(24)癒しの風③
「こんな風に治るなら、医者――治癒師はいらないじゃないですか」
「治りませんよ?」
「…………え?」
「精霊樹の癒しは、ここまで強くはありません。痛みが和らぐとか、そんな程度です」
ファーレンシアはシルビアを見つめた。
「こんな風に精霊樹の癒しを集めるなんて、誰にもできないことです」
セオディア・メレ・エトゥールが、ちょうどカイルの専属護衛であるミナリオを執務室に呼び出している時だった。
突然、金色の光が、天井から二人に降り注ぎ始めた。光は粉雪のように尽きることなく、二人に降り落ちた。
部屋にいたメレ・エトゥールの専属護衛達が、この現象にどう対応すべきか、ざわめいた。
「気にしなくていい」
メレ・エトゥールはこともなげに言った。
「メレ・アイフェスが聖堂で祈祷しているだけだ」
「……メレ・アイフェスが、ですか?」
セオディアは、ミナリオ以外の専属護衛を執務室から、下がらせた。
「メレ・エトゥール、これはいったい――」
「ウールヴェに癒しをかけるために聖堂にこもっているが、ちょっと横道に逸れたのだろう」
「横道にそれた?」
「お前の胃の方が、癒しを必要としているからだ」
「……あ……」
ミナリオは胃を押さえた。
「そういえば、痛みは軽くなったような気がします」
「問題は、これがメレ・アイフェスの無意識な技であることだ」
「はい?」
「最初から、お前を癒しの対象にするなら聖堂に呼び出しているだろう。恐らくこんな風に、ここまで癒しが飛んでいることを、本人は気づいていない。これがコントロールされたものとは思えない。そもそも、なぜ私まで対象になるのだ?」
「……未来の義兄への祝福では」
「……面白い冗談だな」
セオディアは鼻で笑った。
「命令だ。今回のことで完治しても、療養を続けろ」
「理由をお聞きしても?」
「当初の予定通り、婚約式が終わるまで、メレ・アイフェス達を外に出したくないからだ。お前が完治したとなったら、婚約式前だろうが、出かけて騒動を背負って帰ってくるぞ」
「了解しました」
ミナリオは、メレ・エトゥールも先見に目覚めたのだろうか、と思った。
想像の内容が奇妙に具体的すぎた。
「ハーレイ」
イーレは若長を呼んだ。
「なんだ?」
「これ、何?」
キラキラと輝く光をイーレは指でさした。
ハーレイは光の軌跡を追い、空を見上げた。それは恵みの雨のように遥か上空から降り注いでいる。
「精霊の祝福だ」
「祝福?」
「気にせず、受け取っておけ。いいことだ」
「なんで、私なの?」
「知らん、ナーヤに聞いてみろ」
「気のせいかしら。ナーヤの家にも同じモノが降り注いで、いるような気がするのだけど」
「――」
イーレが指差すナーヤの家の様子を二人はしばし眺めてから、顔を見合わせた。頷き合い、二人はナーヤの元に向かった。
「ナーヤ」
「遅かったのう」
いつものようにナーヤはクコ茶を二人分入れて待っていた。
「この祝福はなんだ?」
「エトゥールから送られているが、本人は気づいてないのう」
「本人?」
「こんなことができるのは限られるじゃろう?」
「もしかしてカイル?」
察したのは、イーレだった。ナーヤは小さく笑って頷いた。
「天上のメレ・アイフェスに対する贈り物のおこぼれじゃ」
「天上のメレ・アイフェス――ディム・トゥーラ?」
「彼の者は、怪我をしたようだ」
「怪我………………あっ!!」
「思いあたることはあるかね?」
イーレはコクコクと頷いた。
「地上のシルビアがあれだけ怪我をしたのでだから、元凶のディム・トゥーラが無傷の訳は、ないわね。迂闊だったわ」
「世界の番人も後ろめたいのであろう。だから祝福に協力しておる」
「世界の番人が?」




