試されるもの④ ~教えて大賢者アルフレッドちゃん~
放課後、黙々と自習を続けるクラスメイト達を尻目に向かった先は学生街にある本屋だった。学術書や専門書だけでなく、学生向けの娯楽本も数多く取り揃えている。故郷にこんな立派な店は無かったので、棚を埋め尽くす沢山の本を見ているだけで結構な時間を潰せる。
あ、そういや故郷かここ。変わったよなぁ。
「いらっしゃい、何かお探しかい?」
と、適当な本を手に取っていると店員らしき男性に声をかけられた。らしき、というのは彼の風貌が接客に向いていないように思えたからだ。サンダルに短パン、それから黒い半袖のシャツに申し訳程度のエプロン。髪は男性にしては長髪で、額にはバンダナなんて巻いてる。
「あ、はい……今度の試験向けのわかりやすい解説本? みたいな物ってありますか?」
「今度の試験というとこの時期だから……あ、学力調査?」
少しだけ頭を捻ってから、彼の口から出てきた正解。流石フェルバン御用達、というかもしかして。
「よくご存知ですね、卒業生とか……ですか?」
「まぁね! といっても俺は落ちこぼれのEランク、凋落科だったけどね。おかげで実家の本屋をこうして継いでいるって訳さ」
正解だったらしい。でも自称落ちこぼれでEランクか、現実を思い知らされるなぁ。
「へ、へぇ……」
「しかし学力調査の試験対策か……あ、君もしかして」
心臓が跳ねる。もしかして俺、どこかにFランクの馬鹿ですって書いてた? 無いよねそんな事。
「えっ!?」
「内申点狙い?」
したり顔で店員さんがそんな事を言い出す。そうか内申欲しい人はこういう所で稼ぐのか、俺には程遠い話だけど。
「ま、まぁそんなとこですね……」
頭を掻きながら答える。そういう事にしておこう、うん。
「いやーそうかそうか、成績には関係ないとか言って、思いっきり評価基準に入れるからねあそこの先生方! いやいいよ、正しいと思うよー」
「そうですね、正しいっすよね」
若干心が痛いので、余計に本を買っておこうと誓った。
「まぁ学校の図書館にもあるんだろうけどさ、たかが学力調査の勉強したって知られたら恥ずかしいもんな!」
「あ、あはははは……」
すいませんたかが学力調査で命掛かってて。
「よし任せておきなさい、卒業生らしく良い本探してあげようじゃないか!」
「お願いします!」
頭を下げると店員さんが手近な本棚を物色しはじめてくれた。しかしその手が中々伸びる事はない。
「といってもね、殆ど大賢者アルフレッドについての歴史なんだよなあの試験って……雑学っぽい感じだけど」
「過去問見た感じそうでしたね」
ビッチ先輩から貰った過去問も概ねそんな内容だった。やれどこで誰と戦ったとかやれ何をしたのはいつかとか。
「ま、フェルバンは大賢者の生まれ故郷にある学校だからね。ここに通うならそれぐらいわかっておきなさい、って話だ」
「へ、へぇー……」
ちなみに本人はご存じない模様。
「となると、この辺だな」
ようやく店員さんが手渡してくれた本は、成程確かに読みやすそうな本だった。
「あ、表紙可愛い女の子だ」
黒いローブを羽織って、というか殆どうちの制服に身を包んだ可愛い女の子が表紙に描かれていた。黒い長髪の女の子で、可愛い杖なんか持っていたり。
「ああ、その子は」
そしてタイトル。本の題名について何だけど。
「大賢者アルフレッドちゃんだね」
教えて大賢者アルフレッドちゃんシリーズ、と書いてあった。
「は?」
え? 誰だってこの美少女が。
「知らない? 教えて大賢者ちゃんシリーズ。美少女大賢者のアルフレッドちゃんがね、わかりやすーく解説してくれるシリーズ。人気だよ?」
「えぇ……」
なにこれ、俺なの? いや流石に俺が男性だって記録は残ってるだろ、流石にそれぐらい知ってるけど、え、美少女大賢者? 何があったのこの六百年間に、何で美少女になってるの?
「わかる、わかるよ」
という俺の戸惑いを察してくれたのか、店員さんが俺の肩を叩いてうんうんと頷いてくれた。そうか腐ってもここは俺の出身地、あまりに違う偉人造に腹を立ててる人だっているんだろう。
「最初はこういうのって恥ずかしいよな!」
いなかったわ。
「いや何か、恥ずかしいっていうか」
どういう感情抱いていいかわからないというか。と、また察してくれたのか耳打ちしてくれる店員さん。
「まぁここだけの話」
「話?」
「アルフレッドちゃんの非公式なエロ本、めっちゃ良いの多いんだよ! これで勉強した後に読むとさ、めっちゃ捗るんだってば!」
「え、えぇ……」
何がここだけの話だこの野郎、俺が一番聞きたくない情報提供してくれちゃってまぁ。
「わかる、わかるよ」
嘘つけ全くわかってないでしょこの人。
「こういう本買うの恥ずかしいよな……でもさ、ここだけの話」
やめてもう聞きたくないんですけど。
「アルフレッドちゃんのエロ本、うちの本屋が世界で一番売れてるんだよ! な、これ地味って凄くね!?」
地味にキツい事実を突き付けられる。何、うちの男子生徒ほとんどアルフレッドちゃんのエロ本持ってるの? 何しに学校行ってるの?
「は、はぁ凄いですね……」
明日から凄い学校行きたくなくなってきた。
「いやーやっぱりフェルバン通っちゃうくらいこじらせる人達は一味違うね!」
「こじらせ……」
俺もなんかこじらせそうになりそう。主に憎悪とか嫌悪感とか。
「まぁ試験対策ならそれで良いと思うよ? 今ならエロ本つけてあげっから」
ため息を一つついて、改めて教えて大賢者アルフレッドちゃんシリーズを開いてみる。ほとんど絵だから見やすいし、今度の試験には丁度良さそうなのは確かだ。
「じゃあとりあえず」
というわけで。
「エロ本以外下さい」
しばらくここに出入りする男子生徒とは距離を置こうと心に誓った。
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