試されるもの⑨ ~問1の答え~
響くチャイムの音は長く辛い補習の時間の終わりを教える。
「じゃ、今回の補習はここで終わりだな」
珍しく黒板には自習以外の文字が埋まっており、ライラ先生も指先についたチョークの粉を簡単に払っていた。
毎度の事ながら、軽々しく補習受ければ良いんですよねーとかほざいていた自分を殴りたい。禁呪が世界が無くならなかった理由がわかる、今なら過去の自分を全力で殴りつけられるのだから。
「あーしんどかった……」
いや別に授業自体は良いんだ、ライラ先生の説明はわかりやすい。けれど休みの日に本来寝ている時間に制服に着替えて、あまつさえ筆を走らせるなどという行為は到底正気ではいられなかった。まぁ一言で言うとめっちゃ疲れた。
「あのなアルフレッド、これが普通の授業だからな」
ちなみにイヴもエルも俺の横で机に伏してぐったりしていた。そうだよなこの二人、自分から話すのは得意だろうけど人の話を黙って聞けるような性格じゃないよな。
「先生、俺Fランクで良かったです」
「私はお前がFランクじゃないほうが良かったよ」
毎日これだとキツイな、うん。やっぱり基本自習が良いわ俺は。勉強してないけどさ。
「あー腹減った……アルゥ、何か食いに行こうぜ……」
「いいねー」
腹の虫を鳴らしながら、エルがそんな事を言い出す。まぁ折角昼から休みなのだ、近くのレストランに行くのも良いだろう。彼女の食事量を考えるとあんまり高い所は行けないが、幸い学生街だ安くて量の多い店は山ほどある。
「ふっ、そんなヤモリの餌など虫で良いだろう……それよりアルフレッドよ、妾とともに優雅なランチを」
「イヴも一緒に行く?」
「いくぅ! しゅきいっ!」
まぁ一人だけ置いておくのもな。結局今回の試験で二人が仲良くなる事は無かったが、せめて今日の昼食で親交を深めてくれれば良いんだが。
「あ、待てお前ら」
と、席を立った所でライラ先生に呼び止められる。人差し指で頬を掻きながら、何やら時計を気にしている。
「なんですか?」
「いや、アイツらとの約束あるだろ」
「あーじゃあ皆も誘って」
「そうじゃなくてだな……」
頭を掻きながら、何か言いたそうなライラ先生。何だろうこれから予定でもあるのだろうか。
「あ、ライラ先生! 補習終わりましたかっ!?」
と、ここで息を切らしたディアナが教室の扉を勢いよく開けた。髪も少し乱れているあたり、どこからか走ってきたのだろう。
「遅いぞディアナ、こいつら帰るところだったぞ」
「ごめんなさい、準備に手間取っちゃって」
「準備?」
そう聞き返せば、ライラ先生はため息をつきディアナは笑顔を返してくれた。
「ふふっ、今日は先生に無理言って、空き教室を一つ貸してもらったんです」
「何で?」
「何でって……アルフレッド、お前授業受けていただろ」
授業? 空き教室? ダメだ何の話をしてるか見当もつかない。
「あー、そう言えば今日だったな」
「全く、流石にどうかと思うぞアルフレッドよ……一問目に書いてあったろうに」
一問目、何の話だ……えーっと、今回の試験かな?
「ではアルくん、問一です。大賢者アルフレッドの生没年月日はいつでしょうか?」
「それは」
「まぁまぁ答えは……こっちですから!」
今日取ったノートを見る前に、ディアナが俺の手を引っ張っていく。そのまま階段を一つ登って、空き教室の扉を開ければ。
「誕生日……おめでとう!」
聞こえてきたのはクラッカーの破裂音。殺風景な筈の教室には色とりどりの飾り付けがされており、机の上には大きなケーキやご馳走が並んでいた。
「あー……誕生日?」
そういう事になるのか? 確かにこの時期に生まれたけれど、正確な日付までは知らなかったんだよな。
「そうだぞアル、お前の誕生日今日だってさっき習っただろ。7月4日な」
「はぁ、アホなとこもしゅきいっ……」
「全く、どうして君は自分の誕生日で間違えるかな。常識だろう?」
「そうですよ、そこ間違えるなんてビックリしました」
「子供でも知ってる事」
「ちなみに我の誕生日は4月7日」
勝手な事を言い出すクラスメイト達。これが正確かどうかなんてわからないけれど、彼らに囲まれた今日がそれでいいように思えた。
「ったく、あんまり騒ぐなよ」
「何を言うんですか、ライラ先生も一緒ですよ? 今日はタバコじゃなくてケーキの蝋燭に火を付けてもらうんですから」
一瞬面食らった先生だったが、すぐにケーキに刺さった十六本の蝋燭に火を付けてくれた。鳴り止む手拍子の中、その火を消すのは少し恥ずかしかったけれど。
「みんな……ありがとう」
照れながら漏れた一言は、嘘偽りの無い本心だった。
『Fラン生徒は元大賢者~先生! 召喚魔法で魔王が来たので早退してもいいですか?~』は本日7月4日発売です。




