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【完結】エトゥールの魔導師  作者: 阿樹弥生
第2章 精霊の御使い
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(4)観測ステーション①

 惑星探索(プロジェクト)は中止になった。中央(セントラル)にある研究都市の決定は早かった。

 原因不明の行方不明者が発生すれば、当然のことだった。カイル・リードはまだ発見されない。手がかりとなる痕跡すらもない。

 カイル・リードの死亡事故・蘇生報告が中央(セントラル)にあがっていただけに、その彼が行方不明になったことは誤魔化しようがなかった。

 

 参加研究員は中央(セントラル)への帰還か残留かの二択が与えられた。

 研究員の大半は、すぐに中央(セントラル)に帰還した。今回の事故を不気味に思った者や次の研究(プロジェクト)の当てがある者などは、すぐに用意されたシャトルで観測ステーションをあとにした。



 残った者は、真の研究馬鹿ともいえた。

 カイルが失踪前に探索入手した情報が膨大で、研究者にとっては宝の山に等しかったからだ。


 ディム・トゥーラは残務整理を口実に残留を選択した。


 エネルギー供給の最小化により、二つあった住居区の一つは完全閉鎖になり、残留者は片側への引越を余儀なくされた。ディムは自分の移動をすませると、カイル・リードの個室(コンパートメント)をおとずれた。

 ディムは床に腰をおろし、カイルの私物を仕分けて保管ボックスに放り込んで行く。

 カイルの私物は少なく、ほとんどが絵の道具だった。イーレが主張する非電脳で非効率な道具は、逆に希少でこの時代では高額なものばかりだった。これが自動処分されていたら、戻ってきたカイルが嘆くだろう。

 部屋の専用端末には、膨大な書籍情報が残されていた。中央(セントラル)図書館(ライブラリー)なみだった。

 よくもこれだけ集めたものだ――と、ディムは感心して、これも保管ボックスに放り込んだ。


 作業を続けていると、部屋に小柄な女性が現れた。


「帰らないのね」

「イーレこそ」

「帰れば他の仕事を押し付けられるじゃない」

「サボりか」

貴方(あなた)も面倒見がいいわね。カイルの私物の整理?」

「移動させないと廃棄対象になるじゃないか」

「彼が帰ってきた時のため?」

「……」


 イーレは微笑(ほほえ)みディムの頭を()めるようになでた。実際の構図は、子供が座り込む大人の頭を撫でていた。


「……見てないで手伝ってくれ」

「子供に力仕事を期待しないで」

「……俺よりはるかに年上のくせに」


 ボソっとつぶやくと今度は頭をはたかれた。これが禁句であることは周知の事実である。


「で、帰らないの?」

「……帰る気がしない」


 ディムは本音をもらした。


「俺はカイルの最後の生命綱(いのちづな)のような気がする」

「まあ、貴方(あなた)だけだったわね。あの規格外の思念波を受け止めれたのは」

「他の精神感応者(テレパシスト)が軟弱すぎるだけだ」

「貴方もカイルも世の中の平均が何か学ぶべきだわ。自分を基準にしないの」

 イーレがやんわりと(たしな)める。


「ディム、貴方(あなた)あの日わざと非番をとったわね?」


 あの日とは惑星探査の日のことに違いない。ディムは不意打ちの指摘にたじろいだ。


「あの日の探査(ダイブ)が中止になればいいと思った?」

「所長がカイルを使おうとしていることは予想していたが、あの日に探査するとは思わなかったんだ。俺に支援追跡(バックアップ)の打診すらなかった。打診しなかったくせに、手に負えなくなったから、非番の俺を呼び出したんだぞ?カイル一人に探索を押し付けやがって――」

「カイルしか成功(クリア)しなかったからしょうがないでしょ?」

「あげくの果てに()()か?!」

「そこは『カイルが心配だった』でいいと思うわよ?」

「――」


 ディムは視線をはずした。


「……こんな後味の悪い惑星探索(プロジェクト)はたくさんだ」

「私も地上に降りなくていいから行けって依頼は初めてよ」

「イーレの専門は先住民文化だったか?」

「そうよ」


 ディムは何か違和感を感じた。

 にや、とイーレは笑った。出来の悪い生徒が解答にたどりつくのを待つ教師のようだった。


「……中央(セントラル)はあの惑星にヒューマノイド型文明があることを知っていた?」

「はい、正解」


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