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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第2章 精霊の御使い
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(17)閑話:降下の決断

シルビアがどういう経緯で降りる話になったか、のネタ。

イーレが交渉した相手は後日、転属願いを出したらしい(ディム・トゥーラ談)

 カイル・リードの生存が確認された。

 なぜカイルとの思念通話が唐突に復活したのか、わからない。ただ彼の体内チップは残存数がない――それは非常に危険な状態であった。

 カイルとの接続(コンタクト)が切れた観測ステーションでは重い沈黙が流れていた。


「治療チップと再生チップを大量に送れだと?」


 ディム・トゥーラは頭をかかえた。


「しかも自分のチップまで完全消費してやがる」

「……これは現地で治療してますね」


 シルビアの推測はディムのものと一致する。

 残留組で物資の管理を担当するサイラス・リーは考えこんだ。


「とりあえずステーション中の在庫を集めてこようか。送る送らないはともかく、準備の時間は惜しいだろう?」

「頼む」


 建設的な提案は救いだった。


「蘇生チップもお願いします」


 シルビアが追加要請した。


「戦争が起こる不安定な政情なら、彼の身も危険です。治療をしまくり悪目立ちしている可能性もあります。彼は自分の安全に無頓着なところがありますから」


 確かにな、と全員が同意した。本人がいたら猛烈に抗議していたかもしれないが、カイル・リードは危険を顧みずやらかす人物だという共通認識が出来上がっていた。実際、現在進行中でやらかしているのだ。


中央(セントラル)と交渉してくるわ」

「イーレ?」

「生存確認報告と救出作戦の権限をこちらに委譲(いじょう)させるわ。カイルが望むものを準備しなさい。大丈夫、中央(セントラル)の弱みを2、3握っているの」


 ふふふ、と凶悪な笑みを浮かべてイーレは部屋を出て行く。


「……絶対イーレは敵にまわしたくないな」

「彼女、中央(セントラル)の無茶ぶりで10回死んでますからね」

「はあ?」

「彼女は11体目(イレブン)のクローン体。だから中央(セントラル)への嫌味でイーレと名乗ってます。基本、中央(セントラル)を信用していません。2、3の弱みどころか、50ぐらい握っているのではないでしょうか」

「……ありうる」


 味方なら確かに頼もしい。ふとディムはシルビアに尋ねた。


「彼女、わざと成長を止めているよな。小柄で13、4の外見だ」

「子供の外見なら地上降下の任務は無理でしょう?あれは彼女の防衛術です。彼女の心的外傷(トラウマ)は本当にひどいのですよ」

「彼女の実年齢はいったい幾つだ」

「……」


 奇妙な沈黙がおりた。


「知らない方が身のためです。カイルは正確に言い当てて彼女に殴られていました」


 (カイル)に再会したら聞いてみよう、とディム・トゥーラは思った。





 チップの準備ができたころに、イーレは本当に権限の委譲(いじょう)を勝ち取ってきた。どうやってと問うと「世の中には知らない方がいいことがいっぱいあるのよ」とイーレは言った。

 そこにいた全員が中央(セントラル)の交渉相手に深く同情をした。

 そこでシルビアが驚くべき提案をしてきた。自分がチップとともに移動装置(ポータル)でおりると。


「だめだ、俺がおりる」

「あなたはカイルとの唯一の通信装置だからダメでしょう」

「まあ、ディムはダメよね」


 イーレは即座に却下した。


命綱(いのちづな)(つな)を切ってどうするのよ」

「彼自身の治療が必要です。今の状況では医療担当の私が一番適任です」

「あの得体の知れない力で移動装置(ポータル)ごと吹き飛ばされる危険がある」

「そうでしょうか?」


 シルビアは考えを述べた。


「散々機械は破壊されましたが、有人ではまだ試していないのですよ。やってみる価値があります」

「……一理あるわねぇ……」


イーレがシルビアを見つめた。


「やってみる?」

「はい」

「イーレ!」

「どのみち誰かが移動装置(ポータル)で地上に降りなければ、カイルは永遠に地上ですよ。試すぐらいいいじゃないですか」


 ――正論だが……


「クローン体の申請はしておくから大丈夫よ」とイーレ。


 ――怖いことをさらりと言った。


「お願いします」とシルビア


 ――そっちもお願いするな!


 ディム・トゥーラに反論する余地を与えず、シルビアはあらゆる医療キットを持ち込み、サイラスの手伝いのもと、出発の準備を整えた。


「いい加減あきらめなさい。あなたは降りられないのよ」


 イーレがディム・トゥーラを(さと)す。彼だけがまだ反対していた。


「……何が起こるかわからない」

「だから何が起こるか確かめに行くのですよ。賭けをしましょうか?私は無事着地で、トゥーラは事故発生に賭けましょう」

「やめろ、不吉な」

「私が無事着地できたら、地上植物をサンプルとして持ち帰るのを許してください」


 案外そっちが本命じゃないかとディムが突っ込みたいほど、いつもの無表情とは違い笑みを浮かべてシルビアは移動装置(ポータル)を起動した。




「次の機会があれば、ぜひ地上に行ってみたいなあ」


 呑気なサイラス・リーの言葉にディムは(にら)んだ。


「だからそういう不吉なことを言うな」

「とりあえず、はるかに前進したからいいじゃないか。カイルの生存が確認できて万々歳(ばんばんざい)だろ?」

「それはそうだが、俺は女性陣の(はがね)の精神が恐ろしい」

「まあねぇ……探索(プロジェクト)の参加条件の通り、だから独身なんじゃない?」


 失言したサイラスは、イーレから強烈な蹴りを腹部に食らった。


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