(19)絆⑲
お待たせしました。本日分の更新になります。 お楽しみください。 現在、更新時間は迷走中です。
閑話とか横道にそれまくっていたら、1000話になっちゃいました。
ブックマークありがとうございました。
面白ければ、ブックマーク、評価、布教をお願いします。(拝礼)
――俺が戻らなかったら、馬を二頭残して帰還してくれていい。
ディム・トゥーラは、戻らなかったら帰るように指示していたが、残された面々は、素直に従う気はなかった。
境界線のようにディム・トゥーラが張り巡らした麻紐の外側に、ハーレイとミナリオは野営地を設けた。明らかに長期滞在を想定した作りで天幕を張っている。念のため、とイーレが二人に確認をした。
「…………貴方達、帰る気がないわね?」
「ディム様には食糧がある限り残ります、と宣言しておりますので」
しれっとミナリオは答えた。
イーレはその言葉に呆気にとられた。
「まさか、そこまで計算して答えたの?!」
「カイル様は導師達が嘘を見抜くことをよく言ってらっしゃいました。だから嘘をつくことを回避しただけです。だいたい、『わかりました』と答えたら、立場上、私は指示に従って帰還せねばなりません。メレ・アイフェスは王族に匹敵する存在ですから逆らうことはできません」
専属護衛は、とつとつと語った。
「…………そういう身分の上下関係、嫌いなのよね……命令に絶対服従とか……」
イーレがぼそりと言う。
ハーレイが笑いを噛み殺した。
「だから、エトゥールより西の地の方が気楽だろう?」
「本当にそう思うわ」
「食糧がある限り、この場で待つ――そういうことだな?」
「はい」
「狩りをすれば、携帯食料の消費を減らせるだろう。数か月はいける」
「ご協力をお願いできますか?」
「まかせておけ」
「ありがとうございます」
狩に慣れているハーレイが肉を調達し、ミナリオは森の恵みを収穫した。イーレは、クトリからの情報を元に、周辺の警戒役を担当した。
端末を扱えるのはイーレしかおらず、これは仕方がなかった。
エトゥールに待機しているクトリから、フルに周辺情報を取得できたことは幸いだった。四つ目やその他の生物の位置情報の把握は完璧だった。
ハーレイとミナリオには、耳飾りに模した通信機をもたせ、イーレは指示をとばし安全を確保した。
不思議なことに四ツ目も他の獣も、ディム・トゥーラの作った麻紐の境界線から一定距離以上、近づいてこなかった。
「これ、なんでかしらね?」
「俺にもわからん。ただウールヴェも飛んで移動できないなら、獣たちが忌避する何かがあるのだろう」
「重力波の異常を感知しているのかしら?」
「その『じゅうりょくは』がどういうものか理解できないが、異常があるならそうかもしれない。もしくは、己より強い存在とか――だな」
野生動物達が本能で回避する場所――ディム・トゥーラは大丈夫だろうか。
イーレは不安になった。
野営が5日目になるとイーレの不安はさらにつのった。
「……意外に時間がかかってるわね」
「そうだな」
状況が変わったのは、その時だった。
『ディム・トゥーラの通信が回復しました!そばまで来ています!』
クトリの報告に全員が天幕から飛び出した。
ほどなく常緑針葉樹の森の奥からディム・トゥーラ達の姿が見えた。人影は彼とアードゥルを合わせての二人分しかない。
カイルは?
カイル・リードはどうしたのだろうか?
安全帯の特殊ワイヤーを回収してディム・トゥーラ達が近づいてくるのを、待機組はやや緊張して待った。専属護衛のミナリオはカイルの姿がないことに青ざめていた。
「おかえりなさい。無事で何よりね。…………カイルは?」
ディム・トゥーラは顎でやや巨大化した自分のウールヴェを示した。
白い虎の背中には、布に包まれた人型の荷が麻縄と布紐にぐるぐるの簀巻き状態でウールヴェの背に固定されている。
それはまるで死体運搬のようだった。
「間に合わなかったの?!」
イーレはさすがに悲鳴に近い驚きの声をあげた。
「生きてる。健康そのもの。俺が殴ったから気絶した。俺に手加減する余裕がなかった」
「………………」
「………………」
「………………」
西の民の夫婦と専属護衛は、ディム・トゥーラの説明を咀嚼したあとに、そろって深い安堵の吐息をもらした。
ハーレイとミナリオは、慌ててカイルをウールヴェの背から下ろすために、麻縄と布紐を外す作業に入った。
「ややこしいことしないでよっ!!」
イーレの抗議はもっともだった。
「ややこしいこと?」
「死体を運搬してきたかと思っちゃうでしょう?!」
「死体の方がまだ可愛げがある」
「もしもし?」
ディム・トゥーラは明らかに不機嫌だった。何があったのだろうか、とイーレは訝しんだ。
「今日は、このままここに一泊しましょう。5日も音沙汰がなくて、さすがに心配したわよ」
「5日?」
「ええ、貴方が出発して5日がたっているのよ」




