(4)観測ステーション①
惑星探索は中止になった。中央にある研究都市の決定は早かった。
原因不明の行方不明者が発生すれば、当然のことだった。カイル・リードはまだ発見されない。手がかりとなる痕跡すらもない。
カイル・リードの死亡事故・蘇生報告が中央にあがっていただけに、その彼が行方不明になったことは誤魔化しようがなかった。
参加研究員は中央への帰還か残留かの二択が与えられた。
研究員の大半は、すぐに中央に帰還した。今回の事故を不気味に思った者や次の研究の当てがある者などは、すぐに用意されたシャトルで観測ステーションをあとにした。
残った者は、真の研究馬鹿ともいえた。
カイルが失踪前に探索入手した情報が膨大で、研究者にとっては宝の山に等しかったからだ。
ディム・トゥーラは残務整理を口実に残留を選択した。
エネルギー供給の最小化により、二つあった住居区の一つは完全閉鎖になり、残留者は片側への引越を余儀なくされた。ディムは自分の移動をすませると、カイル・リードの個室をおとずれた。
ディムは床に腰をおろし、カイルの私物を仕分けて保管ボックスに放り込んで行く。
カイルの私物は少なく、ほとんどが絵の道具だった。イーレが主張する非電脳で非効率な道具は、逆に希少でこの時代では高額なものばかりだった。これが自動処分されていたら、戻ってきたカイルが嘆くだろう。
部屋の専用端末には、膨大な書籍情報が残されていた。中央の図書館なみだった。
よくもこれだけ集めたものだ――と、ディムは感心して、これも保管ボックスに放り込んだ。
作業を続けていると、部屋に小柄な女性が現れた。
「帰らないのね」
「イーレこそ」
「帰れば他の仕事を押し付けられるじゃない」
「サボりか」
「貴方も面倒見がいいわね。カイルの私物の整理?」
「移動させないと廃棄対象になるじゃないか」
「彼が帰ってきた時のため?」
「……」
イーレは微笑みディムの頭を褒めるようになでた。実際の構図は、子供が座り込む大人の頭を撫でていた。
「……見てないで手伝ってくれ」
「子供に力仕事を期待しないで」
「……俺よりはるかに年上のくせに」
ボソっとつぶやくと今度は頭をはたかれた。これが禁句であることは周知の事実である。
「で、帰らないの?」
「……帰る気がしない」
ディムは本音をもらした。
「俺はカイルの最後の生命綱のような気がする」
「まあ、貴方だけだったわね。あの規格外の思念波を受け止めれたのは」
「他の精神感応者が軟弱すぎるだけだ」
「貴方もカイルも世の中の平均が何か学ぶべきだわ。自分を基準にしないの」
イーレがやんわりと窘める。
「ディム、貴方あの日わざと非番をとったわね?」
あの日とは惑星探査の日のことに違いない。ディムは不意打ちの指摘にたじろいだ。
「あの日の探査が中止になればいいと思った?」
「所長がカイルを使おうとしていることは予想していたが、あの日に探査するとは思わなかったんだ。俺に支援追跡の打診すらなかった。打診しなかったくせに、手に負えなくなったから、非番の俺を呼び出したんだぞ?カイル一人に探索を押し付けやがって――」
「カイルしか成功しなかったからしょうがないでしょ?」
「あげくの果てにこれか?!」
「そこは『カイルが心配だった』でいいと思うわよ?」
「――」
ディムは視線をはずした。
「……こんな後味の悪い惑星探索はたくさんだ」
「私も地上に降りなくていいから行けって依頼は初めてよ」
「イーレの専門は先住民文化だったか?」
「そうよ」
ディムは何か違和感を感じた。
にや、とイーレは笑った。出来の悪い生徒が解答にたどりつくのを待つ教師のようだった。
「……中央はあの惑星にヒューマノイド型文明があることを知っていた?」
「はい、正解」




