(23)癒しの風②
「カイルのことか?」
『彼以外に規格外がいるのかね?初耳だ』
「いないが、彼にそんな能力はない」
ディムはもう一度天井を見上げた。金色の光はまだ降り注いでいる。
再度確認のため掌で受け止めると、雪がとけるように光は手の中で消えていった。
『それはいつの話をしているのかな?』
「なんだって?」
『カイルが地上に降りてから1年以上が経過している。彼が変化していないとどうして思うのだね?』
「――」
ディム・トゥーラは、はっとして自分の手を見た。巻かれていた包帯を取ると、傷跡が金色の光を帯びており、やがて傷自体がゆっくりと薄くなっていった。
「ありえない……再生ポットに入っているわけでもないのに、こんな短時間に傷跡まで完全に修復するなど」
『本当に君達は頭が固いね。なぜ、それをありえないと思うのか――その凝り固まった先入観は、いい加減やめた方がいい』
子犬の大きさのウールヴェが指摘をする。
『そのうち、大切な物を見落とすし、成長を阻害する。自分で可能性を潰しているようなものだ』
「…………これをカイルがやっている、と言うのか?」
『癒しの力は、エトゥールの地にあるもので、カイルは君との絆を経路として、君に癒しの力を送っているんだ。彼は自分のせいで、君が大怪我をしたことにショックを受けている』
「誰が俺の怪我をしゃべったんだ?!」
『トゥーラだ』
「あのクソ馬鹿犬野郎――っ」
『犬じゃない』
「トゥーラに教えたのは誰だ?!」
『間接的に私であり、私ではない。私が縮んでしまった余波をトゥーラも食らって縮んでしまい、地上はちょっと混乱したようだ。カイルに問われてトゥーラが馬鹿正直に報告した』
「トゥーラが縮んだって?そもそも、どうして地上の様子を把握できているんだ?」
『世界の番人が同情して干渉しているのと、ウールヴェは集合意識体だからできる』
「――ちょっと待て、今、さらりととんでもないことを言わなかったか?」
『世界の番人が同情して干渉している?』
「それもとんでもないが、そのあと」
『集合意識体?』
「そこだ。集合意識体とはどういう意味なんだ?」
『君はカイルの報告を話半分に聞いていたのかね?ウールヴェが個の記憶を共有できると、カイルは報告したと思うが?』
「あれは死んだウールヴェの記憶を共有できるって話だったはずだ」
『それをどうやってしていると思ったんだね?』
「……記憶のダウンロードのようなこととか」
『悪くないセンスだ。ついでにいうと、そのダウンロードされた記憶をアップロードすることは、ウールヴェの能力――使役主に左右される』
ディム・トゥーラがそれについて深掘りしようとした時、ドアが開いて、エド夫妻が現れた。
「ちょっと、貴方達、エトゥールの癒しをばらまくのをやめてちょうだい。外部の人間に目撃されたら、どう言い訳するつもりなの?!」
突然の非難に、ディム・トゥーラとリードは意表を突かれた。
『「………………え?」』
カイルは胡座をかいて、瞑想を続けている。聖堂内の雰囲気が変わったような感覚がシルビアにはあった。
「シルビア様」
ファーレンシアがシルビアに静かに声をかける。
「両手をこちらに」
「どうかしましたか?」
「癒しの力が集まっています。もしかしたら――」
ファーレンシアはシルビアの両手を、自分の両手で包み込んだ。
包み込まれた手が金色に淡く光った。
「いったい何を――」
シルビアは、息をのんだ。急いで、最近手放すことが出来なかった手袋を脱いだ。
カイルの同調能力の暴走で、傷だらけになったはずの両手から、一切の傷が消えていた。
「……ありえません」




