04罪人
赤いモフモフです!
今回もよろしくです!
「みんな......ッ!」
シュウがそう叫んだ時、俺達は突然、謎の光に包まれた。
それがあまりにも眩しくて、俺はつい腕で眼を覆ってしまう。
そしてその直後、それはまるで何かの合図のように俺の鼓膜を震わせた。
ゴーン、ゴーン
聞き慣れた重低音が、大きく鳴り響く。
(…な!?、ここは紛れもなく始まりの街…!)
さっきまでの一面真っ白な光は見る影も無く、夜の街には松明の光しか宿っては居ない。
はじまりの街名物、ローストラビットのこおばしい香りも漂っている。
その2点から見ても、ここは疑いようなく始まりの街だ。
そんな中、俺は肝心の二人がいないことに気づく。
視線を左右にキョロキョロと動かし、急いで周囲を見渡す。
もって生まれた高身長はこういう時に便利だ。
(.....シュウとシャルはどこに…。)
二人の事を考えていると居てもたってもいられずに俺は街中を走り始めた。
ここに転移する直前、最後にあの金属音が言っていたことを思い出す。
───── 『固有スキル付与......完了。・・・コレヨリβテストヲ終了スル......終了ヲ確認。全プレイヤーニ告知.....開始。
《魔剣使い》シュウ、《死神》シャル、《錬成》レスター。
コノ三名ニヨリ、魔王ガ討伐サレタ。
ソレニヨリコレカラ【ブレード&マジック】本編ヲ開始スル。
本編デハ三回シンダラ即ゲームオーバー。現実デノ命ヲ落トス。
ログアウトハ不可能。
クリア方法ハコノ世界ニ侵略シテキタ魔物ノ王ヲ倒ス事。
最後ニ全プレイヤーヨ、検討ヲ祈ル』─────
やつが言っていたことを思い出し、俺の両肩が震え始める。
これが真実ならば俺は、いや俺たち三人はかなり厄介な立場にいる。
この声によれば、デスゲームは魔王が倒された事によって始まるように設定されていたようだ。
そしてデスゲーム開始のトリガーを引いたのが俺たち三人だ。
言わずとも分かる。俺、シュウ、シャルの命は危ない。
その時、俺の肩は後ろから軽く叩かれる。
それはまさに────
「よっ!お前も無事だったのか、レスター」
俺が振り向くと、そこには満面の笑みを浮かべた誰よりも信頼出来る仲間たちがいた。
安否を確認出来た俺は心の底から安堵したが、その感情は表に出さず心の隅にしまい込んだ。
「シュウ、シャル。お前らも無事だったのか!」
「ええ、レスターも無事で良かったわ」
「ところでレスター、気づいてるわよね?」
シャルが纏うオーラが変わる。
俺は一瞬考える。
そしてその答えは直ぐに見つかった。
「......全員ゲーム開始直後の初期装備だな」
その一言にシャルとシュウは頷く。
「そうね、その通り。私たちを含め誰もが初期装備に戻ってしまっている。だけど......」
「理由は分からないが羊を殺めた時、進化した俺たちの武器は俺たちの手元に残ってる」
シュウがそう言うと、二人はインベントリから各自の得物を取り出す。
俺はその光景を横目で見ながら、冷静に今俺たちが置かれている状況を分析し始める。
俺たちを含む周りのプレイヤーは視認した限りだと顔見知りもいる。
しかもそいつらも始まりの街で初期装備。
だが、俺たちの禍々しい武器は手元に残っている。
......ダメだ、全く思いつかない。
そしてそんな中、あの声がまた響き渡る。
俺たち三人をここ、始まりの街に転移させたあの機械音だ。
(権能【ラプラス】ノ強化プログラムヲ開始シマス。
ラプラスガ【貪ラレル希望】ヲ発動。
貪ラレル希望ノ効果ハチャンスヲ見セルト言ウ代償ニヨリ、死ニヨル獲得ヲ増大サセル効果デス。
『君達はデスゲームに招待された。
君達がラストボスエネミーを倒した事により、これからデスゲームを開始する。
君らが開放される条件はただ一つ、もう一度ラストボスエネミーを倒す事だ。
三回死んだら君らは現実からもゲームオーバー。
もがき苦しんで死に絶えろ!。
あはははははははははははははは!!!!
コレデ放送ヲ終了スル。
全プレイヤーヨ、検討ヲ祈ル)
声が聞こえなくなり、辺りに束の間の静寂が訪れた。
噴水の流れる音だけが聞こえる。
時間が流れ、周囲のざわめきが戻ってくる。
「なんのイベントだ?」
「装備が初期装備になってるぞ!?」
そんな声が聞こえる中で、誰かが大きな声で叫んだ。
「ログアウト出来ねぇじゃねぇか!?」
一瞬の静寂が訪れ、皆がログを開く。
「どうすんだよこれ!?」
「うわぁぁぁ!!!!!」
皆が叫んでいる。
「おい、武器や防具も全部無くなってるわ!」
「レベルも1じゃねぇかよ!クソが.....!」
混沌。
その一言につきる。
だが驚いたことに、そんな喧騒の中でもシャルは冷静だった。
「ここから脱出するにはラスボスを殺す必要があるらしいから…やるなら早く行こう。多分私たちは今かなり不味い状況にいる」
「あぁ。おい、シュウ!早くここから離れようぜ」
「......」
「…シュウ?」
シュウは無言ずっと下を向いている。
「シュウ!」
そう言ってシャルが肩を揺らす。
それでもシュウは呪いのように言葉を次から次へと吐き出していた。
「俺がこのゲームに誘ったから…」
「俺のせいだ…」
シュウが呟いたその一言は、俺の心に突き刺さった。
そして俺は気付く。
もし俺がラスボスの討伐に行こうと誘わなければ…。
もし俺たち3人の誰かがこのゲームをやっていなければ...。
もし俺たちがラスボスを討伐しなければ......
─── デスゲームは始まらなかった。
その事実に俺は思わず膝と両手を地に着く。
目から涙が零れ落ちる。
シャルはその様子を見て酷く困惑していた。
「二人共…?」
「ごめん…シャル」
「償わないと…」
シャルが息を呑む。
俺たちの間に束の間の静寂が訪れる。
その時、俺の耳に入ってきたのは遠くで俺たち3人を探す一部のプレイヤー達の叫び声だった。
「このデスゲームを始めたクソ野郎共を探せ!」
「クソ野郎共を許すな!!」
「見つけ次第殺してやれぇ」
「殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せえぇぇぇ!」
その言葉は俺たち3人を心の底から凍らせた。
ここから早く離れよう。
俺はシュウとシャルと見つめ合う。
まだ俺たちとバレてない。
なら脱出してゲームクリアを目指そ......
「トップランカーの【A-inukawaii】から新情報だ、心して聞けっ!今日ラスボスを倒しに行く事を宣言していたのは世界ランキング二位、【魔剣使い】シュウとそのパーティーだ!」
その声は始まりの街中を響き渡った。
俺は周囲を見渡す。
大丈夫だ。
幸いなことに、俺たち3人は顔バレしていない。
ピコンッ!
同時に響き渡るメール受信の音。
俺は思わず身構える。
俺は直感していた。
今全プレイヤーへと送られたメールの中には俺、シュウ、そしてシャルの顔の画像でも貼り付けてあったのではないか。
広場にいる全プレイヤーは一斉に届いたメールを確認し始める。
俺たち3人もメインメニューから受信箱を確認した。
そして俺たちは呼吸する事さえ忘れ、震え出した。
案の定、そのメールには俺たちがいた。
「…おまえらのせいだ!」
そう誰かが言って俺達は責められる。
「お前らが居なければ!」
「お前らのせいで!」
皆が口々に言う。
「や、やめなよ」
シャルはそう言う。
「いいんだよ、シャル」
シュウがそう言って1歩ずつプレイヤー達の元へと向かった。
シャルは意味が分からないと呆然としている。
でも俺は気づいていた。
シュウは俺とシャルの分まで恨みを負うつもりだと。
だから俺も1歩踏み出す。
俺達は剣で刺されにいく。
俺達のHPバーのゲージが徐々にゼロへと向かっていく。
俺は最後に周囲を見渡した。
シャルが何かを叫んでいる。
「地獄に落ちろよこのクソがぁ!」
ジジッ、俺を脳が焼けるような痛みが襲う。
視界が横転する。
自分の視界が赤黒い血で染まる。
こうして俺の意識は暗転した。