試されるもの⑤ ~600年ぶりの散歩を~
とりあえず本屋から帰宅して夕食を済ませた俺はベッドに寝転びながら今日の戦利品を眺めていた。ちなみにいつも煩いエルとイヴも勉強に励んでいるあたり、結構な緊急事態だ。
教えて大賢者アルフレッドちゃんシリーズは店員さんのおすすめというだけあってわかりやすい。むしろ美少女になっているおかげで他人事のように感じられるのは幸いだろう。
それに覚えていない事の方が多い。叡智だか記憶だかの欠片のおかげでそれなりに思い出して来ているものの、全て思い出せた訳じゃない。だからページを捲るたびに新しい発見がある。
もっとも一番驚くのは、何かあるたびにアルフレッドちゃんの服が破ける所だが。そりゃ売れるわエロ本。
とまぁそれなりに勉強は捗ったものの、俺の集中力もそろそろ品切れ。窓の外に目をやれば丁度夜空が綺麗だったので、気分転換の散歩に出かける事にした。
夜空を見上げながら、こっそり校門をよじ登る。学生街を歩いても良かったけれど、あそこはちょっと誘惑が多すぎる。それに夜の学校というのも一度見てみたかったのだから仕方ないね。ちなみに職員室の明かりは消えているのは確認済みだ。バレたらまた生徒指導室に押し込められるからな。
「さて、どこ行こうかな」
校舎の中を見て回るのはやめておこう。折角星空が綺麗なので、中庭か屋上あたりが妥当だろう。となると行ったことのない屋上辺りが。
「おやアルフレッド様、忘れ物ですか?」
「えっ!?」
老いた男性の声に驚き、思わず振り返る。誰もいない。まさかこれが学校の不思議とかいう、じゃなくて。
「何だお前か……驚かせるなよ」
学園長が足元にいた。そりゃいるか、こいつの犬小屋もともとここにあったのだから。
「それはこっちの台詞ですよ。用もないのに夜の学校に忍び込むなんて……本来なら指導が入りますよ?」
「悪い悪い、そこを何とか」
両手を合わせて頭を下げる。そこまで悪いとは思ってないものの、ライラ先生に絞られるのは避けたい所。
「全く、仕方ないですね……ですが見逃すわけにもいけません、学園長ですからね」
ため息交じりに答える学園長。そんな事を言いながらも尻尾は激しく動いている。
「まぁ今日は……散歩で許してあげましょうか」
そう言って学園長は、数歩前に歩いて進む。それから止まって振り返り、一言だけ付け加える。
「六百年ぶりの、ね」
苦笑いしか返せないような、特大の皮肉を一つ。
「どうですかアルフレッド様、お望みの学園生活は」
「そうだね、楽しいよ」
星空の下、懐かしい後ろ姿を追いかける。故郷の景色は変わったけれど、そうじゃないものが確かにあった。
「それは何より……この学園を作った甲斐があるというものです」
「まぁ、試験が無かったらだけどさ」
大きく頷く相棒に冗談を一つ返す。笑い声でも返ってくるかと思ったが、聞こえてきたのはため息一つ。
「全く、入試も受けてない人が言いますか」
「え? 受けたような」
あれ、受けたよな俺。えーっと確か、うん試験内容は何となく覚えてる気がするんだけどな。
「あなたという人は……どの辺りから覚えてますか?」
「えーっと……はっきり覚えてるのはクラス分けの日だったかな。それより前は田舎にいて入試受けてここに来て……って田舎はここか」
生まれる矛盾。ここでいう田舎というのは、六百年前のこの場所であるディアックという村だ。そして学園があるのは現在のディアック。つまり田舎からここに来た、という記憶自体おかしな事になってしまう。
「あれ、どういう事だ?」
俺の記憶だと田舎からここに試験を受けて、合格通知を貰ってここに戻って、となっている。六百年越しの受験、な訳ないよね。
「答えから言いますと、あなたがここに来たのはそのクラス分けの日からですよ」
「本当?」
「嘘ついてどうしますか。大方あなたの事ですから、偽の記憶の保険でもかけていたのでしょう」
相棒の話が本当なら、あのディアナと出会った瞬間が俺が邪神を倒してこっちに戻ってきたという事になる。という事はそれより以前の記憶は俺が捏造したもの……という事になるのか。もっともその記憶は俺の頭には残ってないが。
「ん、じゃあ俺が点数悪くてFランクってのは?」
「あなたが来たらそういう風にするのは決めていましたから。全くあの日は忙しくて……」
「はいはい、悪かったよ突然でさ」
今更クラス分けに文句を言うつもりはないので、手をひらひらさせながら悪びれずに答えた。
「そう思うなら、今回の試験ぐらい観念して受けて下さい」
「肝に命じておきます」
そう言って頭を下げながらも、また生まれる新たな疑問。まぁ今回のはどっちかというと文句だけどさ。
「にしても、あの試験問題はどういう事? 何か俺の事ばっかりだけど」
いまいち頭に入らないというか、背中が痒くなるというか。
「ああ、あれですか。私が作っているんですよ、楽しいでしょう?」
「本人にやらせるとか悪趣味かよ……それに身に覚えがない事も多いし」
「あれはですね、私の趣味なんですよ。学力調査なんて方便でして」
とんだ職権乱用だなこのスケベ犬め。
「言い切るなぁ、でも何で俺ばっかり」
「アルフレッド様、今の世の中は平和そのものです。この間みたいな事は……ありましたが」
「だね」
肩を竦めて同意する。殺した殺されたなんて事は無い、それなりに平和な日常。
「けれど、それを作った人がいます。それを維持しようと、戦い続けた人がいます……それをね、覚えていて欲しいんです。武器の代わりにペンを握る、学生達にね」
「そっか」
「ええ」
特別な事は言わない。ただ俺は背伸びをしてから、少しだけ季節がズレた星空を見上げながら。
「なら今度の試験は」
きっと今この瞬間は、沢山の人が築いたのだろう。けれどもその殆どは、記録にすら残らない。
だからこれは、うっかり名前を残した者の責務だ。まぁ美少女なんかにさせられたけど、それぐらいは笑い飛ばして。
「……少しは頑張らないとな」
活動報告でキャラクターラフ公開中!今日はディアナとインドの人です。
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