(28)癒しの風⑦
「シルビアの言うことは、もっともだ。自重するよ」
「ディム・トゥーラの治療が必要だったことは、理解しています。貴方がディムの怪我に責任を感じていることも」
「……うん」
「今後、この治癒の技は周囲に目撃されないように気をつけてください」
「うん」
トゥーラはカイルの膝の上から、ようやく立ち上がった。
――しるびあ 世界の番人 に 会いたいの?
「え?」
――そんな こと 思った でしょ?
「え、ええ、まあ、文句の一つでも言ってみたいと、常々思っていましたが」
――会って みる?
「はい?」
――世界の番人 に
シルビアは目の前のウールヴェを凝視した。カイルもファーレンシアも同様だった。
「トゥーラ、何言ってるんだ?」
「会いたいと思えば、会えると言うことですか?」
――うん
「会ってみたいです」
「シルビア!」
「今後のことを含めて、話し合いをしたいと思います」
「シルビアっ!」
――わかった
トゥーラの雰囲気ががらりと変わった。
そばにいたカイルは、仰反り、慌てて距離をとった。そこにいるのは愛らしいウールヴェとはほど遠い存在だった。
――――話を聞こうか?治癒師よ
「お初にお目にかかります。シルビア・ラリムと申します」
――――何を話したいと?
「いくつかの質問の答えをいただきたいと思います」
――――よかろう、誓約にかかわらぬ範囲なら
「なぜ、カイルを衛星軌道から強制転移したのですか?」
――――彼が最初に地上にきたからだ
「精霊鷹に精神跳躍した件ですか?」
――――そうだ。あとは彼が望んだ
「望んだ?」
――――もう一度、地上に降りたい、と
「えええええ?!」
驚愕の叫びをあげたのは、本人だった。
「きっかけは、それだったの?!!!」
「……カイル?」
「は、はい」
「世界の番人が指摘するように、望んだのですか?」
「えっと……」
「望んだのですか?」
「……法規違反をして中央に強制送還だったから、もう一度降りたかったと思ったのは事実……です……」
シルビアは両手で顔を覆った。これみよがしな盛大なため息が彼女の口から吐かれた。
「カイルが望んだ瞬間、転移ですか?」
――――正しくは違う。彼の位置が把握できたからだ。
「意味がわかりません」
――――地上にきたあと、この者がしばらく認知できなかった。
シルビアは、はっと息をのんだ。
「……特別遮蔽室……」
「……あ……」
「なるほど、遮蔽されていたから手を出せなかったのですね」
――――むろん、理由は他にもある
「他?」
――――地上では問題を解決できる者を望んでいた
ファーレンシアが息をのむ番だった。
「つまり、貴方は望んだ者の望みを叶えただけ、と?」
――――そうだ
「それに巻き込まれた私やディム・トゥーラは?」
――――恨むなら初代を恨めばよい。壮大なきっかけを引いたのは彼等だ
「ああ、尻拭いって、やつですか?」
――――そうとも言う。だが、お前とあの壮絶に口の悪い男を怪我させたのは、こちらの不手際だ。それに関しては、詫びよう。
「壮絶に口の悪い男?」
――――ディム・トゥーラ
不覚にもカイルもシルビアも吹き出しかけた。世界の番人にお墨付きを食らう口の悪さとは――。
「……カイル、ディムは何をやらかしたんですか?」
「……うん、まあ、いろいろと」
――――今回の治癒はその詫びだ。癒しについての、見解はお前が正しい。聡明だな
「お褒めにあずかり、光栄です」




