(32)絆㉜
お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。
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「あまりにも可愛いので、私も子供が欲しくなりました」
エトゥール妃の大胆な発言に、メレ・エトゥール以外の全員が驚いた。
「こんなに愛らしいのに、メレ・エトゥールは面会することができないなんて、やや理不尽な風習ですね」
シルビアの言葉にセオディア・メレ・エトゥールが苦笑を漏らす。
「生まれた赤子が健やかに育つように願う験担ぎだ。だいたい父親より先に面会したら、生涯その父親の男性に恨まれるのが想像できる」
「大げさな……」
ファーレンシアは二人の会話をきいて、微笑む。
こうやって親子の誕生の面会の儀を無事に迎えることができるということは、僥倖なのだ。
戦争や事故で夫が命を落とし、生まれた子供と面会の祝福が与えられないこともある。その場合は、血族が代行することも多い。
「ファーレンシアも一つ肩の荷が下りたな」
子供と父親を対面させることは、新米の母親の大きな責務でもあった。カイルが帰還し、子供との対面もする――今日は間違いなく吉日であった。
セオディア・メレ・エトゥールの言葉は正しい
「はい」
「私もようやく姪の顔を拝むことができる」
「将来、お義姉様と侍女達が甘やかしすぎないかと、それだけが心配です。教育と躾にご協力を」
ファーレンシアがやや憂えたように言う。
「我が妻を止めるのは難しい」
「甘やかします」
シルビアがきっぱりと宣言した。
まだ見ぬ娘が、愛されている――カイルは嬉しくなった。
そばにいるファーレンシアに確認をする。
「僕も甘やかしていい?」
「それはもう、計算に織り込み済みですわ」
「まあ、甘やかさないわけがないな」
カイルの性格を理解しているディム・トゥーラも、ぼそりと同意した。
「度がすぎる場合は、一緒に諫めてくださいませ、ディム様」
「諫めれるか自信はない」
支援追跡者はファーレンシアに対して首を振った。
「それは諫められないほど度がすぎる可能性があるという意味ですの?それとも一緒に甘やかす方に回るとか?」
後半の指摘に、ディム・トゥーラの目が泳いだことを、ファーレンシアは見逃さなかった。
その時、聖堂の扉が開いて女官長のフランカと数人の侍女達、専属護衛が入ってきた。カイルはすでに専属護衛に守られていることに驚いた。
皆が注目するフランカの腕には、籐の網籠が抱えられていた。絹糸で作られた軽いヴェールが網籠の上にかかっている。
フランカが立ち止まり誇らしげに口上を述べる。
「今日は良き日でございます。カイル・メレ・アイフェス・アドリーに、エトゥールの新たな王族の血を持つ者をご紹介できます。さあ、どうか、この愛らしい幼き姫に父としての祝福をお与えください」
フランカの後ろに侍女と女性の専属護衛達が大集結をして、いっせいにファーレンシアとカイルに頭を下げた。
「さあ、カイル様。貴方の娘です。どうかご覧ください」
カイルはドキドキと胸が高鳴った。
娘。自分とファーレンシアの子供。
自分の血をひく娘。
新たな家族。
愛する存在――。
カイルは女官長に近づき、娘との初めての交流をしようとした。
それまで侍女や女官長に愛想を振りまいていた網籠の中の乳児が、何かに怯え激しく泣き出した。まるで火傷をしたかのような泣き叫びだった。
――え?
カイルは圧を感じ、次の瞬間に凄まじい力を無防備な身体に受けた。
父娘の初対面の儀を見守っていた関係者は唖然とした。近づいた父親であるカイルの身体が、はるか後方の壁まで見えない力によって弾き飛ばされたのだ。
注視していたディム・トゥーラだけが行動できた。
壁にたたきつけられる寸前だったカイルを保護したのは、ディム・トゥーラのウールヴェで、短距離の転位でその虎の身体を壁とカイルの間に滑り込ませていた。シャトル内の事故防衛の再現でもあった。
異変はそれだけではなかった。同時に聖堂には激しい横揺れが生じていた。
フランカや侍女達はその激しい揺れに転倒した。聖堂内のほとんどの人間が同じ状態だった。立っていることができずに尻餅をつくか、床に手をつくことで激震に耐えた。
ディム・トゥーラは異常事態の元凶に向かって飛び出した。
それはほんの数秒の出来事であった。
転倒したフランカの手から籐の網籠が離れ、空を舞う。
女官長と侍女達の悲鳴があがる。
網籠が床に落ちる前に、滑り込んで受け止めたのはディム・トゥーラだった。
サイラスかアードゥルがいれば違う対処ができたかもしれない、と後々ディム・トゥーラは思った。
網籠のヴェールが舞い上がり、ディム・トゥーラはクッションの中の乳児と目があった。
瞳はエトゥールの姫と同じ澄み渡った翠だ。まだ生えそろってない髪の毛は金色――それに気を取られる前に精神的遮蔽を自分の周囲に展開した。ディム・トゥーラは全てを理解していた。
地震がぴたりとやむ。
姫が無事なことに誰もが安堵し、天上のメレ・アイフェスの行動を称賛した。
ディム・トゥーラは、息をついた。
「大丈夫だ。赤子に怪我はない。シルビア、念のため確認してくれ」
駆け寄ったシルビアが網籠ごと赤子を受け取り、ディム・トゥーラはすぐに壁際で昏倒しているカイルの様子を見に走った。
女官長や侍女達はやや呆然としていた。
あまりの事態に、ファーレンシアとセオディアも立ち尽くしていた。
カイル、0歳の娘に全力で拒絶され、全国の新米お父さんが同情するに違いない案件発生中(合掌)
あと2話ぐらいだと思います。(予定)
できれば、朝と夜の更新で明日完結したい。(希望)




