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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第3章 精霊の知恵者
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(3)街①

 翌日、カイル達は街へでかけた。

 セオディアとファーレンシアが案内に同行したので、当然護衛もついた。だがそんなことは気にならなかった。


 街は活気に満ち(あふ)れていた。空から見た時には、気づかなかったものが多数あった。そこは研究者にとって、魅力ある情報の宝庫だった。


 城から出ると、やや複雑な通路を降りていく。

 身分差で住居区が分かれているとセオディアが告げる。その違いはよくわかった。城の周囲は石造の背の高い建物が多く、通路を降りるに従い木造建の比率が大きくなる。おそらく貴族と平民の差であろうと推察できた。


 だが一番賑わっていたのは外壁に近い大きな広場だった。多数の天幕がはられている。

 戦勝を祝う(いち)が開かれていた。



 天幕の露天商が多数ひしめき、人が多かった。

 カイル達は目立つ髪色をフード付外套(がいとう)で隠していた。ファーレンシアも同様だ。

 セオディアはいつもの出で立ちだったので、民衆が集まりはじめていた。領主の視察として彼の登場を受け入れ、しかも歓迎していた。


 彼は民衆に好かれている、とカイルは感じた。


 領主という地位の者が民衆と対話するのは珍しいのではないのだろうか。セオディアは声をかけてくる民に、丁寧に対応しており、たまに陳情にも耳を傾けていた。

 注目はそちらに集まっているので三人は気兼ねなく露店の商品を吟味(ぎんみ)できた。


 見たこともない果物がならんでいた。ファーレンシアが小銭を払うと試食ができた。林檎の味に似ていたが、見た目は紫色の桃のようだった。

 布地や革が多数売られている。既製品を買うより自分で作ることが主流なのだとファーレンシアが教えてくれた。

 見慣れない二本角の四つ足の動物は、「馬」で戦や馬車に使われるという。


「私達の世界の馬とはちょっと違いますね」

「ディムがいたら1時間は語ってくれそうだ」


 ファーレンシアが揚げたお菓子を買って、二人に手渡した。


「……美味しい」


 シルビアの賞賛にファーレンシアは頷く。


「子供から大人にまで好まれる一般的なものです」

「砂糖があるのですね」

「甘いものがお好きなら、まだお(すす)めのものがあります」

「大好きです」


 女性達は甘味談義(かんみだんぎ)で盛り上がっている。

 カイルは楽器やおそらく楽譜であろう記号のかかれた羊皮紙をのぞきこんだ。


竪琴(ライアー)だな」


 民衆から解放されたセオディアがいつの間にか背後に立ち解説する。


「割と貴人は好む楽器だ。ファーレンシアが上手い。聞きたければ彼女に頼むといい。なかなかの腕だ」

「今度お願いしてみるよ」

「ところでシルビア嬢はエトゥールの言葉がしゃべれるようになっているようだが……」

「僕が教えた。すぐ覚えるのは僕達の特技だと思ってくれていい」

「それは(うらや)ましい」

「視察はよくするのかな?」

「市場は世相を反映する。どこの地方が不作で、どこが豊作か如実(にょじつ)にわかる。噂話も手に入る。気晴らしにもなる」


 セオディアは武器を取り扱う商人を指し示した。


「カイル殿にはこちらが必要ではないかな?西の民の件では丸腰だったときく」


 カイルは苦笑して首をふった。


「扱う自信はないなあ。僕の世界では殺人は禁忌(きんき)に近いものがある」

「なるほど、確かに精霊も血を好まない」

「僕は『精霊』とは無関係だ」


 セオディアが黙って露天商のテント上を指さす。

 赤い精霊鷹が止まっていた。



――なんでだっっっ!!



 顔を引きつらせたカイルにセオディアは笑いを噛み殺す。


「ファーレンシアが言ってた通りに本当に苦手だとは」

「苦手だ。認める。今も市場を駆け抜けて逃げだしたいほどだ」

「あちらはカイル殿に興味があるようだが」

「やめてくれ……もしかしてアレが何を考えているかわかるとか?」

「ある程度は」

「……なんて言ってる?」

頑固(がんこ)だと」


 そう言ってセオディアが笑ったので、冗談なのか真実なのかカイルには判断がつきかねた。


「何か興味のある物はないか?案内をするが」


 カイルは考えた。


「城にはない書物の(たぐい)があれば読んでみたいかもしれない」


 少し奇妙な間があった。


「そういえば、ファーレンシアがそのようなことを言ってたな。あの蔵書(ぞうしょ)を全て読んだのか」


 カイルは頷く。


「古書はあちらの方にあるが、蔵書に含まれているかは判断がつくのか?」

「大丈夫」


 しげしげとセオディアはカイルを眺めた。


「……なるほど、拉致(らち)されるわけだ」

「え?あれは人違いの拉致(らち)だろう?」


 今度の間は長かった。


「……自覚がないのも困りものだな」

「?」


 セオディアはいきなりカイルのフードを()ぎ取った。




 金色の髪が太陽に反射すると市の喧騒(けんそう)が瞬時に消えた。

 なぜ、周囲が自分を凝視(ぎょうし)するのか、カイルには解らなかった。

「メレ・アイフェス⁈」

 歓声と叫びが起こった。




――なんだ、この反応は⁈


「セオディア様!」


 護衛役の男達が即座にかけより、近づく民衆からの壁になろうとする。


「ああ、ミナリオ。そのまま、彼等を5分ほど押さえておいてくれ。まかせた」

 騒ぎにファーレンシア達も気がついて、かけよってくる。

「さて、逃げるぞ」


 誰のせいだ――っ!


 四人は大混乱の市場から脱出をはかった。


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