相応しい者は……
アリシオンスの独白に近い話です!
マグダリア王が、王太子の選定をすると王子達を呼びだしてから数日後。
アリシオンスに与えられた離宮では、ちょっとした騒ぎがあった。
第一王子バルトリーグが、面会の約束も無いのにアリシオンスの離宮にズカズカと押し入って来たのだ。
王族はたとえ親子であろうと、侍女等に命じて前もって面会の申し入れをするのが普通だ。
しかし……傍若無人なバルトリーグには、そんな常識は無いらしい。
離宮の警備の兵士達が、必死でバルトリーグを制止させようと試みるが、彼は全く意に返さない。
困り果てた警備の兵士達は、バルトリーグを放置してアリシオンスを呼びに走った。
自室で仕事をしていたアリシオンスは、部屋に飛び込んでくるなり泣きついてきた警備の兵士達を宥めて事情を聞くと、ため息混じりに息を吐いた。
「またか……分かった。バルトリーグ様の事は私に任せて、お前達は持ち場に戻れ」
「「はっ」」
警備の兵士達が見えなくなると、アリシオンスは鏡を見ながら無理矢理笑顔を作る。
そして、アリシオンスは重い足取りで、バルトリーグが騒いでいるらしい入り口付近に向かった。
アリシオンスが入り口付近につくと、バルトリーグが壺を割っていた。
それ以外にも花瓶の破片や、布切れが散乱し酷い有り様になっていて、損害金額は相当なモノになるだろう。
アリシオンスは、内心舌打ちしながら無理矢理笑顔を作ると、狂犬の様に暴れまわるバルトリーグに近づいた。
「バルトリーグ様。どうしたんでイタッ!」
声をかけただけなのに、突然殴られたアリシオンスは目を白黒させてバルトリーグを見上げた。
「どうしたじゃない!父上がシリウスに会いに、あの娼婦のいる離宮に向かったから何を話したか調べてこい!」
「……はい。わかりました」
自分で行けと言いたいが、言えば更に面倒な事になる。
なのでアリシオンスは、嫌々バルトリーグに大人しく従い、側妃シュナの離宮に向かった。
重い足取りでアリシオンスが離宮に来ると、離宮の入り口はマグダリア王の近衛が塞いでいた。
王子であるアリシオンスすら、入れてもらえない。
どう言っても入れてくれないので、アリシオンスは窓から中の様子を伺ってみる。
中では宰相であるアルカスが、まるでシリウスが主であるかのようにひざまづいていた。
本来の主である筈のマグダリア王が、真後ろにいるにも関わらずだ。
対するシリウスは、何時ものやる気のない顔を歪め、威圧感を醸し出しながらアルカスを見下ろしていた。
室内の異様な様子に、怖くなってきたアリシオンスは、慌ててその場から逃げ去った。
マグダリアのウイング一族の纏め役であるアルカスが、シリウスにひざまづいていたと言う事は……
ウイング一族が、シリウスの後ろ楯になったと言う事。
第一王子であるバルトリーグの後ろ楯は、マグダリアの筆頭公爵家で建国以来続く由緒正しい家系だ。
しかし……
長い歴史の中で彼等は腐敗し、王妃であるリラマリアの傍若無人ぶりに古参の貴族達までウイング一族の派閥に傾いている。
アリシオンスは、バルトリーグに報告するかしないか迷った。
確実に逆上するし、殴られる事は確実だ。
「とうするべきか……」
「アリシオンス様!」
シュナの離宮の入り口付近付近でアリシオンスが悩んでいると、母。アリーマシュナ付の近衛であるシオンが此方に向かって走って来た。
シオンは息を切らせながらアリシオンスに近付くと、心配そうな顔でアリシオンスを見つめてくる。
「バルトリーグ様がどなり込んできたと聞いて……大丈夫ですか!ケガなどないですか!」
「問題ない。しかし……」
シオンを父親の様に慕うアリシオンスは、先程目にしたモノを洗いざらい吐いた。
アリシオンスの話を最後まで聞いたシオンは悲しげな顔で頬笑み、優しい口調で口を開いた。
「そうでしたか……では、私が共に行きます。大丈夫。癇癪持ちの扱いは得意ですので」
シオンはアリシオンスにそう言うと、自信満々に笑った。
アリシオンスがシオンと一緒に離宮に戻ってみると、バルトリーグは侍女を侍らし客間で酒を飲んでいた。
アリシオンスは赤ら顔で喚くバルトリーグに、シュナの離宮で見た事を報告する。
するとバルトリーグは、顔処か全身真っ赤にして立ちあがり、突然。持っていた酒瓶を、アリシオンスに向かって投げつけてきた。
幸い。投げられた酒瓶は、アリシオンスにかする事無く壁に当たって砕け散った……かなり危ない処だった。
「ウイング一族が後楯だと!何故だ!」
「分かりません」
アリシオンスはそう口にしながら、心の中で毒づいた。
どう考えても、シリウスが使えるに足る存在だと感じたからに決まっているだろう!!
アルカスが何を考えているかは分からないが、バルトリーグよりシリウスの方が遥かに王にふさわしい事は確かだ。
シリウスは上手く隠してはいるが礼儀作法は完璧で、ダンスもできる。
平民貴族分け隔てなく接して、差別をするものには相手にバレて報復されないように秘密裏に、けれど最大の報復をしている様だとゲオルグが言っていた。
シリウスが王になれば、民の生活は改善され腐敗した貴族を一掃してくれるだろう。
王に相応しいのはシリウスだ。
少なくとも癇癪持ちは相応しくない。
アリシオンスが黙って頭を下げている間にも、バルトリーグの怒りはヒートアップしていく。
「分からないですむか!」
バルトリーグはそう怒鳴ると、アリシオンスに向かって鞘のついた剣を振り上げた。
アリシオンスは、思わず目をつむる。
だが……一向に痛みが来ない。
不思議に思い目を開けてみると、シオンが目の前で呻いていた。
シオンが身代わりになってくれたらしい。
しかし、バルトリーグはそれが気に入らない様で、更に大な声でアリシオンス達に怒鳴った。
「!!近衛ごときが邪魔をするな!」
「殴るなら私を!離宮に入るのを止めたのは私ですから!」
「!!違っ……」
アリシオンスはシオンの嘘に、目を見開いて否定した。
だが、バルトリーグは反発された事じたいが腹立たしかったようで、シオンは何十発も殴る蹴るの暴行を加えられた。
庇おうとしたが、シオンに目線で止められアリシオンスは耐えることしか出来なかった。
「これくらいにしてやる!次はしっかり働け!」
数分後。
バルトリーグの気がすみ、彼がシオンを解放してから彼が居なくなると、アリシオンスは急いでシオンを抱き起こす。
「シオン!大丈夫か!」
「ええ。これくらい慣れてます……」
アリシオンスは、そう言って気を失ったシオンを、慌て医務室に運ぶと常駐の医師に治療を、頼んだ。
粗方治療が終わると、アリシオンスはベッドに横たわるシオンを見つめる。
濃いグリーンの目に薄い金髪の美しい男は、母の近衛で元奴隷で元料理番だ。
彼は、アリシオンスが生まれる前から母に使えていたらしい。
アリシオンスは、幼い頃から世話をしてくるたシオンになついていた。
シオンもアリシオンスを嫌がる処か、率先して構ってくれたのでアリシオンスは思いっきりシオンに甘えて生きてきた。
しかし……
アリシオンスは、成長するにつれて違和感を感じていた。
父である王に、自分が似てないのだ。
そして身近に、父よりも似ている人物がいる。
シオンだ。
自分は多分この人の息子だと思う。
だから自分は王になれない。
不義の息子なのだから……
アリシオンスは、本当の父親に気づいていました。
そしてアリシオンスは、シリウスが王になればいいと考えています。
バルトリーグは典型的な坊っちゃんで、何も出来ないので脅威はありません




