試されるもの③ ~教えてチョロチョロビッチ先輩~
自習時間。俺達Fランクが過ごす日常は朝のホームルームを境に一変した。教室に響くのはペンを走らせ教科書を捲る音とファリンの寝言。良かったまだ日常残ってた。
「あのさ、エル」
「悪いアル、黙っててくれ」
エル、何やらノートに書き込んでいる。何を? とは聞けそうな雰囲気はどこにもない。
「イヴ?」
「アルフレッドよ、妾の愛は後日たーっぷり与えてやるからな」
イヴは腕を組みながら瞑想らしき雰囲気を醸し出している。いや待てよ、クロード先生を吸収したならその辺もしかして最強なんじゃないか?
「ディアナ」
「え? アルくんそうですね、やっぱり夜景の見えるレストランが良いですよね……」
ディアナは俺の呼びかけに答えているようで全く答えてないですね。ヨダレ垂らしてますね、何考えてるんだろう怖いなぁ。
「シ」
「スジャータ……君への愛を友に語れる喜びを今すぐ伝えたい」
こわい。
「エミリーは」
「フハハハハッ! 勉強の仕方がわからないいっ!」
やったぜ補習一人は免れそうだ。
「ファリンは睡眠学習か」
「これが最効率……とても効率が良い……」
教科書を枕にして、ファリンが寝言を呟いた。でもファリンって入試で筆記の点数ほぼ満点だったんだよな、怖いな劇薬の整理。
「勉強かぁ」
そこで俺は思い出す、自分の半生という奴を。羊を追って寝て羊を追って、何かの理由で大賢者になって詐欺師まがいのやり口で人間に魔法を広めて、邪神ことイヴと戦ってこの学校に入学して。
「した記憶が……ないな!」
勉強した事なかったわ俺、駄目だわ大賢者とか名前負けも良いところだわ。
「とりあえず詳しそうな人に聞くか」
というわけで素直に教えを受けに行こう。ライラ先生、ではなくもっと身近で頭の良さそうな人にだけど。
昼休み、昼食の弁当を急いで胃袋に流し込んだ俺はある場所に来ていた。ここに来ればあの人に会えるというのは、ここ最近生徒の間では有名な話だったから。
「ビッチ先輩! 勉強ってどうすれば良いんですか!」
はい、というわけで困った時のチョロチョロビッチ先輩。生徒会にはひどい目に合わされたからこれぐらい良いだろう、うん。
「うわビックリしたわね」
忙しそうにサンドイッチ片手で書類仕事をしていたビッチ先輩もといビッチ新生徒会長が地味に驚いた声を上げる。それから俺を睨むなり、一際大きなため息をついた。
「はぁ、勉強? あんたが?」
「今度の試験で勉強しないと死んじゃうので……」
ごもっともな意見ですが、死ぬよりはマシなので。
「今度の……ああ、学力調査の事ね。あんなもん勉強しなくても余裕よ余裕、一般教養みたいな」
手をひらひらさせながら、得意げな顔で説明してくれたビッチ先輩だったが最後の最後で言葉を詰まらせる。
「あんたはそれが心配ね」
「はい、俺もそう思います」
何せこの世界は六百年ぶりですので。
「仕方ないわね、過去問が確か……あったわ、ほらこれよ。笑っちゃうぐらい簡単でしょう?」
流石面倒見の良いビッチ先輩、適当な棚をあさって一枚の紙を俺に突き付けてくれた。頭を小さく下げながらそれを受け取れば、一番上にはフェルバン共通学力調査試験、と書かれてあった。
「ははっ、そうですね」
俺も思わず笑ってしまった。理由はもちろん、一問目からよくわからないからである。なになに、大賢者アルフレッドが人類を率いて魔王軍に勝利したのは何年の何月でしょうか? いや勝利してないんですけど事実と違うんですけどこれ。
「ちなみに何で死ぬのよ、そんな試験ごときで」
「いやぁ、それが一位だった人が俺の事一日自由に出来るみたいで」
「へぇ、丁度いいわね。私が一位だったらアンタに面倒事でも押し付けようかしら」
「勘弁して下さい」
にやけた顔でそんな事を言い出すので、反射的に頭を下げる俺。この人の頼みってだけでロクな事にならなさそうだもんなぁ。
「冗談よ。けれどその過去問は貸し一つだから覚えておきなさい」
「善処します」
というわけで生徒会室を後にする。きっとこの借りは絶対に返さないだろうなと薄々自分で気づきながら。




