最有力候補
「ウイング一族の後楯を得た以上。時期国王はシリウスで決まりだな」
部下である宰相に無視されてた上に、居ない者の様に放置しされたマグダリア王は、ムスッとしながらちょっと大きな声でシリウスに向かって話しかけた。
宰相には軽く無視されたが、シリウスには納得しかねる内容だった様で、アルカスに向けていた視線を慌ててマグダリアに向けて口を開いた。
「バルトリーグ様の方が、後楯が国内の公爵貴族なだけ有利なのでは?」
シリウスが伺うような口調でそう口にすると、マグダリア王は難しい顔で首を振った。
「いや……リラマリアの生家とウイング一族ならば、ウイング一族の方が権力が強い。ウイング一族がシリウスの後楯になってくれるなら、私は喜んでシリウスに王位を渡そう」
マグダリア王は、悪巧みをする子供の様に楽しそうな笑顔でそう口にすると、じっとシリウスを見る。
意味ありげに見られたシリウスは、逃げ場は無いだろうかと、往生際の悪く視線をさ迷わせた。
「アリシオンス様の方が……」
往生際が悪いシリウスは、今度はアリシオンスの名前を出してみる。
アリシオンスは王家の血を引いていないが、一生隠し通せば問題ない。
嘘も突き通せば真実になる。と言うやつだ。
だが、マグダリア王は首を振って否定した。
「アリシオンスでも良かったが、ウイング一族の後楯があれば アリシオンスではなくシリウスが担ぎ出される。格実にだ」
逃げ場は無いらしい。
貴族達まで賛成するとなると、どうしようもない。
あれ?そう言えば……
マグダリア王は、今。アリシオンスでも良いと口にした。
ここまで、ぶっちゃけた話をしている以上。
アリシオンスの秘密を、黙っている理由はないはずなのだが……
シリウスは、チラリとアルカスに視線を向けてみると、アルカスはコクリと頷く。
アルカスも、アリシオンスの秘密を知っているらしい。
だが、マグダリア王は全く気づいていない……
ならば、このまま知らない方が……
「アリシオンス様は駄目ですよ。あの方は、アリーマシュナ様とお付きの近衛。シオンとの子供なので」
言っちゃった……アルカスさん言っちゃったよ。
アルカスは、シリウスの視線の意味を勘違いしてしまったようだ。
バラせと言いたかった訳ではないのに!
シリウスはアルカスの言葉を聞いた後。冷や汗をかきながらマグダリア王を見る。
シリウスが見てみると、マグダリア王は目を見開いて固まっていた。
マグダリア王は、この事実を予想すらしていなかった様である。
アリシオンスとシオンの見ていれば、類似点の多さに怪しむ位はしそうなのだが
……
当代マグダリア王は単純……いや。素直な性格をしているらしい。
馬鹿だな~等とシリウスが失礼な事を考えている間に、固まっていたマグダリア王はノロノロと動き出した。
「アリシオンスが……アリーマシュナが……何故……」
シリウスは、ドサッとソファーに倒れ込んだマグダリア王に近付くと、ソファーの横にある勉強机の引き出しを開けて、数枚の書類を取り出し彼に差し出した。
「シオンさんと、アリーマシュナ様とリラマリア様について書かれた書類です。読みますか?」
マグダリア王は、何でそんなものがここにあるんだ!と言いたげな視線をシリウスに向けた後。
差し出された書類を、大人しく受け取った。
マグダリア王は、一枚一枚と捲るにつれて険しい顔になり、泣きそうになり、笑顔になり、何とも言えない顔になると書類を横に置いてから頭を抱えた。
まあ……それが普通の反応だろう。
前半はアリーマシュナの幼少期に同情し、友との別れに泣きそうになり、マグダリア王との結婚が本人の意思を無視して決行さられていた事実。
それを知ってしまったマグダリア王は、何とも言いがたい嫌な気持ちになっいた事だろう。
ついでに、リラマリアの最悪な悪事まで知ったので、マグダリア王の精神的なダメージはかなりのモノだろう。
シリウスが痛わしげな目で、頭を抱えていたマグダリア王を見ていると、マグダリア王が突然。ガバリと立ちあがりシリウスに叫んだ。
「とりあえず、時期王はシリウスで決まりだ!!私は帰る!」
「私も一族会議がありますので」
「私は王にはなりません!!」
シリウスはマグダリア王の台詞に反論したが、マグダリア王には完全無視。
言いたいことだけ言うと、二人はさっさと帰っていってしまった。
後日。
年に一回 開催される主要な貴族が集まる会議の席で、マグダリア王はアルカスがシリウスの後見人になる事を宣言した。
その席で、マグダリア王はリラマリアと離縁する事を宣言。
アリーマシュナとも離縁し、アリーマシュナを近衛兵のシオンに下げ渡す事を宣言した。
アリーマシュナの親族は、貴族と平民は婚姻が出来ないと喚き、離縁を阻止しようとしたのだが、様々な功績によりシオンには男爵位と領地を与えると言って黙らせた。
勿論。シオンは何も功績等あげていない。
アルカスとマグダリア王が、哀れな二人を婚姻させてあげるために適当に功績をでっち上げた。
アリーマシュナの親族と同じようにリラマリアの親族も、リラマリアとマグダリア王の離縁にごねたのだが、リラマリアの度重なる悪事を告げると青ざめて口を開閉ざす。
この貴族会議には、奴隷売買を忌み嫌う振興貴族達もいる。
なので、リラマリアの親族には多くの指すような視線が彼等に突き刺さり、彼等は会議終了まで居心地の悪い思いを味わった。
その後。
アリーマシュナとリラマリアの親族が何だかんだ理由をつけて抵抗したが、その他の貴族達が全て承認した事で、無事にマグダリア王と妃達との離縁が決定した。
貴族会議で離縁が決まったその日の内に、アルカスとマグダリア王から離縁を告げられたリラマリアは、離宮で喚き散らし 嫌だ嫌だと暴れたが、マグダリア王に命じられた近衛兵達から、有無を言わさず追い出され侍女と共に馬車に押し込められた。
そのまま リラマリアは実家に帰され、貴族会議に出ていた貴族達が彼女の悪評を広めた事で、リラマリアは貴族社会を追放されてしまい、半幽閉状態で王都から遠く離れた父親の領地に押し込められた。
彼女の息子であるバルトリーグは、王になれないと知ると怒りに任せて、シリウスに斬りかかってしまい、バルトリーグは王族を幽閉するために作られた高い塔に生涯幽閉された。
マグダリア王は、リラマリアを離宮から追い出した後。
リラマリアに捕まっていた奴隷達を解放し、過剰な装飾品や調度品を売り払うと国庫の貧困は落ち着いた。
マグダリア王は粗方作業を終えるとアリーマシュナの元を訪れ、離縁する事とシオンに男爵位を与えること。
アリーマシュナをシオンに下げ渡す事を告げると、アリーマシュナは涙を浮かべて、マグダリア王に深く感謝し頭を下げた。
「ありがとうございます……そして、今までの無礼お許しください」
「ありがとうございます……ありがとうございます」
マグダリア王は、ポロポロと泣き出したアリーマシュナをシオンに託し、離宮を出ると、今度はアリシオンスの離宮を尋ねた。
マグダリア王は離宮につくと、応接間に通される。
しばらく待つと、アリシオンスと近衛兵達が部屋に入ってきてマグダリア王に臣下の礼をした。
「離縁の話は聞いているか?」
「はい。文官達から聞きました」
「大事な話がある。人払いを頼む」
アリシオンスが近衛兵達に視線を送ると、近衛兵達は部屋から退室した。
部屋の中がマグダリア王とアリシオンスだけになると、マグダリア王は重々しく口を開いた。
「お前は私の息子ではない。お前はアリーマシュナとシオンの息子だ。その上で選択しろ。シオンの息子として男爵領で暮らすか、このまま王子として生きていくのかを」
結局。アリシオンスは継承権を放棄し、シオンの息子として生きていく事を決めた。
貴族会議でアリーマシュナの両親の非道さを訴えた事で、不義の事実でアリーマシュナとアリシオンスが非難される事はなかった。
しかし、アリシオンスはシオン達と共に男爵領に行かず、国の試験を受けて合格し文官になった。
アリシオンスは、大変な役目を押し付けてしまったシリウスの役に立ちたいと考えていたのだ。
文官になったアリシオンスは王都で暮らし、アリーマシュナは専属の侍女達と共にシオンが賜った男爵領に旅立った。
後。一二話で、シリウスの章は終わります。
次が、最終章の予定です。
旦那達が出なかったと思っているでしょうが、実は出てたりします。
シリウスの章。最終話で誰が誰かを書きますのでお楽しみください。




