(24)絆㉔
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イーレとハーレイは、男女の関係というより、性別を超えた友情と信頼と好敵手としての絆が強かった。
イーレの原体であるエレン・アストライアーの夫であるアードゥルや過去について、ハーレイは一切問わない。イーレもハーレイの亡くなった妻子について問わない。どちらも本人が語り出した時に、聞き役に回るだけで、踏み込む領域を弁えていた。
イーレが知っているハーレイは、精霊に対する信仰心が厚く、将来には西の民を代表する氏族の長になる人物なのだ。その彼が精霊を逆恨みしていた時代があったというのは、初耳で信じ難い話ではあった。
「結局、世界の番人は道を示すけど、最終的にその道を選ぶかは、人間側に任されている――そういうことなの?」
「そうそう、そんな感じ」
カイルは手を叩いて、イーレの解答を賞賛した。
イーレはカイルを睨んだ。
「ちゃかさないで、と言ったはずよ」
「ちゃかしていないのに……」
「カイル、誤解を助長してイーレの鉄拳制裁が飛ぶ前に、自重すべきだ」
経験と観察によるイーレの支援追跡者としての若長の助言は、貴重だった。
カイルは身震いをして口を閉ざした。
「なんで、そんな周りくどいことをするのかしら」
「人間の思考能力を奪わないこと、依存を抑制すること――そんなところだろう」
ディム・トゥーラは推論を述べた。
カイルも頷いた。
「僕ですら、ナーヤのお婆様の先見の能力に依存した」
「それは大災厄を回避するためで、必要だったことじゃないの」
「そうだね。要は社会的な大義と個人の差とも言えるけど。でも未来を知って、災難を回避できる手段があれば、人は自然にそれに頼る」
「いけないこと?生存本能のなせる業とも言えるでしょ?」
「でもやがて、それを利用する人々が現れる。まあ、その点はある意味ナーヤもそうだし、彼女は同時に依存することを封じていた賢者だけどね」
「どういう風に?」
「個人の先見に代価を要求していただろう?」
「………………」
「………………」
思い当たる節があるのか、若長夫婦は黙り込んだ。
「…………確かに個人の依頼による先見は安くない……」
「…………ナーヤ婆は意外に商人ね。上手い商売だわ……」
「…………野生のウールヴェの肉で約3回分の先見だったな……」
「…………でもそれに見合った先見をくれるから、ある意味、等価交換よね?」
「…………代価をとることで、個人の依存を抑制していたと考えれば、上手いやり方だ」
「…………村の大事なことは無料だったわよ?」
「…………それが本来の占者の仕事だ」
若長夫婦の会話の内容が、占者ナーヤの偉大さと狡猾さを物語っていた。
「西の地の占者がロニオスに匹敵する知恵者兼曲者であることは納得した」
まだ地上滞在の日が浅いディム・トゥーラが結論づけたが、それは間違ってないな、と全員が思った。
「思考能力を奪う件については…………ハーレイは世界の番人の助言と言えば従うでしょ?」
カイルが静かに尋ねた。
「もちろん、従う」
「ほらね。盲目的な信仰の結果、人々は思考を放棄して従う」
「駄目なのか?相手は世界の番人だぞ?」
ハーレイはカイルの指摘に不思議そうな顔をした。
「その言葉が世界の番人の助言だとどうやって証明するの?」
「それは占者の言葉だから――」
ハーレイはカイルが何を言いたいのか、わかった。それは実際に、西の民の根本の問題でもあった。
「つまり、ナーヤのような本物の占者とそれ以外の問題だな?」
「うん」
カイルは頷いた。
「西の民の氏族ごとに占者はいるけど、世界の番人の真の審神者はそれほど多くないよね。高い地位にしがみつき、金銭の要求で私腹を肥やしている――そんな占者は皆無だって言わないでね。僕は見てきたから」
「………………」
「そして極端な話、そうやって盲目的に指導者や宗教関係者に従ったなれの果てが、カストのような国だよ。思考することを失い、自ら隷属を招いた例ともいえる。…………そういえば、進軍していたカスト軍は?」
「当然、村や街とともに消滅だ」
ディムが答える。
「そう……かなりの数だったはずだけど……」
カイルはやるせない溜息をついた。
「お前は世界の番人じゃないのだから、それを気に病む必要はない。カストの今後を気に病むのはガルース将軍の仕事だ」
「そう……だね……。ガルース将軍から何か連絡は?」
「メレ・エトゥールには何か入っているかもしれんが、俺は知らん」
「馬好き仲間なのに……」
「俺が担当している支援追跡対象者が、音信不通の行方不明になって、それどころじゃなかった」
ハリセンボン並の棘だらけの言葉の攻撃にカイルは、被弾した。




