鳥獣騎士団団長アギラ
マグダリア王様が登場です!
鳥獣騎士団団長の相棒。
契約魔獣は二メートルはある鷹に似た鳥獣。イーグルバードだった。
その相棒の背中で、鳥獣騎士団団長。アギラ・クラオエは相棒の機嫌を損ねたせいで、振り落とされそうになりなっていた。
振り落とされないように、器用にバランスを取りながら飛び続け、直ぐ近くに止まっていた巨大な帆船に降り立つ。
甲板に降りると、そこには体長三メートルは優に越える巨体を持つ、西洋のドラゴンのような体つきをした竜が寛いでいた。
他にも若干小降りな竜が、三体程休んでいて、二名の竜騎士団員が竜達の体をブラッシングしたり、食事を与えたりしていた。
彼等は直ぐにアギラに気づいたが、完全無視して竜達の世話を続けている。
竜騎士団は、他の騎士団を下に見る傾向が強い。
いつも通りの態度なので、特に気にも止めずアギラは相棒であるイーグルバードのシスネ(メス)から降りると、シスネを甲板に残し船内に続く扉を開けて中に入る。
そして、階段を降りると奥に向かった。
一番奥まで行くと大きな扉が目の前に現れ、その前では二人の近衛兵が扉を守っていた。
アギラは、兵の前まで行くと立ち止まり、真面目な口調で用件を口にする。
「鳥獣騎士団団長。アギラ・クラオエだ。陛下に報告に来た。先触れを頼む」
「はっ!暫しお待ちください」
扉を守っていた近衛兵は、ビシッとアギラに敬礼してから一人が室内に入室の許可を貰いに行く。
そして、一人はその場に残る。
扉の警備は、必ず誰か一人はその場に居なければならないので、二人一組が基本だ。
数秒程待っていると、中にいた兵士が戻って来た。
「クラオエ団長!お待たせしました!お入りください」
扉を大きく開けて兵士がそう言うと、アギラは貴族らしく優雅な足取りで室内に入る。
半分以上。平民で構成されている自分の部下達とは違い、近衛兵は余程でないかぎり貴族しかなれない。
なので、貴族らしく振る舞わなければかなり五月蝿く言われてしまう。国王に会う時は、普段適当な彼も一応気を使っている。
不敬罪には問われたくない。
アギラが流れるような仕草で中に入ると、中には四人の男性がいた。
二人は王の近衛兵。
彼等は扉の近くに立ち、アギラに鋭い目を向けている。
そして竜騎士団団長が窓の辺りに立ち、もしもの事態に備えている。
そして…奥にある大きめな机の上で、積み上がった書類を猛スピードで片付けているのがマグダリア国王。シャレグ・アリノア・マグダリアだ。
アギラはその場でビシッと敬礼してから、実務を続けるシャレグに報告するために口を開く。
「鳥獣騎士団団長アギラ・クラオエ。海賊船討伐。完了しました!しかし、問題がありまして…」
シャレグは、持ったままだった書類を机に置くとアギラを見た。
海賊共のせいで、大量に出来た事後処理の書類整理に追われていたシャレグは、アギラの報告を片手間できいていたのだが、アギラの(問題)発言にピクリと反応した。
「問題?」
「海賊達は奴隷商売に手を出していたらしく、拐われたと思わしき富裕層の子供や、口べらしで売られたらしい子供達が二十人程囚われていました。
子供達は餓死寸前だったので、海賊船に残された食料で、彼等に食事を取らせるように私の判断で部下達に命じています。
服装を見る限り、ゼルギュウム人の子供達で間違いないですが、どうなさいますか?」
「そうか…分かった。アギラ!海賊船にロープをかけてマグダリア港に向けて引っ張れ!その方が早く港に着く。
私達は直ぐに城に戻り、食料と衣類を兵士宿舎に運ぶよう命じておく。子供はそこに一時的に住まわせよう」
「了解しました。俺は海賊船に戻って部下達と一緒に船を港に引っ張ります。陛下はこの船をおデブ竜に引かせるなどして、一刻も早くマグダリアにお戻り下さい。彼等はそれくらいしかできないでしょうしね。
それではぐっ!!何すんだよ!」
アギラがそう言って部屋を出ようとすると、グイッとおもいっきり襟ぐびを引っ張られた。
犯人はライツ・ドラグラス。
ずっと、窓の近くで黙って待機していた竜騎士団団長だ。
「何じゃない!!いつもいつも気高き竜をデブデブと!!竜はデブではなく筋肉質なだけだ!!」
デブ発言が気に入らないらしい。
アギラは、馬鹿にしたようにハッと笑うと口を開いた。
「ゴリマッチョはデブだろ?実際海賊船に乗っただけで船がきしんだけど?」
そのせいで、竜騎士団は海上から後方支援しか出来なかった。
「くっ…だがデブじゃない!!」
きしんだのは事実。だが、デブ扱いは嫌らしい。
「ああ。はいはい。竜はデブじやありません。わかりましたじゃあ行ってきます陛下」
「ああ」
アギラは適当な口調でそう言うと、ヒラヒラと手を降り部屋を出て行く。
それを見送った竜騎士団団長。ライツは、顔を真っ赤にさせてマグダリア王。シャレグに猛然と詰めより抗議した。
「陛下!!あの者は礼儀を知らなすぎます!!団長の地位に相応しくありません!!」
バシャバシャ唾を飛ばし、国王であるシャレグに怒鳴り散らすライツ。
シャレグの顔面に、かなり唾が飛んでるが、気にしていない様だ。
そんな彼に、シャレグは聞こえるか聞こえないかの声量で、ボソリと呟いた。
「…お前もな…」
「?陛下?何か言いましたか」
聞こえなかったらしい。
この場で謀反など起こされては堪らないので、聞こえなくて良かったかもしれない。
ああ…タオルは何処だ…いや濡れタオルが欲しいな…臭い。
「いや。早く行くぞ」
「はっ!」
シャレグは思考を切り替えそう言うと、船員に指示を出す為と、早急に濡れタオルを確保するために、急いで部屋を後にした。
その頃。
相棒のシスネに、大好物のシナヨを食べさせて許しを得たアギラは、彼女の背中で風を感じながらボソリと呟く。
「あの人…左遷されないかな…」
アギラが竜をデブデブと言うのは、竜騎士団団長ライツへの嫌がらせ。
ライツ以外にはけして言わない。
ライツは公爵家で、事あるごとに子爵家の自分と本家のウイング家を侮辱してくる貴族によくいるタイプの傲慢貴族だった。
彼は、伯爵家ではあるが初代は平民だから貴族としてどうとか、ウイング家の怠惰な理念がどうだとか…まあ、怠惰は良くないとは思うが、だからって働きすぎも問題だし、やるときはやる。やらないときはやらないで良いと思う。
ウイング家は、やるときはやるタイプなので問題ない。
それに、他家のやり方に口を挟むのは野暮だろう?
だから、何をするにもいちいち五月蝿い熱血野郎とは我が一族は相性が悪い。
そして、王家に忠義が厚い一族とはどの国でも犬猿の仲だ。
ウイング家は国より人命を優先し、戦争を食い止め、飢饉を救う。
国とは人。国民だと高らかに宣言するが、それは王が言えば賢王と称えられる話だが、一貴族家が王に言えば王家など国民より劣ると言っている様なものだ。
しかも、飢饉の食糧支援は敵対国にも平気でする。
そう言う一族なので、家格の高い上位貴族には嫌われている。
しかし…資産や能力が半端ではないので、嫌いではあるが雇わなければ国力が下がる。
だから嫌われものだが、排除対象になる事は無い。
ウイング家に大体面と向かって文句を言う奴は、大体能無しの現実が見えていない勘違い野郎だ。
ただ、元竜騎士団団長は能無しではなく脳筋。
しかも、自分が感覚が正しく、竜が絶対強者と信じて疑わず、他の使役獣を下に見る彼が、アギラは心底嫌いだった。
だからアギラはライツの相棒を侮辱するのだ。
そして、ウイング家の家訓にはこんなモノがある。
(嫌な事をされたら同じ事をしてやりなさい。勿論倍返しで)
昔…アギラとライツが見習い騎士だった頃。
ライツが一度だけアギラの目の前で、相棒のシスネにこう言った事がある。
「鳥は頭が悪そうだ!やはり竜がいい!」
まだ、見習いでどの騎士団にも属していなかった為。
人気の高い竜騎士団を志望していたライツが、人数の問題で鳥獣騎士団志望のアギラと、二人で鳥獣騎士団の鳥舎の掃除をしていた時に彼はそう言った。
その頃すでにシスネと契約を交わし、来年度の就任式で鳥獣騎士団入りが決まっていたアギラは、相棒を侮辱されて怒り狂う。
そして、ライツをボコボコにしてしまい、罰として就任が一年間先送りにされた。
ライツは打ち所が悪かったのか、その一件だけ記憶がスッポリ消えていて、同期のアギラが就任を一年間先送りにされたのが、単に実力が無かったのだと勘違いし、アギラを下に見るようになった。
誰もライツに真実は教えなかった。
同い年で体格はライツの方が優れているにも関わらず、ライツは一撃も加える事が出来ずにぼろ負けだったのだ。
ライツの…代々武勇を誇るドラグラス家の矜持を、傷つけそうなくらいのぼろ負けだった。
アギラはライツが大嫌い。
アギラはいつか、ライツに子供ができたら、この事実を公にしてやろうと思っていた。
公にしたら、確実に竜騎士団での立場が悪くなり、あの脳筋は決闘を申し込んで来るだろう。
それで、ボコボコにしてやるのだ。
立ち直れないくらいに…
子供も妻も、形見の狭い思いをするだろう。そして、離婚するかもしれない…
その時が楽しみだ。
クスクス笑だし黒いオーラを放つ相棒に、シスネはゾクリと震えてから急降下する。
私の上で物騒なオーラを放つな!!と抗議するように、彼女は急降下と急上昇を繰り返した。
性格の悪いウイング家でした!
アギラがライツを嫌いなのは、色々な建前を取り払うと、シスネを侮辱した!!という一点だけです。
そして、彼が謝罪しようがしまいが彼を一生嫌います。
執念深い彼は、グレルの血筋です。




