(2)滞在延期
移動装置が不可思議な現象で破壊された。
当事者達は目の前で発生した事象に呆然とした。
何か作為的なものをカイルは感じとった。目の片隅で精霊鷹を見たような気もする。いや、気のせいだ。絶対に気のせいだ。
「帰れなくなりましたね……」
「そうだね……」
「ディムとの賭けの勝敗判定はどうなるんでしょう……」
「シルビア、現実逃避しないで……」
「カイル様、シルビア様」
ファーレンシアが二人に駆け寄ってきた。
「兄が、とりあえず聖堂の部屋に移動することを提案していますが……」
助言に二人はのろのろと従った。現場にいても仕方がないことは明白だった。
聖堂内の部屋に案内された二人は、セオディア・メレ・エトゥールに勧められるまま、席に座る。
着席と同時に二人は重い息をついた。
「……まさかこんなことになるなんて」
「……予想外すぎます」
落ち込みがひどい有様に、ファーレンシアはおろおろと兄に救いを求める視線を投げた。
セオディア・メレ・エトゥールが、意気消沈の二人に静かに尋ねた。
「帰る手段がなくなったという理解でよろしいか?」
どんよりとカイルが頷く。
「では、お二人ともいくらでも滞在していただいて結構だ。領主として歓迎する」
救済の申し出に、シルビアの方がやや立ち直った。
「……申し訳ありません。しばらくの間、お言葉に甘えさせていただきます」
「いや恩人の滞在は嬉しく思う。ああ、そういえばもしお二方がご夫婦か近しい関係なら、同じ部屋を用意させるが――」
ファーレンシアが兄の言葉に、はっと息を飲む。そんな可能性は思いもよらなかったからだ。
「いえ、違いますので、別の部屋でお願いします」
「了解した。では女性用の階に一室、長期滞在用の貴方の部屋を準備させよう。もし欲しいものがあれば、ファーレンシアか侍女に遠慮なく申し出ていただきたい。お二人が相談できるよう、専用の談話室も用意する」
「お手数をおかけします」
「恩にむくいるには、まだまだ足りない」
シルビアは窓から見える大樹に視線をうつした。
「……つかぬことをお伺いしますが、あんな自然現象はよく?」
「いや、はじめてだ」
「……そうですか」
考え込むシルビアをセオディアは見つめた。それから妹を振り返り尋ねた。
「ファーレンシア、明日は時間があるか?」
「はい」
「客人達に街を案内しようと思う。お前もつきあうように」
街⁈
客人である二人がぴくりと反応したことをセオディアは見逃さなかった。
「街……ですか?」
「戦勝で賑わっていることだし、何か必要なものも整えられる。ちょうどいいだろう。カイル殿もずっと城内で退屈であっただろうし、せめてこの間の件で詫びをしたい。案内をするが、いかがだろうか?」
街。ずっと興味があった民衆の生活が間近で見られるのだ。カイルは興奮して思わず立ち上がった。
「行きたい、ぜひ行きたい」
「元気になったようで何より」
カイルの反応に、ふっと笑う領主は、人の気持ちをあやつることがかなり上手い。
カイルはのせられた自分を少し恥じた。
兄妹が去ったあと、カイルはシルビアに取得した言語知識をコピーして渡した。これで街の散策時に問題が生じることはないだろう。
シルビアが思い出したように尋ねる。
「なぜ、あの二人だけ最初から言語が通じるのですか?」
シルビアもカイルと同じ疑問を感じてたようだ。
「わからない。『精霊の加護』の有無かもしれないとファーレンシアは言っていたけど」
「……『精霊の加護』ですか。『精霊』ってなんです?」
カイルは首をふった。
「非物質な存在らしいが、それがどういうもので、どういう影響を与えているかよくわからないんだ。伝承の中では精霊獣が初代エトゥール王を守っていたようなんだが」
「精霊獣……獣ですか?」
「鳥だったり、獣だったり……。精霊鷹ならたまに中庭にくるよ。赤い鷹でエトゥールの守護と繁栄の象徴らしい」
「面白いですね。見てみたいです」
「僕は絶対に嫌だ」
カイルはきっぱりと拒否した。




