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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第2章 精霊の御使い
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(11)西の民③

 ハーレイは襲撃者の衣服を裂き、手慣れた様子で縛りあげる。自殺防止のためか猿轡(さるぐつわ)も忘れない。その手際のよさに野蛮な行為とわかっていながらついつい見守ってしまう。


 それから彼は上の気配を伺った。鉄格子(てつごうし)の扉は開いたままだ。身振りで脱出するかとハーレイがきいてきたのでカイルは(うなず)いた。

 カイルは子供を、ハーレイは老人を抱えて階段を登ろうとした。

 が、急に上が騒がしくなった。多人数の気配がする。


 敵の増援か⁈


 二人は階段を登るのを(あきら)め、牢の中に戻り身を隠した。ハーレイは老人を丁寧に横たえると、暗闇の中で奪いとった剣を構え腰を落とした。カイルは足手まといにならないよう、持っていた防護壁(シールド)の金属球を密やかに起動した。


 何人かが(あかり)を持って降りてくる。


 彼等も地下牢の異常に気づいているらしく、移動はゆっくりだった。(じょう)が空いたままの鉄格子(てつごうし)の扉を警戒しながら開き、足をふみいれてきた。

 ハーレイは飛び出した。襲撃に相手も応戦の態勢をとる。

 そのときカイルは相手の鎧に入った紋章に気づいた。と、同時に近くにいるファーレンシアの思念も感じた。


「待って、彼等は味方だっ!!!」


 カイルは叫び、同士討(どうしう)ちを止めるためにその間に飛び込んだ。





 カキーンと硬いものに当たる音と一瞬の光。

 双方の刃は、カイルに当たると彼を傷つけるどころか、折れて床に転がった。

 カラカラと折れた刃が回転しながら床を(すべ)る。




――やっちまったぁぁぁぁ――――。


 カイルの周囲に自動展開された防御壁(シールド)が刃を粉砕したのだ。剣戟(けんげき)の中に飛び込んだ(おろ)かな人間が、刃を砕き無傷でいる。

 信じられない物を見たというように、誰もが凍りついている。

 同士討ちを止めるという初期目的は完璧に達成されているが、何か違う。


――やっちまったものは仕方がない。

 カイルは開き直った。


 カイルは何事もなかったかのように自分にかかった金属片を静かに手で払い、異民族を背後に(かば)う位置に立った。

 戦意がないことを示すように両手をあげ告げる。


「彼らは長くここに監禁されていただけだ。僕はカイル・リード。セオディア・メレ・エトゥールもしくはその妹姫ファーレンシア・エル・エトゥールへの身元の確認と全員の保護を要求する」


 階上から声が降ってきた。


「彼は客人であるメレ・アイフェスです。西の民にも敵意はありません。すぐに救出と手当を」

 ファーレンシア・エル・エトゥールがすべてをおさめた。





 少年と異民族五名は保護された。彼等の惨状に偏見のあるものも黙ったようだ。地下牢から丁寧に運ばれていく。

 セオディアの帰還まで城内で治療と一時的な居住を確保することになった。


「彼等に君が信頼できる護衛をつけた方がいい。偏見のない者が好ましいかな」


 ファーレンシアは(うなず)いて、指示をだした。


「救出が遅くなり申し訳ございません」

「ファーレンシアなら気づいてくれる、と期待していたんだ。ありがとう、助かったよ。よくここがわかったね?」


 ファーレンシアは微笑(ほほえ)んで、空を指差した。

 監禁場所の屋根の上に赤い鷹がいた。


「――!」


 カイルは背筋が凍った。


「彼が導いてくれましたわ」

()()が⁈」

「はい」

「……本当に()()が?」

「ええ、そうですよ」


 それからファーレンシアは笑いをこらえるように口元を手で隠した。


「精霊鳥をアレ扱いするのはカイル様ぐらいですね」

「いやいや、だって得体が知れないよ?最初に身体を奪ったことを怒っているかもしれないし、嫌味をするぐらい知性はあるし――」

「嫌味?」

「僕が子供の頭上でしたように、頭の上で三度旋回(せんかい)するんだ」


 耐えきれずファーレンシアは吹き出した。


「カイル様、愛されてますわね」

「嫌だっ! そんな愛はいらないっ! 断固拒否するっ! ――あっ!」

「どうしました?」

「すまない、君に用意してもらった長衣(ローブ)を駄目にしてしまった」

「――」


 大事件の中、瑣末(さまつ)なことを気にするカイルに、ファーレンシアは安心させるように言った。


長衣(ローブ)は滞在中、私がいくらでも用意します」

「滞在が長くなったらどうするの?」

「いろんな刺繍(ししゅう)意匠(いしょう)が楽しめますね」

「そういう問題かなあ」

「そういう問題です。それとも精霊に滞在期間について予言をもらった方がよろしいでしょうか?」

「いらない、いらないっ!絶対にいらないっ!」


 少女の悪戯っこのような表情に、カイルはようやく揶揄(からか)われたことに気づき、不覚にも笑いをもらしてしまった。

 二人はしばし見つめあい、笑い出した。




 牢から救出された西の民の男は、二人の様子をじっと見ていた。

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