虎の子・ショートミステリー「指」
あるところにたった一つのことだけを除けば、
きわめて平凡であるといえる少女がいた。
彼女の指は勝手に動く。
しかも勝手に動き始めて動かなくなったちょっと後まで、
まったくその指で痛みを感じないのだった。
割と鈍感な彼女自身はそれを「不思議だなぁ」なんて思っていた。
ある時はギャグ漫画をめくり、
痙攣してるみたいな動きをしていた。
「(笑ってるの?)」
悲しい系のドラマを見ていた時は、
やっぱり痙攣してるみたいな動きをしていた。
「(…泣いてるの?)」
そんな感情豊かな指である、
彼女は少々愛着を覚えていた。
別れというのはいつも突然やってくる。
夜道を歩いていると、
彼女は前方に不審な影を見た。
「(目を合わさずサッサと通り過ぎちゃおう…)」
だが、彼は突然襲ってきた。
「イヤ、離して!!」
そんなとき、彼女の指は彼の両目を突いた。
「ウオォォォォォ」
「(これはチャンス!!)」
すぐさま逃げようとした瞬間、
男はなにか光るものを振り回した。
だが彼女は何も感じなかったため、
そのまま家まで逃げた。
それに気づいたのは、
ドアのカギを開けようとしたときだった。
「(何、コレ……血!?)」
そう、彼女の手は血だらけだった。
そして傷は明らかに彼女の勝手に動くほうの指にあった。
しかし痛みは全くない。
それどころか血はどんどん乾き、
傷も何事もなかったかのように消えた。
「(この指、本当に不思議だわ…)」
彼女は指をつねってみた。
「痛ッ!!
(切られた時には何ともなかったのに何で?
もしかして…死んじゃったの、
私の指になっていたものが。
いままで痛みを感じなかったのは、
君がその痛みを受けていたから?
…なんで私を護ってくれたの?
もう一度勝手に動かないかな。
すっごいおもしろいお笑い番組が、
今日あるんだよ?)」
人は理解の枠から外れた事象を目にした時、
それを"不思議"と呼ぶ。
それには人間のいろんな感情が関わっている。
愛情、恐怖、尊敬…
もしもあなたも不思議を持っていたら、
ちょっとだけ考えてみてください。
どんな気持ちですか?