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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第13章 精霊の選択

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(27)癒しの風⑥

「トゥーラ、重いよ、どいてくれ」


――かいる の 嘘つき 重さ なんか 感じてない くせに


 トゥーラに動く気配はなかった。


「どいてくれ」


――やだ


 精霊獣は甘えるようにカイルの(ひざ)を占拠していた。

 カイルは途方に暮れて、そばにいる二人に救済を求める視線を投げた。シルビアが複雑そうな顔をして敷布に腰をおろしていた。


「シルビア?」

「カイル、私の傷が治りました」

「え?」


 シルビアは傷痕が消えた両手をカイルの視線にさらした。

 カイルの顔は喜びに輝いた。


「よかった。ずっと気になっていたんだ」

「私を癒しの対象にしましたか?」

「うん?深く瞑想(めいそう)したから、あまり覚えてないなあ」

「無意識の産物ですか?」


――怪我(けが) を させた でぃむ・とぅーら に 対して (いや)し を 流す の だから 同じ 立場 の しるびあ も 受けて 当然 でしょ?


「ちょっと待ってください、トゥーラ。カイルは貴方を癒すために、ここにきたんですよね?」

「――」


 カイルは(ひざ)占拠(せんきょ)しているウールヴェを見下ろした。


「そういえば、途中からこいつのことを、すっかり忘れていた」


――ひどい


「カイル?」

「トゥーラに簡単に癒しを集められて、そのあとに、なぜかディム・トゥーラへの経路(けいろ)が視覚化したんだよね」

経路(けいろ)の視覚化?」

「まるで一本の道だったよ」

「――それで、もしかしてディム・トゥーラに癒しを送った?」

「送れたかな?」


 カイルはトゥーラに尋ねる。


――送れた よ でぃむ・とぅーら にも りーど にも 届いたよ


「ディム・トゥーラの傷も治せた?」


――うん


「よしっ!!」


 カイルは嬉しそうにガッツポーズをした。


「無邪気に喜ばないでください。これは大変なことですよ?」


 反対にシルビアは頭を(かか)えていた。


「もう、やらないでください」

「え?」

「まるで歌姫の歌じゃないですか。アドリー辺境伯を治療したときの――」

「そういえば、そうだね」

「トゥーラ、これには世界の番人が関わってますね?」


――バレた


「バレたじゃありません」


 シルビアは軽くトゥーラを叱った。


「こういうことは、カイルの安全に関わります。隠し事は絶対にダメです。カイルを危険な目に合わせたくないでしょう?」


――うん


「シルビア、どういうこと?」

「カイル、この行為が人目についたら、どういうことになると思いますか?」

「えっと……?」

「皆が奇跡を求めて貴方に群がります」

「――」

「貴方は慈善事業的に人々を癒したいと思うでしょう。でも世界の番人は違います。貴方の意図と世界の番人の意図は必ずしも一致しないのですよ?」

「――」

「このズレは治癒(ちゆ)できる存在と、そうじゃない存在を生み出します。世界の番人の恩恵(おんけい)をあずからない人々は、その不平等さを嘆き、怒るでしょう。その鉾先(ほこさき)は貴方に向けられます」


 シルビアは静かにカイルを(さと)す。


「古代史を学べば、民衆の不満が暴徒と化すことは珍しいことではありません。貴方がそれに巻き込まれれば、エトゥール王は民衆から貴方を(かば)う。貴方は国が保護する賢者なのだから。結果、エトゥール王は民衆と対立する。そんなシナリオになる可能性も大いにあるのですよ」

「シルビアだって施療院(せりょういん)をやっているじゃないか」

「前提条件が違います。あれは貧しく治療する機会もなく、病気に苦しむ貧しい人々に、最低限の治療と食事を施しているだけです。健康になれば自力で生活を切り開くのですよ。貴方の治療行為は、まさに諸刃(もろは)(つるぎ)です。奇跡を求めてやってくる人々を、大災厄を止めようとする貴方に(さば)ききれるのですか?」


 カイルは、はっと息をのんだ。シルビアの指摘は正しい。

 カイルの目的は大災厄の阻止であり、世界の番人もそうだ。それの邪魔にさえなる存在に世界の番人が手を差し伸べるわけは、なかった。


「カイル、大災厄が来たとき、私達は心が病むような命の選別を迫られるのは間違いありません。貴方の奇跡の(わざ)は、今は隠すべきです。医者らしからぬ言葉と誹りを受けようが、かまいません。貴方が失われれば、この世界は滅びるのですから、私は貴方の安全を最優先で提言します」

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