青いシナヨ
ウイング一族の一人が出てきます!
あの人です!
ゲオルグの激励をうけたシリウスは、直ぐに離宮に戻ると作戦を練った。
バルトリーグは放置で大丈夫だとして、考えるべきなのはアリシオンスの事だろう。
側妃であるアリーマシュナは恋人との関係を表沙汰にする気は無いらしく、専属の侍女達に頼み込み恋人との関係を徹底的に隠していた。
彼女達のアリーマシュナに対する忠誠心はかなりのレベルで、時にマグダリア王にも逆らいながら二人の関係を守ってきたらしい。
そのうえ彼女達の忠誠心は、主であるアリーマシュナだけでなく息子であるアリシオンスにも向いているようで、アリシオンスが望めばだがアリシオンスが王位を得るのに全力で協力してくれそうだ。
全てはアリシオンス次第。
……アリシオンスどう唆そうか……
シリウスが私室でう~んと悩んでいると、コンコンと控えめなノックが聞こえてきた。
「シリウス様。サリアでございます」
「ああ。入って良いよ」
シリウスが入室の許可を出すと、母付の侍女であるサリアが焦った様な顔で入って来た。
入って来たサリアは、急いでシリウスに近くまで移動すると、内緒話でもするような仕草でこそこそとシリウスに話しかける。
「シリウス様。陛下がお話があると、いらっしゃってますがどうしますか?」
サリアはシリウスと王の関係が余り良くないのを知っているので、直ぐそこまで来ている陛下に聞こえないようにするために小声でシリウスに聞く。
何の話だろうか……ウゲッ……めんどいな……
「寝てたって言って」
シリウスはサリアに習ってそうひそひそ声でそう言うと、ソファーにゴロンと寝転び寝たフリを始めた。
半分あきれたサリアが退室するが、シリウスは気にも止めない。
そのまま本気で寝たシリウスだったのだが、突然の激痛に目を覚ました。
「いでっ!!何事!?」
「居留守を使うんじゃない!」
激痛に顔を歪めたシリウスは、ノロノロと立ち上がると寝ぼけ眼で回りを見渡した。
どうやら自分は、ソファーがひっくり返されたせいで床に投げ出されたらしい。
ソファーをひっくり返したの犯人は……居留守を使われたマグダリア王だった。
何故。彼が部屋の中にいるのだろうか?
サリアが止めてくれたハズなのだがと、シリウスが目線でサリアを探していると、サリアは入口で申し訳なさそうな顔をしていた。
どうや彼等は、サリアの制止を無視して押し入って来たらしい。
入って来たのなら仕方ない。
シリウスは、マグダリア王に向かってダルそうに頭を下げた。
「お久しぶりでございます陛下。本日はどのようなご用件でしょうか?」
シリウスは口調だけはマグダリア王を敬っているが、あからさまに嫌そうな顔をしていた。
そんなバレバレな態度をとるシリウスに、マグダリア王は不満そうな顔で呟く。
「……お前は何時になったら私を父と呼ぶのだ」
「陛下を父と呼ぶなど……とてもとても……恐れ多いですので……」
シリウスは、そう口にしながら目を泳がした。
シリウスにとってマグダリア王は、母の恋人であって父親ではない。
余り話した事も無いし、感覚的には上司の様にしか思えないので(父)とは思えないのだ。
流石に、実の父にそんな事を言うのも哀れなので口にはしない。
だが、口に出さずともマグダリア王は察していた。
マグダリア王は悲しげな眼でシリウスをみると、深いため息をつてから重々しく口を開く。
「父と呼ぶ気は皆無と言う事か……まあいい。私もお前に余りかまわなかったからな。それよりも……」
「シリウス殿下。新種のシナヨでございます!」
重々しく口を開いた王の台詞を遮って、宰相がシリウスの前に飛び出てきた。
マグダリア王は嫌そうな顔で宰相を睨むが、宰相を遮る事はしなかった。
もしかしたら宰相は、王が遠慮するほどの名家の出身なのかもしれない。
そんな事を考えながらシリウスが宰相を見ていると、彼は小脇に抱えていた箱をシリウスに、差し出してくる。
宰相が両手に収まる箱をパカッと開けると、中には一つの果実が入っていた。
シナヨだ!
形は丸い日本の梨で、本来の色は薄い黄色をしているのだが、これは深い海の底のように青い。
夢にまで見た青いシナヨ。
シリウスは差し出された青いシナヨを思わず掴み、天に掲げる。
それほど感激した。
「!おお!青いシナヨ!遂に出来たか!おお!青いシナヨは果肉も真っ青だな!しかも旨い!」
シリウスが、夢中でシナヨにかぶりついていると、宰相は嬉しそうにシリウスを見上げた。
「どうですか初代様。ご満足いただけましたでしょうか」
「ああ……いや俺は」
シリウスは、つい返事をしそうになり誤魔化した。
ウイング一族には、初代ウイング一族当主。ユリナ・ウイングの魂を持つ者を選別するための箱を渡してある。
新作のシナヨを転生しても無料で食べたいがために、ユリナは自分だと証明できるモノを子孫に残した。
しかし、今それを渡された訳ではない。
シナヨに飛び付いたくらいで、ユリナだと確信が持てるはずがない。
軽く困惑していたシリウスに、宰相は楽しそうにニヤリと笑った。
「誤魔化しても無駄です。青いシナヨを初めて見た者は、皆気味が悪いと口にしませんから」
気持ち悪いのか!
シリウスはその言葉に衝撃を受けた。
青が何よりも好きなユリナにとって、青いシナヨは夢だったのだ。
しかしそれ以上に、初代ウイング家当主ユリナ・ウイングだとバレてしまった事に驚く。
余程細かい資料か何かが、ウィング本家には保管されているのだろうか?
シリウスがチラリと宰相を見ると、宰相はその場でひざまづいた。
まるで、シリウスが自分の主であるかのように最高礼をする彼を、シリウスは嫌そうに見下ろした。
貴様の主はマグダリア王だろう!
「改めまして、私はアルカス・グレル・ウィングともうします」
シナヨを差し出してきた時点で分かっていた事だが、彼はウイング一族らしい。
バレたなら隠す必要は無い。
シリウスは、ため息をつきながら口を開いた。
「……はあ~君たちは凄いね良く気づいたよ。で?俺に何かしてほしいのかな?」
「ウィング家の……」
「拒否する。俺はウィング家初代、ユリナではない。魂が同じでも記憶をもっていても私はユリナではない。俺はシリウスだ。だから君らの期待には答える事はできないよ」
アルカスが言い終わる前に、シリウスは怒ったような困ったような複雑な表情でその言葉を遮った。
シリウスがジッとアルカスを見ると、苦虫を噛み潰した様な表情をしている。
予想通り、アルカスはシリウスに当主になってほしいと言いたかったらしい。
いくら初代ユリナの魂を持っていようとも、シリウスはシリウスでしかない。
魂が同じでも、全く同じでは無いのだ。
ウイング一族を道引くのは今を生きる人間。当代当主であるべきで、過去の人間が出てくるべきではない。
そう思いながらアルカスの反応を伺うと、アルカスは感動していた。
シリウスの言葉を咀嚼したアルカスは、尊敬の眼差しでシリウスを見上げながら体を震わせていた。
……何か嫌な予感がする。
「……はい。分かりました。ならば!微力ながらマグダリアのウィング一族は、シリウス様の手足となり働く事を誓いましょう!私は本家筋なので、逆らう者もおりません!」
いやいやいや!!そんなもの要らないよ!
シリウスは本気で止めて欲しいと思ったのだが、ヤル気満々なアルカスは早急に一族会議を開くために、遠話 魔道具を取りだし連絡を取り始めてしまった。
もう止めるのは無理だった。
「……なんか盛大なフラグがたった気がするがまあいいか」
忘れよう……本当に面倒だ。
忘れよう……忘れよう……あれ?何か忘れてないか?
「おい!私を忘れるな!」
グイッと腕を引かれて後ろを見ると、若干涙目なマグダリア王がシリウスをにらみつけていた。
……ああ……忘れてたよ。
宰相はウイング一族でした!
彼については後々小話で




