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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第4章 精霊の商人
38/1015

(1)魔の森

『サイラス、右から一頭きている』


「了解」


 警告通り、右側から黒い影が飛んできた。

 サイラス・リーは飛びかかってきた黒豹(くろひょう)に似た獣を障壁(シールド)で弾き飛ばした。獣はそのまま木にぶつかり即死する。

 黒豹に似ているが、目が4つあり、尻尾も二股(ふたまた)に分かれている。サイラスは獣の死体を走査(スキャン)してデータをディム・トゥーラに転送した。


『……牙と爪に毒がある。結構、猛毒だ。気をつけろ』


「うへっ、コワイコワイ」


『面白いな、どういう進化で目が四つになるんだろう……』


「考察はまた今度で」


『しまった、移動装置(ポータル)から離れる前に、死体を転送してもらえばよかった……』


「カイルより、黒豹もどきが優先なら、移動装置(ポータル)に戻るけど?」


『そのまま、進んでくれ』


「研究馬鹿が研究より大事なものがあるなんてびっくりだよ」


『やかましい』


街道(かいどう)はこっちであってる?」


『そのまま北で、まもなく出る』


「それにしても効率が悪い。やっぱり武器が欲しいかも」


『城の中に着地するつもりだったからな。武器を持った不審者が現れたら言い訳できないだろう?』


「まあ、ねぇ……カイルには、まだ連絡つかない?」


『……全く反応がない』


「なんかあったのかねぇ。とりあえずエトゥールに向かって、合流するの一択かな」


『すまんな、こんな事態になって』


「地上の方が面白いし、クローン申請してあるから大丈夫。楽しんでいるよ」


『……イーレに毒されてないか?イテ』


 多分、イーレに頭をはたかれたな、とサイラスは笑った。

 その時、子供の悲鳴が聞こえた。




 悲鳴が聞こえた方に、気配を殺して近づいていく。馬車を囲んで男が五、六人いる。10歳ぐらいの子供が髪の毛を掴まれていた。




盗賊(とうぞく)(たぐい)かしらね。サイラス、助けなさい』


 イーレが割り込んできた。


『相手は武器をもっているぞ、気をつけろ』


 とディムが警告する。


「大丈夫、そのためにいろいろ仕込んでいるよ。試してみたいし」

 近づこうとしたサイラスは、ふと足を止めた。

「あれ?でもこれは『影響を与える干渉(かんしょう)』にあたるかな?」


『あ――』

『サイラス・リー』


 ドスのきいたイーレの声がひびく。


女子供(おんなこども)を見捨てるなら、観測ステーションに戻ったときに無事に過ごせると思うなよ』


 観測ステーションのゴッドマザーの命令は絶対だった。






 ディム・トゥーラは考え込んだ。


「サイラスの言うことは一理あるんだよな。どこまで許容範囲でどこまでが違法なんだ」

中央(セントラル)にお伺いをたてれば?」

「……(やぶ)をつついて楽しいか?」

(やぶ)(やぶ)大薮(おおやぶ)だからね。魑魅魍魎(ちみもうりょう)がわんさかでてくるわよ」

「……お伺いはやめておくよ」

「正解。過去の探査レポートでも読んでみれば?」

「――っ!何本あると思ってんだ?!」

「んー五十万本くらい?」

「それを手伝う気は?」

「ないわね」


 マイペースのイーレにディムはため息をついた。これでも、それなりに有名な研究者であるはずなのに、彼女の性格は破天荒だった。それでいて外見は、愛らしい子供の姿をしており、世の中の詐欺の代表と言える。

 だが、その助言は間違っていない。

 探査レポートを洗い出してみるのは、悪くない。例え、気が遠くなる作業だとしても――。


「行動しなければ始まらない……か」

「あら、真面目(まじめ)ね」

「イーレの座右(ざゆう)(めい)は何?」

「『中央(セントラル)は信用するな』『考えるより行動』『賢人は危うきを見ず』」

「他は?」

「『私は神』」

「……」



 全然参考にならなかった。


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