宰相
宰相様のお話です。
今回結構長くなってしまいました。
本文で出てくるベイは米。赤豆は小豆です。
では楽しんでください!
私の名前はアルカス・グレル・ウィング。
ウィング本家の十男だ。
ウィング本家は代々長女が継ぐ決まりがあり、今代の当主が私の母親であった。
母親には夫が四人いて、アルカスの父は母の四番目の夫だ。
家族仲はとても良い……表向きは。
いじめ等は、婿入りした時にかわす婚姻証明書の禁止事項に書かれているのでほとんどないが、いじめにならない範囲で夫達は争い伴侶の寵を争っていた。
万が一。嫌がらせやいじめをした者がいれば、発覚した時点でその者は離縁される。
どんなに家格が高い一族出身だろうが、ウイング一族に高い利益をもたらす存在だろうが関係はない。
なので、いじめをする者等は殆ど居なかった。
本家で産まれた子供達は、次期当主の長女以外。
父親が誰であれ同じように育てられる。
父親が貧民出身でも、王族出身でも与えられるモノに差は無い。
衣食住や教育。全てにおいて同じモノを与えられた。
本家の子供達は成人する十五歳までここで過ごし、成人すると男女関係なく将来を決める選択をする。
ウイング家はに残り私兵や使用人になるか、ウイング家を出ていくかだ。
ウイング家に残れば、一生涯。当主の了承無しにウイング領を出ることすら出来ない。
代わりに屋敷に留まれるし、今まで通りの衣食住と就職先を保証される。
ウイング家を出て行けば、厳重な身体検査をされなければ領内にも入れないし、勿論衣食住の保証もない。
仕事の紹介や、当面の生活費等は貰えるが一度限りだ。
その代わりに、領地を出れば領主に従う義務は無い。
領地を出れば自由なのだ。
母に、選択をした後にやっぱりウイング家に……と言うのは無理かと聞いてみたら、無理だと言われた。
選択は一度限りらしい。
一生の事なので、アルカス悩みに悩んだ。
だが……なかなか決心がつかない。
なので、話先に成人した兄達に意見を聞いてみた。
「俺はウイング家に残って良かったと思う。何の才能もないし、いくら自由でもの飢えて、のたれじぬのだけはいやだ」
「ウイング家を出たら、よっぽどじゃないと母上に会えないぞ?アルカスは剣の才能もないし、ウイング家を出るのは止めた方がいいと思う。アルカスの好きなおはぎだって、ここ以外では珍しいし……出ていったら食べられなくなるぞ?」
「自由じゃ腹は膨れないよ?叔父様達に他国のお菓子とか貰った事有るけど、領内のお菓子の方が美味しいし、出ていくのは止めた方がいいんじゃない?」
……領内に残った兄達に聞いたのが間違いだった。
者の見事に、食い意地が張ってる奴しかいない。
参考にすらならない!!
アルカスがイライラと屋敷を歩いていると、たまたま仕事でウィング領仕来ていた伯父を見つけた。
アルカスの視線に気付いた伯父は、ニカッと笑いながらアルカスに近づいて話しかけてきた。
「どうしたんだ?えーと……アルカスだっけ?」
「はい。伯父さん実は相談が……」
アルカスは、伯父の仕事が終わってから伯父が宿泊している客間に移動して思いの丈を打ち明けた。
「そうか……まあ……確かにウイング領内の食事は美味しいが、私が使えるマグダリア王国の食事も悪くないぞ?お前の好物のおはぎだが、材料である赤豆もベイも輸出されてるし高めだが、庶民でもちょっと無理すれば食べれない事も無いぞ?」
苦笑いで答える伯父の言葉を聞いたアルカスは、フムフムと頷く。
他国でおはぎが食べれないなんて、デマだったようだ。
「良かった…食べれるんだね…」
「自由に生きたいなら領地を出た方が良い。家族と離れたくないなら此処にいろ。お前はどうする?」
伯父は楽しそうな目で、アルカスをジッと見る。
アルカスは彼の視線の意味に全く気付かずに、ガバッと椅子から立ち上がるとビシッと敬礼した。
「……私は領地を出ます!世界を見てみたい」
「そうか。では暫く私の部下として働いて旅費を貯めるか?」
「うん!」
元気よく返事をするアルカスに、伯父は満足した様に笑うと、アルカスを連れて当主の部屋に向かった。
数年後。
書類が山積みされたマグダリア王国の宰相の執務室で、前が見えない程の書物を睨み付けるアルカスがいた。
先日。王が退位して新王が即位した上に、責任者の代替りも重なった為、ここ数日間。マグダリアの宰相をしている伯父と宰相補佐にされたアルカスは寝る暇もないほど大忙しだ。
書類を睨んでいたアルカスは、ピタッと手を止めてボソリと呟いた。
「騙された……」
「ん?人聞き悪いな。アルカス」
アルカスは、仕事をしながらニヤニヤと笑う伯父をギロリと睨み付けた。
世界を旅する生活を夢見て、ウィング領地を旅立ったアルカスを待っていたのは激務の毎日だった。
毎日毎日。出勤すれば、山のような書類が机の上に積み上がっている。
てっきり伯父に、下級文官を紹介して貰えると思っていたら、何故か宰相補佐に任じられたのだ。
普通。ある程度経験を積んだ者がなる仕事を、十五歳の少年がするとなると他の文官からは変な目でみられる……そして何よりも!!
「おはぎ高過ぎでしょう!庶民なら豪商位しか食べれない!」
「豪商は平民だろう?」
ニヤニヤ笑う伯父は、初めからアルカスを後継ぎにしようと思い、おはぎでアルカスを釣ったのだ。
こうしてアルカスは、高級おはぎを食べるために、がむしゃらに仕事を続ける嵌めになってしまった。
それから更に数年後。
伯父が引退し、アルカスは宰相に就任した。
嫌々宰相に就任したアルカスは、自分に宰相位を押し付けて世界一周の旅に出た伯父に毒づきながら、屋敷で大好物のおはぎにかぶりついている。
このおはぎを作ったのは、アルカスの妻だ。
アルカスの妻は伯爵家の娘で、名前はリーフィア。
一人娘だったリーフィアは、婿に入ってくれる男性を探していた。
当時の王妃様に招かれたリーフィアは、茶会でアルカスに惚れしてしまい、それからアルカスにしつこいくらいに口説きに口説きまくり、結局胃袋を掴み口説きおとした。
リーフィアは、金の薔薇と言う2つ名を持つ程美しい女性なのだが、見目麗しい家族に囲まれて育ったアルカスには、彼女位の美人では気にもならなかったからだ。
一方リーフィアは、美しいと言われていた見た目を更に磨き、誰もが口説く様な美女になってアルカスを口説くが、アルカスはリーフィアに振り返りもしない。
万策つきたリーフィアは、彼が好物だと言っていたおはぎを国一番の料理人に習って作って渡してみた。
すると、それだけでアルカスがリーフィアを見る目が一変し、一気に結婚までいってしまった。
リーフィアは若干の虚しさと、なんとも言えないやるせなさを感じながら、厨房で作ったおはぎを持って夫の元に行く。
「追加よ。アルカス」
「うん。ありがとう」
リーフィアは、おはぎをテーブルにおくと、アルカスの横に座って彼を上から下まで眺めた。
結婚してから十数年。
毎日毎日。食後やお茶の時間に、高カロリーなおはぎを食べているのに彼は全く太らない。
普段の食事量も多いのだが……不思議だ。
同じ食生活をしついるリーフィアは、ちょっと不味い事になっているのに彼の体に変化は無い。
リーフィアが、ちょっと殺気を滲ませた目でジッと見ていると、アルカスはピタッとおはぎを食べる手を止めた。
「あら?どうなさったの?」
「ああ。シリウス様がね……」
シリウス……
確か伯爵令嬢の産んだ王子で、長らく行方不明だったが数年前城に側妃として嫁いできた令嬢が産んだ子供だ。
「シリウス様がどうかしたの?」
「シリウス様が、初代様かもしれないんだよ」
初代様……
ウイング一族で初代様と言えば、ウイング家初代当主ユリナ・ウイング以外にいない。
リーフィアの家もウイング一族の傍系にあたるので、リーフィアも幼い頃からユリナの逸話を聞かされていた。
と言うか、ウイング一族の全ての家系に姿絵から性格。好きなものや嫌いなモノなど事細かに書かれた書物が伝わっているので、一族の者なら本人の知らない事まで知っている。
転生を繰り返し、魔力と知識を溜め込んでいるにもきわらず、余程でないかぎり表に出てこないのが彼女……いや彼なのだ。
「確証があるの?」
「だから、試しにこれを渡してみようと思う」
アルカスが、そう言って出したのは青いシナヨ。
他国では見せただけで、嫌がらせか!と怒られるシロモノだ。
紫や水色の食べ物はあるが、虫魔物の体液のような色をしたシナヨなど口にする者はいない。
何故。全く売り物にならない青いシナヨをウイング一族が作ったのかと言うと、初代が生前。青いシナヨが食べたいと良い続けたせいだ。
何百年も費やし作ったと言われるが、一族の者でさえ口にしたがる者はいない。
……成る程。初代様でもなければ、手に取る事すらしないだろう。
「結果が楽しみね」
「そうだな」
試してみた結果。シリウスは黒。
シリウスは本人が望まぬまま、初代の転生者としてマグダリアのウイング一族達の後ろ楯を得る事になった。
その数ヵ月後。マグダリアには新たな王が誕生する。
誰が王かは、はまた次の機会で……
ウイング一族と宰相様のお話でした。
ウイング一族は太らない体質です!
ユリナの本は、ユリナを崇拝的に愛していた子供達が残したものです。
後、ウイング本家は基本食いしん坊でできています。
ユリナの血のせいです。
後、暫くシリウス以外の視点が続きまがご了承下さい。




