戦闘
初戦闘です。
描写って難しいですね。
バキィッ
お?
おお?
俺生きてる?
生きてるな。
身体に痛みはない。
ゆっくりと目を開けるとクロスした腕の間から立てられたテーブルが見える。
座っているソファには貫通穴が一つ。
「つぅ~。」
シエラが足を押さえて悶絶しているところを見ると、テーブルを蹴り上げて壁にしたらしい。
アージートの放った石の弾は分厚い木のテーブルで軌道が大きく変わっていた。
「ウチの子に何すんの‼危ないじゃない‼」
シエラは凄い形相で怒る。
こっそりテーブルの影からアージートを見る。
「ふん。我々の邪魔をするというのなら“器”といえども容赦はしない、力づくで連れて行くのみ。」
アージートの口調が完全に変わっていた。
「ロウド、こっち来なさい、お母さんの所に。怖くなかった?怪我はない?大丈夫よ、悪いやつはお母さんがやっつけるからね。」
シエラにギュッと抱きしめられる。
顔に小振りな胸を押し付けられて少しドギマギする。
っとそれどころじゃない。
「お母さん、僕は大丈夫。それよりお母さんから見てアイツは強い?倒せる?一人なら逃げれる?二人なら逃げれる?僕は訓練してるし魔法も上手くなったから戦える。でも、僕一人じゃ足りない、お母さんはイケる?」
シエラを軽く押しのけながらとにかく話した。
戦闘はこの世界に来て初めてで、可能な限り避けたい。
しかし、向こうはやる気満々だからやるしかない。
やるなら確実に仕留めないとこっちの戦力まで知られてまた襲われる。
「待って待って。倒すつもりなの?」
急な俺の早口に動揺するシエラ。
「可能なら情報も持って行かせたくない。」
驚いたのかシエラの目が大きく見開かれる。
「わかった。でも1つだけ約束ね。危なくなったら逃げること、いいわね?」
「了解。」
物わかりの良い母で助かる。
テーブルの影からアージートを見る。
アージートは両手を広げ、魔力を精製している。
「お母さんが前ね。ロウドは魔法で援護をお願い。」
「大丈夫なの?」
「これがあるから余裕よ。それより母さんはロウドが無茶しないか心配。」
シエラは手袋をはめてなにやらつぶやいた。
すると手袋がパキパキと硬質化していく、なんかの魔法だろうか。
籠手のようになった手袋をガチガチ打ち鳴らす彼女はなんとも頼もしい。
「お別れの挨拶は終わったかなぁ?——土の槍‼——」
アージートの挙げた手から槍がいくつも飛んでくる。
「ロウド‼援護‼」
シエラが叫んで走り出す。
あの籠手で殴るらしい。
「——空気よ走れ。その身を研ぎ澄まして道を切り開け‼——」
走るシエラに先行するように風の刃を飛ばし、槍をすべて弾く。
子供に自身の魔法が防がれたのが意外だったのかアージートの目が見開かれる。
ガンッ
シエラの拳が叩きつけられてアージートが吹っ飛ぶ。
小柄な身体のどこにそんな力があったのかわからないが壁にヒビが入っている。
「グッ。さすがは魔王候補とその“器”だ。これは無傷じゃ捕縛できないな。」
魔王候補ってなんだよ。
俺は救世主なんだが?
「——土よ穿て。その身を槍とし、我が敵を串刺しにせよ‼——」
まだ元気なようなのでとりあえずもう一撃打ち込む。
「——泥の城‼——」
アージートの土の壁にこちらの槍はすべて防がれた。
「母さん下がって。」
シエラをアージートから遠ざける。
「全く、嫌になるよ。悪役ってのは何でこうも強いんだ?正義の味方は強くなきゃいけないってのに。」
土の壁に籠ったアージートが変なことを言う。
「悪役はあんたでしょ。何の説明もなしに子供に攻撃するとかどんな正義よ。」
そうだそうだ。
「その子供が世界を崩壊させるとわかっていてもか?」
なんだって?
「どういうこと?」
シエラに話し続けるようにジェスチャーする。
俺はアージートの机からインクを拝借して拘束用の魔法陣を床に描き始める。
「言ったとおりだ。父親無しのノーマルは必ず大事件を起こしている。最近では20年前のハンガー湖事変だ。」
「英雄が魔物を倒したってやつかしら。」
「そうだ。あれはノーマルが戦争を起こそうと魔物を使役していたのだ。我々はノーマルの信用を落とさないよう、秘密裏に使役者を排除し、魔物を倒した。その使役者はまだ15歳程度の少年だった。人類殺戮の計画を立てる子供を悪と呼ばずに何と呼ぶ。」
「その少年は何でそんなこと起こしたのかしら?」
「平和を望む我々に悪の考えるが理解できるわけがないだろう‼」
シエラに魔法陣完成を伝える。
「そう。その少年とちゃんと対話しなかったのはあなたたちの失敗ね。」
シエラもこちらを見てうなずく。
「ふん。貴様らノーマルの敵などと会話する気など毛頭ないわ‼我が最高の技を食らってみろ‼——電を束ねて雷と成せ‼——」
バチッ
一瞬だけ火花が散った。
前世でたまに見た漏電のようだ。
「なに?うわぁぁぁぁぁぁぁ。なんだこれ、来るな来るなぁぁぁ。」
土の壁の中から叫びが聞こえる。
俺が地面に描いたのは魔石精製の魔法と土の触手で敵を拘束する魔法の混成魔法陣だ。
魔力を放つものが侵入すると発動する。
今回はアージートの電魔法を吸収して発動させた。
アージートの魔力が詠唱によって形になる前に魔法陣の魔力として利用させてもらえば俺の魔力消費はゼロ、魔法の維持には敵の魔力を使用するので維持コストもなし、吸収した魔力の余剰分は魔石となる。
一石二鳥の魔法陣だ。
ガラガラ
魔力不足で維持できなくなったのか土の壁が崩れ、中から茶髪のノーマルが出てきた。
「あらあら、ロウドこんなこともできるようになってたのね。」
ノーマルは顔以外を完全に覆われ身動きが取れない状況にあった。
どうやら魔法で変装でもしていたかのようで、先ほどまでの蛇人の格好は全く面影もない。
「ちくしょう、こんなはずでは。」
これからいろいろ話してもらうために口は拘束していない。
さていろいろ喋ってもらおうか。