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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第13章 精霊の選択

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(26)癒しの風⑤

「癒しなんだから、怪我人(けがにん)が対象でしょう」

「話が少し()み合わないわね」


 ジェニ・ロウは子犬サイズのウールヴェを見下ろす。


「貴方が(いや)みでやっていると思ったのだけど?」


『私ではない。(いや)みって、私を何だと思っているんだ』


「世界最大級のヘタレ」


 言葉の暴力の直撃に、さらに縮みそうになるウールヴェをディム・トゥーラは(かば)うように抱き上げた。


「やめてください、ジェニ・ロウ。これ以上の彼へのダメージは、今後の進行に影響を与える」


『ディム・トゥーラ』


 庇ってくれる存在にリードは感謝の視線を投げた。


「カイルを救出した(あかつき)には、存分にどうぞ」


『……………………』


 ディムの腕の中でウールヴェは、物問いたげにエド・ロウを見た。エド・ロウは肩をすくめて見せた。


「すまない。彼はカイル・リードがからむと、やや人格に難がでる」


『喜んでいいのか、嘆くべきか困る事案だ』


「好きな方でいいと思う」


『ジェニ・ロウ。先ほども言ったように私の行為ではない。地上にいるカイル・リードがやっている。世界の番人も多少は補助をしているだろう』


 ジェニ・ロウはその言葉を吟味(ぎんみ)しているようだった。


「本当に貴方ではない?」


『私ができるなら、君に食らったダメージを自己修復していると思わないか?』


「それもそうね。でも、これがカイル・リードがやっているのも問題になるわ」

「なんだって?」


 ディム・トゥーラは、その言葉に眉をひそめた。


「どういう意味です?」

「そのまんまの意味よ。ちょっとは想像力を働かせなさい。これだけ強大な能力者を中央(セントラル)が放置すると思うの?こちらに戻れば、彼は間違いなく実験材料(モルモット)よ」

 

 ジェニ・ロウは、淡い光がとどまることなく落ちてくる部屋の天井を示した。


「これを隠蔽(いんぺい)する必要があるのだけど、もちろん協力してくれるわよね?」





――このエトゥールの癒しがディム・トゥーラに届けばいいのだけど


 そんなことを思いながら、カイルがふと目をあけるとそこは聖堂ではなかった。

 ただ白い空間が広がっていた。


――また世界の番人の精神領域に足を踏み入れたのだろうか。

 

 だが、感じる気配はあの時とまったく違った。

 耐えがたい重圧はなく、どちらかというと、西の地の禁足地に足を踏み入れた時の平穏さがあった。

 そう感じた時に、景色は一変した。


「え?」


 白い空間は一瞬にして、緑の平原が広がる西の地の禁足地にすりかわった。それは巨大画面(スクリーン)で周囲映像を変化させたような感覚だった。

 カイルは冷静に周囲の光景を観察した。


 間違いなく、カイルの記憶にある西の地の禁足地と一致していた。それは()()()()()()()()


「これは僕の記憶から抜き取ったの?」


 カイルの質問に空間が揺らいだ。

 草原の奥に、人が立っていた。カイルは既視感を覚えた。遠すぎて輪郭がぼやけていたが、あの時、のちにリードと名付けられたウールヴェを送り出した女性のように思えた。


――どういうことだろうか


 カイルは顏もよく見えない遠方の女性を見つめた。彼女は立ち止ったままだった。

 カイルは近づこうとしたが、そこには見えない境界線があり、それ以上近づけなかった。


 カイルは困り果てた。相手の意図(いと)がわからない。


 やがて、彼女がゆっくりと頭を下げた。その所作(しょさ)は、カイルもよく知っていた。最大級の敬意を表現するエトゥールの女性の礼だった。だが、それだけではなかった。

 いつのまにか彼女の背後に、何十人の男女の人影と同じ数のウールヴェがいるのが見えた。

 彼等も同じようにカイルに向かって拝礼をした。


「――」


 遥か彼方に見える彼等に、質問を発する前にカイルはそこから解放された。


 目をあけると、そこはエトゥールの聖堂の中であり、膝の上の子犬サイズだったはずのウールヴェは、元の大きさの巨大狼もどきに戻っていたが、重量を全く感じさせなかった。


――おかえり


 カイルの膝の上を占拠(せんきょ)しているウールヴェのトゥーラが呑気に挨拶をしてきた。


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