(5)観測ステーション②
「まてまてまて」
ディムは惑星探索の募集経緯を思いだそうとした。この研究探査の成果報酬条件はよかったのだ。顔見知りが多数参加予定だったから、新しい人間関係の構築を憂う必要もない。だからディム・トゥーラは上司であるエド・ロウから話を持ち掛けられた時、二つ返事で承諾した。
特異な条件と言えば、辺境だったため、参加は家族のいない単身者に限られた。皆、独身で例外は妻帯者であるエド・ロウぐらいだろう。参加希望者は多かったがこの条件で多数振り落とされて、選抜試験でさらに絞られた。
活動拠点となる観測ステーションはすでにあり、探査の結果しだいでは、長期滞在を強いられることだけを了承させられた記憶はある。
「――ここは初めての探索のはずだ」
「なんでそう思うの?」
「探索記録がないからだ」
「探索記録がないと初めてなの?」
「惑星探索は全て記録されるだろう。終了したら全て公開されるよう管理され――」
ディムは軽く口をあけた。考えられるのは、記録の抹消。
「……いや、そんな馬鹿な……何か証拠でもあるのか?」
「ないわよ」
ディムはがくりと脱力した。
「全部イーレの推測の範疇か」
「でもね、中央はトラブルを事前予測していたわよ」
「まさか」
「1日で惑星探索中止の結論を出すのが早すぎるの。探査で行方不明者や死亡者がでることは珍しいことではない。それは予想されている織り込み済みのリスクなのよ。それなのに、容赦なく中止になった」
「――」
「そしてもっと奇妙なのは、残留を認めたことよ。惑星探索の中止は全員撤収が原則よ」
「急な中止で各研究員の進捗を考慮してじゃないのか?」
「私も過去に多数参加して中止は経験しているけど、そんなお情けを享受したことがないわ」
「他に理由があると?」
イーレはにこりと微笑むことで肯定した。
「それならカイルが生存している可能性があるからであって――」
「どこで生存していると思う?」
可能性は一つ。ディムは指で地面を指した。
「正解」
「移動装置は使用されていない」
「そうね」
「あいつが降下する理由がない」
「そうね」
「あいつが地上にいると?」
「だって、カイルが死んでいたら、絶対に貴方はわかるでしょ?」
「――」
そうだ。納得のいかない根底の理由はそれだった。
イーレの指摘は正しい。ディム・トゥーラには自信があった。身近でカイルが死んでいたら、必ず何かを察知するはずだ。
「観測ステーションにはいない、中央にはいない――ただの消去法よ。IDすら感知できない通信妨害がある環境なんて限られるじゃない」
「だったらなぜ救援しないんだっ!」
ディムは激昂した。
「移動装置の許可さえあれば、捜索できるのに!」
「どこを?」
ぐっと返答に詰まる。
「生死も現在位置もわからずに接触禁止の文明の中でどうやって探すのよ」
追い打ちをかける正論にディムは舌打ちした。
「貴方は待っていればいいのよ。あの子は必ず貴方を呼ぶわ」
予言者のようにイーレは告げた。




