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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
終章 エトゥールの魔導師
1005/1015

(24)絆㉔

お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。


評価ありがとうございました!

現在、更新時間は迷走中です。 面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)

 イーレとハーレイは、男女の関係というより、性別を超えた友情と信頼と好敵手(ライバル)としての(きずな)が強かった。

 イーレの原体(オリジナル)であるエレン・アストライアーの夫であるアードゥルや過去について、ハーレイは一切問わない。イーレもハーレイの亡くなった妻子(さいし)について問わない。どちらも本人が語り出した時に、聞き役に回るだけで、踏み込む領域を(わきま)えていた。


 イーレが知っているハーレイは、精霊に対する信仰心が厚く、将来には西の民を代表する氏族の(おさ)になる人物なのだ。その彼が精霊を逆恨(さかうら)みしていた時代があったというのは、初耳で信じ難い話ではあった。


「結局、世界の番人は道を示すけど、最終的にその道を選ぶかは、人間側に任されている――そういうことなの?」

「そうそう、そんな感じ」


 カイルは手を叩いて、イーレの解答を賞賛した。

 イーレはカイルを(にら)んだ。


「ちゃかさないで、と言ったはずよ」

「ちゃかしていないのに……」

「カイル、誤解を助長してイーレの鉄拳制裁(てっけんせいさい)が飛ぶ前に、自重(じちょう)すべきだ」


 経験と観察によるイーレの支援追跡者(バックアップ)としての若長の助言は、貴重だった。

 カイルは身震いをして口を閉ざした。


「なんで、そんな周りくどいことをするのかしら」

「人間の思考能力を(うば)わないこと、依存を抑制すること――そんなところだろう」


 ディム・トゥーラは推論を述べた。

 カイルも頷いた。


「僕ですら、ナーヤのお婆様の先見の能力に依存した」

「それは大災厄を回避するためで、必要だったことじゃないの」

「そうだね。要は社会的な大義と個人の差とも言えるけど。でも未来を知って、災難を回避できる手段があれば、人は自然にそれに頼る」

「いけないこと?生存本能のなせる業とも言えるでしょ?」

「でもやがて、それを利用する人々が現れる。まあ、その点はある意味ナーヤもそうだし、彼女は同時に依存することを封じていた賢者だけどね」

「どういう風に?」

「個人の先見に代価を要求していただろう?」

「………………」

「………………」


 思い当たる節があるのか、若長夫婦は黙り込んだ。


「…………確かに個人の依頼による先見は安くない……」

「…………ナーヤ婆は意外に商人ね。上手い商売だわ……」

「…………野生のウールヴェの肉で約3回分の先見だったな……」

「…………でもそれに見合った先見をくれるから、ある意味、等価交換よね?」

「…………代価をとることで、個人の依存を抑制していたと考えれば、上手いやり方だ」

「…………村の大事なことは無料だったわよ?」

「…………それが本来の占者の仕事だ」


 若長夫婦の会話の内容が、占者ナーヤの偉大さと狡猾さを物語っていた。


「西の地の占者がロニオスに匹敵する知恵者(ちえしゃ)曲者(くせもの)であることは納得した」


 まだ地上滞在の日が浅いディム・トゥーラが結論づけたが、それは間違ってないな、と全員が思った。


「思考能力を奪う件については…………ハーレイは世界の番人の助言と言えば従うでしょ?」


 カイルが静かに尋ねた。


「もちろん、従う」

「ほらね。盲目的な信仰の結果、人々は思考を放棄して従う」

「駄目なのか?相手は世界の番人だぞ?」


 ハーレイはカイルの指摘に不思議そうな顔をした。


「その言葉が世界の番人の助言だとどうやって証明するの?」

「それは占者の言葉だから――」


 ハーレイはカイルが何を言いたいのか、わかった。それは実際に、西の民の根本の問題でもあった。


「つまり、ナーヤのような本物の占者とそれ以外の問題だな?」

「うん」


 カイルは頷いた。


「西の民の氏族ごとに占者はいるけど、世界の番人の真の審神者(さにわ)はそれほど多くないよね。高い地位にしがみつき、金銭の要求で私腹を肥やしている――そんな占者は皆無だって言わないでね。()()()()()()()()

「………………」

「そして極端な話、そうやって盲目的に指導者や宗教関係者に従ったなれの果てが、カストのような国だよ。思考することを失い、自ら隷属を招いた例ともいえる。…………そういえば、進軍していたカスト軍は?」

「当然、村や街とともに消滅だ」


 ディムが答える。


「そう……かなりの数だったはずだけど……」


 カイルはやるせない溜息をついた。


「お前は世界の番人じゃないのだから、それを気に病む必要はない。カストの今後を気に病むのはガルース将軍の仕事だ」

「そう……だね……。ガルース将軍から何か連絡は?」

「メレ・エトゥールには何か入っているかもしれんが、俺は知らん」

「馬好き仲間なのに……」

「俺が担当している支援追跡(バックアップ)対象者が、音信不通の行方不明になって、それどころじゃなかった」


ハリセンボン並の棘だらけの言葉の攻撃にカイルは、被弾した。

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