表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

夏の残響

作者: 瀬名才人

夏のホラー2018用に短編に書き直しました。


カナカナカナカナカナ……

カナカナカナカナカナ……

 ひぐらしが鳴いている。今も昔もこの鳴き声は変わらない。エアコンが効いた部屋で、昼間からお酒を嗜む贅沢。グラスの中で氷が融け、からりと音を立てて動く。


【地球寒冷化説 VS 地球温暖化説】とテレビの中で学者が討論をしているが、日本は今年も連日記録的な猛暑に襲われていた。チャンネルを変えると【心霊スポット巡り】と言う安易な企画番組に目が止まった。僕は空いたグラスにお酒を注ぎたした。


 夏になると肝試しをやろうと言い出す奴が必ずいる。 

 大人しくしている霊を刺激するのは、どうかと思う。 

 別に怖いからってびびっている訳では無い。 

 僕は毎年、高校時代を思い出しながら、この話をする。人間は一度、怖い目に会わないと反省しないから…… 

 


☆☆☆☆☆


ひぐらしが鳴く季節。案の定、誰かが言い出した。

その日の夜、男子二名、女子二名で肝試しを行う事になった。


 僕たちは自転車を止めて山道を進んだ。坂道を登って来たので汗だくになっていた。山の中だと言うのに夏の夜の空気は生温かった。山の道は、コンクリートで完全に舗装されている訳では無い、石が規則的に並べられた半舗装と言ったところだろう。歩きにくい坂道を登りきると、大きな広場があり薄汚れた公衆トイレが、壊れた外灯の点滅した光に照らされ出たり消えたりしていた。色褪せた看板にこう書かれていた。


【告 この先関係者以外、立ち入り禁止】


 

 僕達4人は『化けトン』の前に立っていた。 

『化けトン』とは、お化けトンネルの略だ。 


大正から明治時代にかけて作られた。全長は一キロ程で内部の壁には赤レンガが使われ、大正明治時代のハイカラな雰囲気を出している。当時トンネル工事は難航した。地盤が弱く崩れやすい為に事故で何人も犠牲になった。 

 完成してからも不幸は続いた。ランタンと呼ばれる携帯用の灯油ランプを天井に吊してトンネル内を照らしていたが火災が発生してトンネルが再び使用できる様になるまでに、何十年もかかったらしい……


 現在も心霊スポットとして【人の声や笑い声など囁く声が聞こえる】【火の玉のようなものが飛んでいる様に見える】【神隠しにあった】など噂をよく聞く。


 僕はトンネルの入口に立ち、向こう側にある出口を見た。トンネルの内部は一切の明かりは無かったが、月明かりが出口を照らし一キロも先のある筈の出口がハッキリ見えた。走り抜ければ一瞬で行けそうに思えた。夏の陽気とトンネルが出す妖気に踊らされていたのかもしれない。



「最初はグー じゃんけんポン!」

 ジャンケンでトンネルに入るペアが決まった。僕と愛子の二人が先に行く事になった。


 愛子は身長150センチ位のちびっ子なのに、身長と反比し嘘のような胸を抱えていた。ショートカットで大きな目が印象的で活発的な性格をしており、クラスでは誰とでも仲良く話をしている姿をよく見る。人気者グループに居ながらクラス全体を気に掛ける事が出来る素晴らしい子だ。顔とスタイルを総合すれば、クラスでは人気者ベスト3に入ると言われている。正直言うと僕も愛子の事が気になっていたりする。


 今回のこの企画を考えた翼とは親友だったりする。頭は悪いがノリが良く面白いという事で翼もクラスでは人気者にあたる。今日の肝試しも愛子と夏休みの思い出作りの為に企画してくれたイベントだった。もちろん愛子とのペア決めも出来レースだったりする。


【釣り橋効果】と言う言葉がある。

集団デートで遊園地のコースターに行くのは、それを狙ったと言う説もある。漫画で読んだ知識を思い出した。



「行くぞ!」 

 僕は男らしく言い、懐中電灯の光を揺らしながらトンネルに入って行った。 

 

 トンネル内は老朽化が進み壁や天井など、錆やコケなどで色褪せていた。入った瞬間、蒸し暑い夏の気温が嘘の様にヒンヤリと冷たい。トンネルを進むと、ぴちゃ……ぴちゃ……天井から水滴が垂れ落ちる音が聞こえた。


【ゴォォォ……】


 トンネルに空気が吸い込まれる音だろうか? 小さく耳鳴りのような音がする。

 また竹林からは【カナカナカナカナカナ】とひぐらしの鳴く声が聞こえた。


 ぴちゃ……ぴちゃ……ぴちゃ……ぴちゃ……


 水滴が落ちる音が聞こえる。両腕に鳥肌が立った。気温差で結露のような現象が起きたのか? 腕に水滴の様な物が付いている。


 二人の歩くスピードはそれ程速くは無いが、かなりの時間は経過した筈だった。しかし入口で見えていた出口は、一向に近づいては来ない。最初は同じ様にテンションの高かった愛子も、今は無言になっていた。 



「……ねぇ」 

 沈黙を破る様に愛子が呟いた。 


「ねえってば!」 

 愛子の声が大きくなる。 


「ん? どうしたの?」 

 僕は内心怖がっているのを隠そうと平然と返す。 


「懐中電灯の光が薄くなってない?」 

 愛子は恐る恐る聞いてくる。 


 確かに光が弱まっている様な気がする僕は足を止めて考える。そして答えを導き出した。

急遽、肝試しが決まり家にある懐中電灯をそのまま持って来たのと、入り口で懐中電灯を顔の下から照らし、散々遊んだからだと思った。 


 僕は、その事を説明して 

「ごめんね。えへ」 

 と可愛く言ってみた。 


 しかし愛子には伝わらなかった。 

「この馬鹿! 途中で消えたら、どうするのよ!」 

 愛子は僕の手にある懐中電灯を取ろうとした。 


「あっ!」 

 僕は愛子と絡み合い懐中電灯を落としてしまった。 

 何かが割れる様な音と共に、あたりは闇に包まれた。 


「ちょっと! あんた何やってるのよ。いっ、きゃああああああああー」 

「馬鹿! お前が悪いんだろ。電池が外れただけだから! わああああああああー」 

 僕の手に柔らかな感触が…… 

「馬鹿! どこ触ってるのよ変態!」 

「ちっ。違うよ! 暗くて見えないんだよ」 


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 暗くて何も見えないが、愛子からオーラを感じる。


 グオワッッッ!

 大気が揺れた!


 バッシシシーーーーーーーン!!!

 

 シーーーーーーーン……

 シーーーン……

 シーン……



 お約束の展開と共にトンネル内に音がこだました。

 そしてお前本当は見えてるんじゃね? と言うぐらいな的確で威力のあるビンタが僕の頬を襲った…… 



☆☆☆☆☆


 僕は家に帰ると『勉強中! 立ち入り禁止!』と書いた紙をドアに張り、部屋にこもった。

 

 はぁはぁ……

 

 僕は全裸でベッドに横たわり今日の事を思い出していた。愛子の事……いや正確には愛子の「胸」の感触だ! 思春期の僕には強すぎる感触。


はぁはぁ……はぁはぁ……

僕の右手の動きが早くなる。僕は放出すると全裸のまま、力尽き眠ってしまった。



 

 熱帯夜の蒸し暑さに僕は起こされた。時刻は午前二時を回ろうとしていた。

 静寂の闇の中、僕の体を覆うものがあった!


 体が重い、体が熱い、体を覆うものを剥ぎ取った。


 心臓の鼓動が早くなる。徐々に頭が鮮明に成っていく……それに比例しどんどんと鼓動が速くなる。おかしい……何かが違う……違和感。


 いつもなら布団も掛けずに寝ているのに、剥ぎ取った物はタオルケット! 鼓動が更に加速する。僕は慌てて飛び起き電気を点けた!


 僕は全裸で寝ていた筈なのに、そこには白濁液は綺麗に拭き取られ、新しいパンツをはかされていた。

 机の上には勉強頑張ってね! との母親のメモ書きと、勉強の差し入れと思われる真っ赤なスイカが置いてあった……



 『ウッッ…… ワーーーーーーーーーーーッ!』


 ナイフで胸を貫かれたような苦しさを味わい、胸に溜まっていた空気を全て吐き出した! ドアを閉め引き籠っていた部屋に、いつまでも悲鳴は鳴り響いた……


 こんな恐怖を味わった事は、僕は今まで一度も無い。


(完)


ごめんなさい

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ