尋問
「さて改めて自己紹介させて貰いますね。私はロウド・サージ、4歳です。あなたの名前を教えてください。」
拘束したノーマルを観察する。
顔だけしか見えてないが体つきは拘束した土から把握している。
白人男性、身長160㎝、年齢は20~25歳ほど、細いが筋肉質の肉体、短く切り揃えられた頭髪、武装は腰に大振りのナイフと幾つか魔道具を指に付けているようだ。
「…………………」
男は質問には答えず、こちらを睨む。
「名無しのオジサンじゃ話しづらいですし、何か適当な呼び名でも良いので教えてくださいよ。」
「…………………」
無反応。
「どういった目的でアージートさんに化けていたんですか?」
「……………………」
無反応。
「4歳児に負ける程度の魔法使いって生きてる価値あるんですか?」
「……………………」
無反応。
「その年でこんないたいけな少年を襲って楽しいんですか?趣味ですか?」
「……………………」
うんともすんとも言わない、のれんに腕押し、糠に釘、まったくもって反応なし。
煽り耐性も高いようだ。
「黙秘ですか。痛めつけないとダメかな。」
「ロウド様、拷問はお勧めしません。先ほど呼んだ自警団も来ますし、完全に無力化された捕虜に傷を負わせると罪に問われる可能性があります。」
後ろに立っているメイドのキリに止められてしまった。
「自警団呼んだんですか。」
「ええ、屋敷に異変があれば基本的に通報しますよ。自分たちだけでは解決できないことも多いですから。」
情報吐き出させてからの口封じは難しいな。
キリは男を拘束したタイミングで入ってきた。
戦闘音は聞こえていたらしいが部屋全体が結界のようになっていて外からの干渉を受け付けなかったらしい。
いろいろと苦労して結界を破壊して扉を開けたときには全て終わっていたということだ。
今は他のメイドが部屋を片付け、ロウドとシエラとキリの3人で見張りがてら尋問をしている。
ちなみに本物のアージートは部屋の奥に拘束魔法で監禁されていた。
キリ曰く衰弱してはいたが命に別状はないそうだ。
「じゃあ、自警団が来る前に済ませましょうか。」
「拷問はやめてくださいねロウド様。さすがにアージートを救ってくれた方を犯罪者にはしたくありません。」
このオッサン聞くだけじゃ話してくれないんだよ。
「ちょっと揺さぶるだけですよ。」
クルリと男に向き合う。
「オジサン、今身体の感覚ってありますか?実はこの拘束魔法の素晴らしい所は内部で傷の手当てや肉体の再生が出来るんですよ。」
男がロウドと目を合わせた。
多少は興味を持ってくれたようだ。
「つまりですね、この土が貴方の肉体の代わりを担ってくれるのでこういう事が出来るんですよ。」
ロウドは男が拘束されている土の表面に魔法陣を描いて発動させる。
すると土の中からモコモコと人の腕が出てくる。
まるで成人男性の右腕のようなものが肘の辺りまで出てきてゴトリと音を立てて床に落ちる。
ロウドは床に赤い染みを作り始めた腕を男に見えるように抱え上げた。
「この手に見覚えはありませんか?今中から取り出したんですが。」
「な…なんだよそれ。僕の腕じゃないか。」
男が始めて喋ってくれた。
恐れを抱いたような顔でロウドを見ている。
「貴方の腕?本当ですか?腕を切られた感触ありますか?」
「いや、痛みも何も感じないが。それはお前の拘束魔法の効果じゃないのか?」
「さぁどうでしょうねぇ。」
笑いながらロウドは次の魔法陣を土に描き、中から出てくる物を掴んだ。
「待って……なぁ、待ってくれ……それは僕の足なのか?」
「そうですか?貴方の足に見えます?」
そう言いながらロウドは腿の辺りまで出た革のズボンを履いた男の足を引っ張り出す。
ビチャビチャと腕の時とは比べ物にならない量の赤い液体が床に落ちる。
「ロウド様あの、傷つけるのは」
後ろでキリが何か言おうとしたので唇に指を当てて静かにしているようにジェスチャーする。
「ハッ…ハッ…」
男は困惑している、確かに手足を切られた感触も痛みもない。
だが目の前で子供が血塗れの手で持っているのは紛れもない男の腕であった。
普段付けている隠蔽用の魔法を込めた指輪も確認できる。
そして今引っ張り出され床に捨てられた足はいつも見ている自分の足としか思えない。
「おや?脈が早くなりましたね。ドキドキしますか?」
目の前の子供が楽しそうに何かを描き始めた。
「待って……止めてくれ。もうわかった…わかったから。」
「何がわかったんですか?」
「話す…話すから。もう許してくれ。」
「話す?何を話すのでしょうか。早く話してくれないともう魔法陣が描き終わっちゃいますよ。」
子供は血塗れの顔で楽しそうに魔法陣を描き続ける。
まるで悪魔だ。
「僕はグイン……グイン・フォート。潜入目的は1級魔力石の奪取と情報収集。魔法は専門じゃない。あと子供を襲うのは趣味ではない任務だ。」
ようやく男が喋りだした。
「グインさん。ようやくお名前で呼べますね。この辺りにノーマルは珍しいので仲良くしましょう。」
「この状況で仲良くできるわけないだろ。話したんだからその腕と足戻してくれ。」
「いえいえまだですよ?任務ってことは雇い主がいますよねぇ?その辺りお話願いますか?」
「喋れるわけないだろ。馬鹿か?喋ったら信用がた落ちだよ。」
「その信用も生きて五体満足じゃないと意味ないのでは?」
「…………」
男が息を飲む。
自警団が来るから傷つけられることはないと高を括っていたようだ、そんな保証など何処にもないのに。
「状況を理解して頂きましたか?」
「クソッ」
「どこに雇われましたか?」
「知らない、匿名だ。冒険者ギルドからの紹介で雇い主と落ち合う予定だったが、待ち合わせ場所には手紙と前金だけ置いてあった。」
「へぇ~そうですか。」
ロウドは疑っている目でグインを見る。
「嘘じゃない。普通信用のない奴からの依頼は受けないが、ギルドの紹介だし、かなり破格の報酬だったんだ。」
どうやら金に目が眩んで謎の仕事を受けたようだ。
「随分と危険な事をしましたね。1級魔力石の奪取ってことはさっきリンゼイさんが倒れて魔力石が消えたのは貴方の仕業ですか?」
「そうだ。幻覚酔いに見えるよう擬装した。」
「なるほどそうでしたか。では次の質問です。私を殺そうとした理由は貴方達に害を及ぼす可能性があるからですか?」
「さっき話した通りだ。」
「貴方の脅威になるような可能性はほぼ無いと思うのですが。」
「4歳児が省略詠唱より早い通常詠唱してたまるか。現に君は僕をを捕らえて拷問してるじゃないか、十分に脅威だよ。」
確かに大人に勝てる子供ってのは十分脅威になるか。
「拷問とは人聞きの悪い。別に貴方を傷付けたりしてないじゃないですか。どこか痛かったりします?」
「僕の腕と足を千切っただろ!!」
グインは興奮しているようだ。
「そうですね。戻してほしければ他の質問にも答えてください。」
「……他に何が聞きたいんだ。」
「貴方達の組織について。」
「黙秘する。」
「まぁまぁそう言わずに。こっそり教えてくださいよ。別に他の誰かが聞いているわけでもないですし。」
「いや、後ろにたくさんいるだろ。」
後ろを見るとシエラ、キリ、後は掃除をしているメイドの面々、ドアの陰から見える赤尻尾はカルゼイだろうか、皆こっちの会話に聞き耳を立てているようだった。
「しょうがないですねぇ。ではじゃあ最後ですね。」
ロウドは書きかけていた魔法陣を仕上げる。
「な…なぁ。何をするんだ?」
「途中まで書いたので試してみたいんですよ。」
「おい、もう話しただろ、開放してくれないか?」
「まぁちょっとこれだけやらせてください。初めて作るので緊張してるんです。」
土から赤い拳大の物が出てくる。
ロウドが両手で掴んで持ち上げた。
赤い物体はドクン、ドクンと脈動しているように見える。
「それはもしかして。」
「はい。心臓です。どうですか、完璧にできました。」
ロウドが脈動する心臓をクルクル回して観察する。
「最後ってのは、僕を殺すってことか?」
「いえいえまさか。この心臓を潰すだけですよ。」
ロウドが両手に力を込めると赤い塊が変形していく。
「は?おい待って止めて止めてくれ頼むよ!」
「ですから最後ですと言ったでしょう。もうこれで終わりです。」
グシャッ
「ロ…ロウド。」
「ロウド様…」
シエラとキリが恐る恐る声を掛けてきた。
やべぇやり過ぎた。
途中から楽しくなっちゃった。
グインは白目をむいてピクリともしない。
「大丈夫だよお母さん。ただの偽物だから。」
ロウドは床の魔法陣を足で消す。
するとグインを拘束していた土がガラガラと崩れて魔力石に変化していく。
中からは五体満足の男の身体が出てきた。
すかさずキリが駆け寄って確かめる。
「脈も呼吸もあります、気絶しているだけのようです。」
床を見ると広がっていた血や落ちていた腕、足、心臓は全て小さい魔力石に代わっていた。
「ただ単にあの人に似せた腕と足を作っただけです。心臓は初めてでしたけど上手くできましたね。この拘束魔法は肉の再生なんてできないですし。拷問じゃなくて尋問ですからね、痛みを与えちゃだめですよね。」
「そ…そうですね。」
可能な限りにこやかに話したがキリには完全に引かれている。
完全にやり過ぎた。




