#0 プロローグ
日本人。
死んだこと以外で思い出せる自分のことはこれだけ。
なぜ死んだのかもわからない。
ここは死後の世界だろうか?
体の感覚もなく、何も見えなければ、何も聞こえない。
自分のことは思い出せないが記憶は残っている。
富士山もわかるし、コンビニの弁当の味もパソコンの使い方もわかる、記憶にある景色や知識を引っ張り出して妄想できるのが唯一の救いだろう。
いつも通り妄想に勤しむとするか――
「あら?珍しい魂ね、どの世界の魂かしら」
声が聞こえた。
「日本人なのね、ねえ君!!よかったら私と一緒についてこない?」
どれくらいの時間が経っただろう…。
死んでから初めて聞く声はまるで鈴のように透き通った少女の声で、今、自分をここから連れ出そうとしてくれているのだろうか。
いきたい…こんなところにいるのはもうこりごりだ。
だが、自分には返事の仕方がわからない。
どうにか伝えられないか…
「ありがとう!ついてきて!」
心でも読んだのだろうか?
すると突然、渦に吸い込まれるような感覚に襲われる。
死んでから初めてのことばかりで良いこと尽くめだ。急に睡魔が襲ってきた。
この珍しい体験を奪われてたまるか、抵抗してみたものの努力もむなしく意識が途絶える。