アリーマシュナ
側妃のアリーマシュナのお話です。
衝撃の事実にがあります。
かなり長くなってしまいましたがお楽しみください。
マグダリア王の側妃アリーマシュナは、公爵家出身だった。
彼女は広大な領地を持つ父の元に生まれたのだが、公爵には長年女児一人しか子が居なかった為に、マリーマシュナは跡継ぎとして厳しく育てられた。
しかし……
アリーマシュナが十才の頃。
公爵婦人が懐妊した。
魔術で調べてみると男児らしく、公爵夫妻は涙を浮かべて歓喜した。
数ヶ月して産まれた男の子はマシュランと名付けられ、待望の男児と言う事もありアリーマシュナの両親に酷く可愛がられながら育てられた。
跡継ぎである弟が産まれて、両親の関心はマリーマシュナから離れてしまったが、寝る間も無いような課題の山から解放されたアリーマシュナには、その地獄から救いだしてくれた弟が救世主の様に見えていた。
その為。アリーマシュナは弟に悪感情を抱く事は無かった。
その後。両親のみならずアリーマシュナや、使用人達までマシュランを甘やかしはじめてしまい、マシュランは二歳になる頃には……かなり我が儘な子供に成長してしまっていた。
これは不味い
跡継ぎに会いに来た前公爵がは余りの甘やかしぶりに公爵家の未来に危機感を抱き、半強制的にマシュランを両親から引き離し厳しくも優しく育て始めた。
しかし……前公爵と両親の教育は決定的に違うのは、子供に人間関係を築かせようとした事だろう。
その為に前公爵は、マシュランの為に年頃の近い自国や他国の少年と茶会を度々開いた。
しかしアリーマシュナの両親の教育方針は、友達を作る暇があれば勉強しろだった。
そのせいで、アリーマシュナは友達を作る事も許されず、寂しい幼少時代を過ごす事になってしまった。
礼儀がなっていないと言われてしまい、茶会や貴族の集まりにすら出席させてもらえないので貴族の友人は作れない。
しかし……
屋敷内に子供の使用人がいないわけでもなく、両親に見つからないように細心の注意をはらいながら、幼い使用人達と友情を育んだ。
でも密会の場所は屋敷内。
直ぐに両親にバレてしまい、注意される処か友人達は解雇されてしまった。
実は激怒した父に、友人達は犯罪者として罰を与えられそうになったが、何とかそれだけは阻止して解雇だけにしてもらった。
寂しい……
アリーマシュナは、解雇されていった友人に貰った、可愛らしい花が掘られた木彫りペンダントと粗末な布に小さなクローバーの刺繍が入ったハンカチをギュッと掴む。
これは先日、忙しい時間の合間に友人達が作ってくれたものだ。
誕生日に、祝ってすら貰えなかったアリーマシュナに彼らが送ってくれた大事なモノである。
これを見ていると、アリーマシュナの気持ちは少し落ち着いた。
気分転換に窓の外を見ると、遊びに来た隣の領地の跡継ぎ達とマシュランが楽しくお茶会をしていた。
そこには、自分と同じ年頃の令嬢も招かれていた。
マシュランから令嬢も来るのだと、楽しげに教えて貰ったマリーマシュナは、自分も出席したいと両親に言ったのだが、許しては貰えなかった。
それから数年もしない内に、厳しい令嬢が始まった。
その頃には新しいマグダリア王が即位し、即位後。直ぐに力の強い公爵家の令嬢が王妃となった。
だが、彼女が王妃になった後。王宮では王妃が好き放題し大変な事になったらしい。
そして父は、アリーマシュナに側妃なるように命じた。
アリーマシュナは、その頃には友を作る事など諦め大人しく親に従う従順な娘に成長していたのだが、彼女にも問題がある。
公爵達自身は、娘を完璧に教育したつもりだったし、王妃にするのを想定して教育していたので、王妃としての役目を果たさない王妃の代わりに役目を果たし、王の負担を軽くして、国の資産を食い潰す王妃を押さえる役目が容易に出来ると考えていた。
しかし……父の書斎で側妃の話と役目を聞いたアリーマシュナは、絶対無理だと思った。
録に社交を学ばせず理論や作法を詰め込んだだけの人形に、百戦錬磨の文官達でさえ抑えの効かない猛獣を扱える訳がない。
それすら思い付かない父を見ながら、アリーマシュナは自分の人生が終わったのだと絶望した。
重い足取りで王宮に入れば、直ぐ様逃げたくなった。
王宮は既に王妃の天下だったのだ。
どう考えても自分では無理。
しかし、公爵はアリーマシュナに王宮の財政を立て直せやら、王妃を勇めろなど無茶難題を口にしてマリーマシュナを責め立てた。
王宮の財政は王妃側の大臣が取り仕切っているので、王宮の予算さえ知ることが出来ないし、王妃のやり方に口を出せば食事すら出してもらえない。
結果的にアリーマシュナは、生きる為に父親に逆らい王妃の側につく事にした。
王妃側につくと、アリーマシュナが王妃にひざまづいて頭を垂れるながら宣言すると、王妃は微笑みながらマリーマシュナを派閥に入れてくれた。
王妃の派閥に入ると、王妃や取り巻きの令嬢達がアリーマシュナに構ってくれるようになり、楽しい毎日が始まった。
王妃主催の茶会に出席させてもらえ、夜会にも出してもらえた。
美しいドレスも宝飾品王妃から貰えたが、そんな事より友人が作れた事が嬉しかった。
王からの渡りは義務のように定期的にあったが、王の子を産みたくないアリーマシュナは、避妊薬を飲んで懐妊しないようにしていた。
王妃の派閥に入ってから、数ヶ月たったある日。
アリーマシュナは、王妃達に連れられ奴隷のオークションに会場に出かけていた。
勿論奴隷は違法なので、こっそりと城を抜け出す。
地下にもうけられた会場につくと、既にオークションは始まっていて、熱気に包まれていた。
王妃が予約していた貴族席にマリーマシュナ達が座り、舞台の様な場所を見るとマリーマシュナと同じくらいの少年と少女が引きずり出されてきた。
それを見たアリーマシュナは、目を見開いて驚いた。
昔……友人だった使用人達だったからだ。
マリーマシュナは父から自由になった後。ずっと彼らを探していた。
だが、まさか奴隷として売られていたなんて!!
実父に殺意混じりの怒りを覚えながら、王妃から貰っていた金貨を全額つぎ込み、アリーマシュナは彼らを買い求めた。
その後王妃達も好みの奴隷を見つけて買い、上機嫌で離宮に帰っていった。
離宮に戻ると、アリーマシュナは嫌な顔をする侍女と言う名の監視役を追い出し、彼らの鎖を引いて自分に与えられた離宮の一室に連れていった。
王妃から与えられた侍女からお湯をもらい、奴隷達に自分で体を洗わせるからと彼女らに今日はもう休むように命じた。
自分で洗わせると口にしたにも関わらず、アリーマシュナはタオルと石鹸を使い自らお湯で彼らを洗う。
男児も混じっているので、下着姿の彼女等を無心でひたすら交互に洗っていたら、突然彼らは振り向き泣きながらマリーマシュナに抱きついた。
「泣かないでアリー様!アリー様のせいじゃないから!」
「アリー様は私達を守ろうとしてくれたわ」
「アリー様が必死でかばってくれたから死なずにすんだんだよ。アリー様は悪くないから」
「……ごめんなさい……うっぐ……ごめんなさい」
アリーマシュナは彼女等の体を洗いながら、知らないうちに泣いていたらしかった。
それを見た三人は、見ていられなく抱きついたらしい。
暫くの間三人で泣いていた。
泣きながら、離れていた時間を埋めるように今までの生活を語り合った。
公爵は彼らを犯罪者として軍に引き渡そうとしたが、アリーマシュナがは必死に懇願する姿を見て、刑期が終われば出てこれる牢獄や労役より、一生自由の無い奴隷として売る方を選んだらしい。
公爵は、これでアリーマシュナに一生近づけないだろうと笑いながら話していたそうだ。
それから、転売に転売され今に至るらしい。
マリーマシュナも、自分に起こった出来事を口にしながら暫く語り合った。
お湯がかなり冷めた頃。アリーマシュナは彼らの体を拭いてから服を渡す。
栗毛の少女 ハルシアと、色黒な少女 サダリナには、侍女の服を。
濃いグリーンの瞳の少年。シオンには近衛騎士の服を渡した。
王妃にも、三人を雇う許可を貰ったので問題無い。
その後。
三人は身を寄せ会う様に、抱きしめ会いながら眠りについた。
翌日。
父と弟が先触れもなしに、アリーマシュナの離宮に訪れ侍女達が止めるのも聞かずにズカズカ入り込み、ちょうど食後のお茶をしていたアリーマシュナに怒鳴り散らしてきた。
「奴隷を買っただと!!何を考えている!犯罪だぞ!」
「姉上!わが家の顔に泥を塗るおつもりか!」
公爵だけでなく、マシュランもいたらしい。
キンキン叫ぶ二人をみながら、たとえ家族と言えど王家の一員である自分に対して、先ぶれも無しに押し掛ける常識の無い二人を呆れた目で見る。
いや……常識がないのではなく、二人にとってアリーマシュナは礼を尽くさなければならない相手ではないのかもしれない。
アリーマシュナは、嫌そうにため息をつきながらカップをおいて口を開く。
「礼儀しらずですのね。シオン衛兵を呼んできなさい」
「はい」
戦闘奴隷も経験したらしいシオンは、疾風のように素早く衛兵の待機場所にかけていった。
お客様にはお茶。
使用人根性の染み込んでいるサダリナとハルシアが、二人分のお茶を準備している事に気づいたアリーマシュナは、直ぐに二人を止めた。
「ああ。サダリナ。ハルシアお茶は出さなくても良いのよ直ぐに帰るから」
「「分かりました」」
二人は茶器を仕舞うと、アリーマシュナの横に控えた。
アリーマシュナは二人に指示を出した後、ゆっくり立ち上がると公爵とマシュランを真っ直ぐ見つめて口を開いた。
「私は妃。生まれはどうあれ今は王家の人間ですわ。そして貴方は公爵家。王家の臣下。今の私は令嬢ではないのだから公爵家は関係ないし、暴言を吐かれる言われもないのよ。衛兵連れていきなさい」
「はっ」
いつの間にか到着していた衛兵に捕縛された二人は、何事か怒鳴り散らしながら消えていった。
それを見送ったアリーマシュナは、公爵が追い出された事に唖然としていた四十代位の侍女に軽蔑したような視線を向けた。
「ああ。それと貴女は解雇するわ。公爵家に帰るなりなんなりしなさいな」
「!!アリーマシュナ様!」
驚き目を丸くする侍女に、見下すような視線を向けたマリーマシュナはクスクスと笑いながら彼女に言い捨てた。
「細々とした事はリラマリア様がつけてくださった侍女がしてくれるし、側使え侍女は彼女等が要るから居るから要らないわ。それに私は貴女が嫌いなの。今まで父に逆らえずに、仕方なく貴女を側に置いていたのだけど……父と決別したしもういいでしょう」
産まれた頃から世話をし続けた、娘の様な存在に嫌いだと言われてしまった彼女は涙を浮かべてアリーマシュナに叫んだ。
「幼少の頃よりあなた様にお仕えしてきた私に……酷くはありませんか!」
「私に使えていた?面白い事を言うのね。貴女が使えていたのは私はなく父でしょう?私知っているのよ。あの子達と私が、友達になった事を父に告げ口したのは貴女よね?昔。私は貴女が見方だと信じていた……信じていたのにね……」
裏切ったのは貴様だろう?暗にそう口にしたアリーマシュナに侍女は息を飲んだ。
バレていたなど思っていなかったのだろう。
侍女は、アリーマシュナを無意識の内に軽視していた事実に気づいた。
嫌われても仕方がない。
「……アリーマシュナ様……」
「去りなさい。二度と会いたくないわ」
「……承りました。アリーマシュナ様」
関係を改善することすら叶わない。
彼女は悲しそうに離宮を去っていった。
シオン達が見つかってから数日もしない内に、アリーマシュナはシオンと恋人になっていた。
昔から恋人未満な関係だったし、自然な流れだった。
しかし、それから三日に一度くらいの王の渡りが嫌でたまらない。
子が宿るまでずっとなんて嫌。
でも王の子は産みたくない。
なので、恋人関係になったシオンと子供を作る事にした。
犯罪だが仕方ないと自分を騙す。
そして数ヶ月。不義の罪を犯していると子供ができた。
すると、ピタリと渡りは無くなり更に数ヶ月後には無事に男の子を出産した。
それが、第一王子アリシオンス。
可愛い可愛い私の息子だ。
私はこの秘密を守るためなら……国さえ破綻させても構わない……
アリシオンスは不義の子でした。
王候補から外れます。
次回は盆で忙しいので29日に投稿します。
申し訳ありません




