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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第7章 精霊の贖罪
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(23)水場①

 カイルが怪我をしたと聞いて、セオディア・メレ・エトゥールがハーレイの村までやって来た。多忙な彼が、専属護衛と共にハーレイの家に姿を現した時、カイルは驚いてしまった。

 移動装置(ポータル)を設定したとはいえ、エトゥール王がそれを頻繁(ひんぱん)に使うとは思わなかったからだ。


「なんだ、その顔は」

「――びっくりした」

「意外に元気そうだな」

「う、うん」

「いつ頃、治る?」

「骨は繋げてもらったけど、二週間とシルビアは言っていた」

「そうか」


 彼は、カイルの身体の上で眠っている鷹に視線を落とした。赤い精霊鷹はほとんど寝て過ごしていて、身体にまかれている白い包帯が痛々しい状態だった。


「……ごめん、僕の不手際(ふてぎわ)で、エトゥールの守護精霊獣を傷つけてしまった」

「話はイーレ嬢から聞いている。気にせず静養するように」


 彼はそれ以上特に話すこともなく、古書を置いてすぐに帰ってしまった。

 カイルの側に控えていたファーレンシアは吐息をついた。


「本当に不器用ですね……」

「僕が?」

「いえ、兄が。顔を見ないと気がすまないほど、心配したのでしょう」

「メレ・エトゥールが?」

「ええ、心配したなら心配した、と素直に言えばいいものを」

「メレ・エトゥールの立場として、個人だけを特別扱いにはできないでしょ」

「ここまで、足を運んだだけでも、十分特別扱いですわ」


 メレ・エトゥールに特別扱いされる――それは何とも照れくさい話だった。(かたわら)に置かれた古書を手にする。


「……えっと、ファーレンシア、これは?」

「不器用な兄なりに考えた見舞いの品だと思います」


 ファーレンシアはくすくすと笑う。寝台から離れることを許されない身としては、ありがたい娯楽の提供だった。


 パラパラと内容を確認しようとしたカイルは、羊皮紙の紙片がはさまれていることに気づく。そこには見覚えのあるメレ・エトゥールの達筆な字で書かれていた。


『深入りせずに早くエトゥールに帰れ』


――それは明らかに手遅れだった。





 見舞いの古書は、メレ・エトゥールが所蔵する禁書の(たぐい)のようで、カイルが読んだことのない内容だった。禁書(これ)を見舞いの品として提供していいのだろうか?

 カイルは後ろめたさを感じたが、メレ・エトゥールの手伝いもせずに入手した機会を逃す手はない。すぐに読み始めた。



 それは、初代エトゥール王の時代に専属護衛であった男の手記であった。極めて個人的な内容が多い。専属護衛の覚えがきか、日記に近いかもしれない。当時の文化風習を研究するなら宝のような資料であったが、なぜ、これが禁書に分類されるのだろう、とカイルは首を傾げた。


 だがカイルは気づいた。


 専属護衛の日記と思わしき文章の中で、主人とともに何処へ行ったとか、何を求められたとか、起きた小さな事件から、初代エトゥール王の政治に渡るまで記載があった。


 カイルが注目したのは、「導師」という記述だった。


 彼が仕える主人と、その友人の「導師」の記述がたまに出てくる。そこだけ不自然に固有名詞の表記がなかった。

 固有名詞のない「導師」は、記録を残すことを許さなかったメレ・アイフェスではないだろうか?


 個人の日記までは、さすがに検閲できなかったのだろう。後世に禁書の類に指定したのも腑に落ちる。初代エトゥール王の時代の貴重な資料でもあるので遺棄せず、禁書として管理の元、残したのだ。


 彼の主人は友人の「導師」と西の地に向かっていた。あの時代に西の地と交流があったということだ。


 これが事実なら、イーレの原体(オリジナル)もエトゥールのメレ・アイフェスとして、西の地に赴いた可能性はある。そこで、賢者として過ごし、何らかの理由で死んだ。


――しまった。やはり離宮の天井画は模写しておくべきだった。


 離宮の天井画はやはり情報の宝庫だったようだ。過去のメレ・アイフェスに女性がいれば、それはイーレの原体(オリジナル)のエレン・アストライアーの可能性がある。

 まるでパズルのように、様々なところに情報が散らばっている。それを探し出していかないといけない。


――先は長いなあ。


 古書を読んでいるうちに、いつしかカイルは眠りにおちていた。


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