マグダリア王 シャレグ
鳥騎士団団長アギラが、マグダリア王への報告を終えて海賊船に戻って来ると、部下達が料理を片手に慌ただしく走り回っていた。
飢えた子供達は既に、部下達によって船内の食堂に集められていて、そこで鳥獣騎士団達が作った料理を貪り食べていた。
売られた子供達はかなり飢えているらしく、物凄い勢いで食べ物が無くなっていく。
急ぎすぎて食べ物を喉に詰まらせる子供や、食べ物の取り合いで喧嘩を始める子供もいて、鳥獣騎士団の半数の騎士達は子供達に水を飲ませたり、背中を擦ったり喧嘩仲裁したりで大忙しだった。
そして、残りの騎士達は拐われた裕福な子供達を慰めながら元気づけている。
裕福そうな子供達は、毛布くるまりながらずっと騎士に泣きついていた。
よほど海賊が怖かったのか、子供達はなかなか泣き止まない。
しかし、散々泣きわめいたお陰か少し落ち着いた子供達は、騎士団に促されるままに食事を貰って、ゆっくりと食事を食べ始めた。
そしてミリアンナとエレナは、子供達と一緒に毛布と食事を貰ってから、子供達と少し離れた場所で行儀良く食事をしていた。
何故離れたかと言うと、ミリアンナが子供が苦手だったので、余り関わりたくなかったのが理由だった。
食堂にズカズカ入ってきたアギラは、少し離れた場所にいて、妙に落ち着いた二人を見つけると、二人に近づくと彼女達の正面に座り込む。
そして、アギラを見ることすらしないミリアンナにニヤニヤと笑いながら話しかけた。
「で?お前はミリアンナ王女だよな?」
「詮索無用…モグモグ」
ミリアンナは、ポトフのような干し肉と野菜のスープの様なモノをモグモグ食べながら答える。
手を止める気は無いようだ。
「当代ウイング家当主の妹姫の娘だよな?」
「…」
ミリアンナは無視しながら、ポトフ擬きに入っていた芋を頬張る。
…ああ…ホクホクしていてほんのり甘い…幸せだ。
「…じゃあゼルギュウム王に確認してみるか…」
それを聞いたミリアンナは、ムグッと芋を吐き出しそうになり、ぐっと堪える。
食べ物を吐き出すなど、勿体ない事など死んでもするものか!グフッゴクン…よし!飲み込んだ!よし!
ミリアンナは若干涙目になった目でアギラを見上げると、ポトフ擬きをエレナに渡してスクッと立ち上がる。
そしてテクテクと、向かいの席にいるアギラに近づいていき、アギラにガシッとしがみついてから、彼女は小声で叫ぶという器用な事を実行した。
「止めて!!私謹慎中なのよ!」
「…城を抜け出したの何時だ?」
しがみつくミリアンナにアギラがそう尋ねると、ミリアンナはしがみついたまま、ウ~ンと少し考えてから口を開いた。
「水の曜日…今日何の曜日!!」
ミリアンナは、ハッとなってアギラに聞く。
その様子にアギラは呆れたような顔をしながら口を開いた。
「風の曜日。2日たってるのに、気づかれてないとか本気で思ってるのかよ?絶対バレてると思うぞ?って言うか、お前を庇うと国際問題になるんだけど?」
うちの国亡ぼしたいの?と言いたげな顔でアギラがミリアンナを見ると、ミリアンナはウグッと言葉を詰まらせた。
国際問題は不味い。
「うぐっ…何とか出来ないかな?お兄さん」
ミリアンナが、すがるようにアギラを見上げるが、アギラはキッパリ言い捨てた。
「無理。俺はただの鳥獣騎士団 団長だから。じゃあ俺は王の所に行くから大人しくしてろよ…ってか逃げるなよ。俺が処分を受けるかもしれないから」
アギラが、ジロッとミリアンナを見る。
その目を見て、諦めたミリアンナはコクりと頷いた。
「分かったよ。って言うかこれだけ見張りがいると、どう足掻いても逃げられないし」
ミリアンナが、回りで子供達の世話をしている大勢の騎士を見ながらそう口にする。
蜘蛛の子一匹 逃げられない。
「まあ そうだろうな」
アギラは、ミリアンナの項垂れる姿を可笑しそうに笑い、安心したようにほっと息を吐いてから、ゆっくりと立ち上がると食堂を後にした。
食堂を出たアギラは、甲板に出ると甲板で待っていた相棒のシスネにまたがる。そして、シスネに合図だすとシスネはバサッと翼を広げ大空に飛び立った。
暫くの間、空の旅を楽しんでいるとマグダリア城が見えてきた。
シスネは城の上空で旋回し、城の西側にある鳥獣騎士団の詰所に降り立つ。
地上に降りると、居残り組の新人騎士達が駆け寄ってきたので、彼等にシスネを預けてから城内に入った。
マグダリア王の乗っていた船は、一時間前に港についていたらしく、城に戻ると直ぐ様シャレグは臣下達に指示を飛ばし、子供達の受け入れ作業を急いでいた。
そんな忙しいマグダリア王シャレグにアギラは近付き、回りに聞かれて騒ぎにならないように、シャレグの耳元でこそこそとミリアンナの事を報告した。
始め静に話を聞いていたシャレグは、段々と顔色を悪くさせる。
そして、バッと後ろを振り向き警備をしてい近衛兵にを睨むように見ると、鋭い声で彼等に指示を飛ばした。
「!!!直ぐにゼルギュウム国に通信魔道具で連絡を入れろ!!王に重要な話がある!急げ!」
「はっはい!」
シャレグの視線にビビっていた近衛兵がゼルギュウムに走り去ると、マグダリア王はアギラに詳しい説明を聞くために、自分の執務室にアギラを連れて来る。
執務室に入ると、シャレグはアギラにソファーに座るよう命じてから自分も執務机の椅子に座り、執務室机にグテッと顔を埋めた。
「くっ…何で王女が…」
「貧民街で子供に内職を教えてやって、次の日。内職の成果を見に来たら、その子供に奴隷商に売られたらしいです」
アギラはゆったりとソファーにもたれかかりながら、ヤレヤレと首を振ってそう口にする。
馬鹿な娘ですよね と笑いながら。
「…ああ…馬鹿な娘だな。世間知らず…まあ…八歳の少女なら仕方ないか…連れてこい説教してやる!!」
やはりシャレグも、馬鹿な娘だと思ったらしい…
それに、ミリアンナのあの態度を見る限り余り全く懲りていないようだった。
彼女には、しっかりと説教した方が良さそうだ。
まあ…他人が説教しても、余り心に響かないかもしれないがな…
「分かりました」
アギラは色々言いたい事を飲み込んで、コクりと頷き立ち上がる。
そしてシャレグに、一礼してから執務室を出ていった。
アギラが、鳥獣騎士団の詰所に戻るために廊下を歩いていると、懐に入れていた通信魔道具がピピっと音をたてる。
部下達から連絡がきたらしい。
アギラは、魔道具についているボタンをポチッと押してから耳にあてた。
「もしかして、もう城についた?」
「はい。今 兵宿舎です」
「わかった。今から行くよ」
「了解しました」
既に、ミリアンナ達は城についていたらしい。
アギラは鳥獣騎士団の詰所に向かっていた体を翻し、使われていない兵宿舎の方に向かう。
暫く歩き兵宿舎につくと、部下達が待っていた。
部下達の話によると、疲れきっていた子供達は既に部屋で寝ているらしい。
ミリアンナに用があると部下達に言うと、彼女の部屋の場所を教えてくれた。
そして、アギラは子供達を起こさないように静に廊下を歩きながら、ミリアンナ達がいる部屋に向かう。
部屋について軽くノックをすると、直ぐに返事が返ってきた。
まだ寝てないようだ。
ミリアンナに入室の許可を貰ったアギラが中に入ると、ミリアンナ達がのんびりとした様子で椅子に座って寛いでいた。
アギラはミリアンナに、ニコリと胡散臭い笑を向けながら、マグダリア王への報告の結果を説明した。
「ってわけで来てくれ」
ミリアンナは、ガックリと項垂れながら頷き立ち上がる。
「…仕方ない」
「姫様…」
エレナが着いていきたそうにミリアンナを見上げてくるが、ミリアンナは首を降る。
ミリアンナしか呼ばれていないし、侍女としての教育などされた事も無いエレナを王に会わせて粗相をしてしまえば、彼女が処分を受けてしまうかもしれないだろう。
正式に、王女としてマグダリアに来たわけでもない今の自分に、彼女を護りきれる権力は無い。
なので、彼女は連れてはいけない。
「行ってくるよ」
ミリアンナはエレナに力なく笑うと、アギラと共に宛がわれていた部屋を出ていった。
そして暫くの間廊下を歩き、マグダリア王の執務室につくとアギラが扉を守る兵士にミリアンナを連れてきた事告げる。
すると 既に、マグダリア王から兵士へ指示が出ていたらしく 、直ぐに室内に通された。
ミリアンナ達が執務室の中に入ると、マグダリア王は長椅子を指差しながら口を開く。
「そこに座れ。ミリアンナ王女」
「…はい」
そして、三十分間。
延々とマグダリア王は、ミリアンナに説教を続けた…のだが、ミリアンナはこちらを見ているようでこちらを見ていない…
誰が道見ても、ボーとしながら話を聞いているようにしか見えなかった。
「おい。聞いているのか」
適当にしか見えない態度に、シャレグは頭に青筋を浮かべながら低い声で唸る。
その言葉を聞いたミリアンナは、ハーとため息を吐くと疲れた表情を浮かべながら口を開いた。
「聞いてますよ…父上にも叱られるんだろうな…とか考えてますよ。
ああ…ねぇ マグダリア陛下?例えば ですけど、もし貴方の娘が私と同じ事をしたら親子の縁を切ったり、修道院行きにしたりします?」
疲れて投げ槍になったミリアンナが、適当な口調でそう言うと 、マグダリア王は 話をそらされた事に気づきもせずに叫んだ。
「するわけ無いだろう!!」
「…ですよね…」
王の説教を、適当に聞き流していた事を誤魔化す事には成功したが…修道院行きは無理か…
マグダリア王は 自分の言葉に、何故かガッカリしているミリアンナの態度に、かなり心配になって恐る恐る問いかけた。
「…王女…ゼルギュウム国で何かあったのか?」
「ん?何にもありませんよ?寧ろ家族に無駄に愛されて鬱陶しいくらいです」
ミリアンナは、何故そんな事を聞かれるのか理解できずに、コテンと首をかしげてそう口にする。
その反応に、シャレグはジトーとミリアンナを見下ろした。
「…何が不満なんだ」
訳がわからない と言いたげに、マグダリア王はミリアンナを見る。
「不満…人付き合いが面倒なんですよね~ほら。王女って社交的にならないといけないでしょう?国内の貴族に認められる気品と美しさ、他国に侮られない為の話術に知性。優雅なダンスを踊れる技能。私には無理。だから早々に退場したかった…」
ミリアンナは、人生に疲れた老婆のような口調で呟くようにそう口にすると、シャレグが感心したような目でミリアンナを見てから、苦虫を噛み潰した様な顔で、幼子に言い聞かせるような口調でミリアンナに語りかけた。
「全てが無くても 王妃をしている醜女がいるから問題ないと思うぞ?それに、まだ八歳なのだから…そんなに気負わなくても良いのではないか?」
マグダリア王は、何か嫌なモノを思い出したような顔でそう言う。
かなり忌々しげな顔からして、何処かの国に、マグダリア王が物凄く嫌悪する 醜女な王妃様がいるらしい。
彼女は、何をしたんだろうな…しかし…
「八歳でも王女です。国民に養われている分際で、何もしようとしないのはグズです。だから…新な産業でも秘密りに広めようとしたんですけどね」
「それが内職か。」
「はい。布で花を作って売れば生花より用途が多いでしょう?服や手提げ、帽子等にもつけられますし、貧民街で作られるようになれば、録な教育を受けてない彼等でも安定した収入が得られるかもしれません。安定した収入があれば、犯罪が減るかな?とか思って始めようとしたんですけどね…上手くいかないものです…」
失敗しました と笑うミリアンナに、マグダリア王は ハーとため息をつきながら彼女を見る。
能天気な姫かと思っていたが、責任感が強く真面目な姫であるらしい。
自分なりに、国のために色々と考えてはいるようだ。
ならば…
「王女として、貢献すればいいではないか?」
実際 彼女は王女。
しかも 正妃腹の第一王女なのだから、事業など興さなくても 国のために出来る事は多いだろう。
「そうですね。社交するしか無いか…見た目も美しくなるように頑張らないと」
先ずは化粧の仕方からだと、ミリアンナが気合いを入れていると、マグダリア王シャレグがボソリと呟いた。
「ミリアンナ王女は、今のままでも十分愛いらしいだろう?」
「クスッ世辞は結構ですよ陛下」
マグダリア王は本気で言ったのだが、ミリアンナには世辞と受け止められたらしい。
しかも笑われた。
笑われたシャレグは、ブスッとしながらミリアンナを上から下までジッと見る。
ミリアンナはまだ八歳だが、さらりとした深紅の髪に白銀の瞳を持ち、不思議な空気を醸し出す気だるげな表情をみていると、なんとも言えない色気を感じる。
…愛らしいと言うのも、少し違うかもしれない…
彼女と…もっと話がしたい…
安い言葉でマグダリア王である自分を褒め称える女共や、自慢話と欲しいものの要求ばかりを口にするメス豚と話をするのは苦痛でしかなく、奴等との会話は体力も気力を削る苦行でしかない。
だが…彼女と…ミリアンナとはもっと話がしたいと思った…彼女と話をしていると、緩な空気を…ゆったりとした安らぎを感じる事が出来た。
今まで、母を含めて肉食獣荒々しい女ばかり見てきたからかもしれないが、彼女といると楽に呼吸が出来る気がする。
まだ…逢って一時間もしていないが…彼女といると王ではなく、ただのシャレグに戻れた気がしたのだ。
まあ…修道院行きを望む彼女の思考回路は、どうかと思うがな…
マグダリア王が、新な話題を口にしようとした瞬間。
バン!!と執務室の扉が開き、醜女のメス豚…もとい、マグダリア王妃。エリザが飛び込んできた。
扉を守っていた兵士も必死で彼女を止めようとしているが、猪女を止めることは出来なかったようだ…チッ…役立たずが…
…はあ…また何故か、気にさわる事があったのだろう…ああ…五月蝿い…鬱陶しい…
死んでくれないだろうか…あの醜女…
醜女とは、マグダリア王自身の奥方の事でした!
奥方は、転生しても私は私で出てきたエカテリーナ。エカテの生まれ変わりで、記憶は無いですが、性格をバッチリ受け継いでます。
シャレグはあの人の…まあこれは、ミリアンナの章の最終話までお待ちください。