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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第3章 精霊の知恵者
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(9)閑話:大食漢のウールヴェ

 蔵書目録を手に入れたその日の夜、ミナリオはセオディア・メレ・エトゥールから執務室に呼び出しを受けた。翌日に予定されたメレ・アイフェスの執務室訪問の件についつ、かと思ったら理由は全く違った。


「変わったことは?」

「シルビア様がスリの被害にあいかけました。アイリが取り押さえましたが、おそらく護衛がついているかの確認です」

「怪我は?」

「ありません」

「……専属を増やすか」

「使用人か侍女に混ぜるのがよろしいかと思いますが、その場合一度ファーレンシア様のお付きにした方がよいと思います」

「どういう意味だ?」

「カイル様は身近な使用人の顔と名前を把握されてます。出身や生い立ち、家族構成、風習にいたるまで会話の中で自然に聞き出し、覚えていらっしゃいます。急に人数が増えれば目立ちます。それにメレ・アイフェスのお二人とも、嘘を見抜きます」

「ファーレンシアに話を通しておこう」


 セオディアは引き出しから皮袋を取り出し、ミナリオの目の前においた。


「古書購入の軍資金だ」


 皮袋に入った金貨の重みにミナリオは内心唖然とした。


「こんなに?」

「お前の実家も(うるお)っていいだろう?だが、メレ・アイフェスのために調達していることは絶対にふせろ。巻き込まれる」

「伝えておきます」

「古書は幾らでも買っていい。金が足りなければ言うように。ただし、メレ・アイフェスへの納品は一週間に一冊でとどめておけ」

「理由をおききしても?」

頻繁(ひんぱん)に与えているとキリがない」

「……大食漢のウールヴェ扱いですか」

「一度見たものは忘れない貪欲(どんよく)(かたまり)だ。そのうちエトゥールを食い尽くす」

「……これはメレ・アイフェスについての話題ですよね?」

「それ以外何がある?残りの古書は執務室に持ってくるように」

「執務室ですか」

(えさ)の在庫管理は重要だ」

「――」

「これもメレ・アイフェスの話だ」


 伝説の導師(メレ・アイフェス)がウールヴェ扱いされていて、どう反応していいかミナリオにはわからなかった。


「……餌付(えづ)けを試みていらっしゃるのですか?」

「難しいな」


 あっさりとセオディアは言った。が、試みている事実は否定しなかった。


矛盾(むじゅん)の塊だ。戦争を嫌悪するくせに、好戦的な西の民に関わるやら(つか)みどころがない。周囲は見えているのに自分には無頓着(むとんちゃく)だ。かと思うとエトゥールの問題のど真ん中にいる」

「だから精霊が言う『救い手』なのでしょうか?ファーレンシア様はなんと?」

「西の民との和議の(かぎ)だと」

「さすがに無理ではありませんか?この状況では……」


 ミナリオも保護された西の民の敵対心は知っていた。事件のためエトゥールは完全に信用を失ったに等しい。


「あのハーレイという男が条件つきとは言え、会談を承諾したのは格段の進歩だがな」


 セオディアは書類にサインしてミナリオに渡す。


「これは?」

「城の薬師に渡せば胃薬をもらえる。お前とアイリの分だ」


 ミナリオは口を軽くあけた。


「多分必要になる」


 不吉な言葉をセオディア・メレ・エトゥールは言った。





 執務室をでたミナリオは廊下でアイリに遭遇した。彼女は羊皮紙とにらめっこをしていた。


「アイリ、どうした?」

「カイル様がエトゥールの古い伝統菓子の調理方法と食材を書き起こしてくれたのだけど、香草と香辛料を使うのよ。市場にもなかなか出ない(たぐい)でね」


 ミナリオは羊皮紙を覗きこんだ。なんたるマニアックな食材だ。


「これなら実家で取り扱っているよ。必要な数量をあとで教えてくれ」

「助かるわ」


 アイリはほっとしたように喜んだ。


「お菓子づくりも大変だなあ」

「あら、楽しいわよ。シルビア様もファーレンシア様も喜んでくださるし、カイル様はこうして見つけた覚え書きをくださるし」

「カイル様も調理をなさるのか」

「しないわよ。スキレット(フライパン)を知らない人が、するわけないじゃない」

「――」

「シルビア様も同様よ。一般の厨房設備にいろいろ質問していたわ。彼等は間違いなく王族よ。そういうのに縁がない人種よ」


 アイリは力説する。


「……王族ならもう少し護衛慣れしてないかな」

「……あら、確かにそうね」


 二人は好奇心が旺盛(おうせい)でふらりと危険な裏路地に向かおうとするのだ。焦って引き止めることが幾度かあった。彼等には一般的な知識が欠落していた。


「……胃薬をもらっておくか」


 城の薬師だけではなく、実家にも依頼しておこうとミナリオはひそかに思った。


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