認めよう


「ありがとうございます。――お話をしたい時は、どうしたら?私のウールヴェを通じて頼めば、よろしいですか?」


――――やめておけ。お前のウールヴェは、幼く、(うつわ)として小さすぎる。弾け飛ぶぞ


 さらりと世界の番人は恐ろしいことを言う。


「では、トゥーラか精霊鷹を介してですか?」


――――そうなる


「わかりました」


――――……他に望みは?


 シルビアは、しばし考えこんだ。


「末永くお友達でいてください」


――――…………………………


 またもや、世界の番人の長い沈黙が続いたあとに、トゥーラから気配が唐突に消えた。


「シルビアっ!!」

「世界の番人について、いっぱい論文が書けそうですね」



 彼女の感想は、どこかズレていた。


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