面倒な召集
シリウスが一気に成長します!
シュナとシリウスが王宮に移り住んでから五年の月日が流れ、シリウス十五歳になっていた。
あれから毎日ゲオルグの厳しい訓練を受け、一般騎士並の技術は身につけたとシリウスは自負している。
「強くなったな」
ゲオルグもシリウスと同意見らしく、汗水垂らして日課の訓練をこなしてるシリウスを楽しそうに見ながら、クックックと笑っていた。
ゲオルグにとってシリウスは、主君の息子と言うより手のかかる弟子…いや手のかかる息子のようなモノだった。
甘えたい盛りの子供を、五年も育ててきたのだ。
時に叱り、たまに肩車をしてやり、母親には相談出来ない男特有の悩みの聞いてやったり、解決策を教えてやったりしてまるで親子の様に接してきた。
身分の低い王子だったので、気安い態度を取っても咎められる事もなかったからだ。
ゲオルグが親子の様だと感じたように、シリウスもゲオルグを父親の様に感じていた。
シリウスにとって、たまにしか自分に会いに来ないし、敬語でしか話せない父王よりも、ゲオルグの方がよほど身近な存在だったからだ。
「ありがとうございます!師匠」
シリウスが幼い子供の様に嬉しそうに笑うと、ゲオルグは昔を懐かしむ様に笑いながらシリウスを眺めて笑う。
「初めは才能の無さに頭を抱えたものだったがな…何とかなるもんだな」
「自覚あるから言わないでよ」
ゲオルグの台詞に、シリウスがムッとしながら鉄剣を構え直していると、文官に呼び出されていたサリアさんが、王宮から慌てた様子でシリウスの側まで走ってきて、ただならぬ様子でシリウスに叫んだ。
「シリウス殿下!陛下が御呼びです!」
陛下の呼び出し…
「ヤだな…逃げ…いでっ!」
国主の召集をバックレようとしたシリウスを、ゲオルグがポカリと軽く殴って戒める。
ゲオルグがそのままシリウスを責めるように睨んでいると、シリウスが嫌そうに顔を歪ませた。
「わかった!分かりましたよ!行くよ!行きますよ!」
シリウスはそう言って鉄剣を訓練場の指定の場所に直すと、すぐ近くの兵士達が良く使う水場で汗を流し体を洗う。
粗方体を洗うと、泥と汗の染み込んだ訓練服を脱いで 、替えの服に着替える。
そして離宮に戻ってから、王子らしい立派な服に着替えて迎えに来るらしい兵士を待った。
小一時間程で兵士達がシリウスを迎えに来たので、シリウスは兵士達に連れられて初日以来全く行かなかった王宮に向かってあるきだした。
王宮の中を兵士達と進み謁見の間にくると、兵士達が先触れをしてから扉を開ける。
中には既に数人の男達がいて、玉座の前に敷いてある絨毯の横に立っていた。
玉座前にある階段を降りてすぐの場所には、二人…他の兄王子達もいて膝まづいている。
「第三王子シリウス王子が到着いたしました!」
扉を守る兵士が謁見の間のなかに向かってそう叫んだ後に、シリウスは中に入り王子達の一メートルくらい後ろで立ち止まると膝まづき頭を下げる。
それを確認したマグダリア王は、一つ息を吸うと静に口を開いた。
「よく集まってくれた。アリシオンス。バルトリーグ。シリウス。実は私は近々退位を考えている。よってお前達の中で最も王に相応しい者に、王位を渡そうと考えている」
マグダリア王がそう言うと、右側にいた大臣が慌てた様子で王に叫ぶ。
「陛下!正妃様の第一子のバルトリーグ様が相応しいのではありませんか!」
すると、それを聞いた左側にいた大臣が、怒ったように左側の大臣に叫んだ。
「いや第一王子であるアリシオンス様の方が相応しいだろう!」
右側にいた大臣は正妃の父親で、左側の大臣はアリシオンスの信者だったなと思いながらシリウスが様子を伺っていると、両者は睨み合いを始めた。
そんな大臣達を、マグダリア王はギロリと睨んで鋭く睨み付ける。
「決定するのは私だ。異議があると言いたいのか?」
ハッとした大臣達は、いがみ合っていたにも拘らず息の合った仕草で二人同時に王に頭を下げた。
「「出すぎた真似をして申し訳ありませんでした」」
マグダリアは大臣達の謝罪を聞くと、王子達に視線を向ける。
「ではお前達。一月後の建国記念日に王たる資質を示せ」
「「「はっ。承りました」」」
マグダリア王はそう言うと、宰相を連れて退室した。
その日の夜。
王は、自室で楽しそうにマグダリアの地図を眺めていた。
「さて別荘は何処にするかな」
「陛下。彼女も連れていくきですか」
宰相が、王子達の素行調査の書類を持って部屋の中に入ってきた。
これから一月の間の行動だけではなく、今まで王子達が何をしてきたかも判断対象だからだ。
しかし、王は既に退位した後の事しか頭に無いらしい。
「当たり前だろ!あのアバズレともう一秒も共にいたくない!俺は頑張った!もうシュナと第二の人生を送ってもいいだろう!」
王は余程あの妃達が嫌いなようだ。
それよりも…気になるのは…
「いえ。文句などありませんよ。しかし…はたして誰が王になりますかね」
「アリシオンスじゃないのか?後ろ楯の公爵家の力はバルトリーグの方が強いが、アリシオンスは文武共に優秀だし、臣下の受けもいいぞ?」
当たり前だろう?とマグダリア王が不思議そうに宰相を見た。
一応書類を確認はするが、問題行動も多いバルドリーグではなく優秀なアリシオンスで決まりだと、マグダリア王は考えているらしい。
「シリウス様を忘れていますよ」
宰相がそう言うと王は、ん?と首をかしげてシリウス付きの教師達の言動を思い出していた。
「シリウスか?アイツは全てにおいて平凡だぞ?教師も呆れるくらい勉強を嫌っているしな」
王子として、身に付けなければならない教養や歴史の教師達の呆れた顔が目に浮かぶ。
シリウスは後ろ楯のない側妃を母に持っているから、本来兄王子達以上に努力し、支持する派閥を作らなくてはならなかったのだ。
もう少しシリウスに才能か、努力
する根性があれば…シュナが舞踏会で馬鹿にされずに済む筈だと苦々しく思う。
マグダリア王がシリウスに余り会いたくないのは、怠け者のシリウスを嫌いだからでもあったのだ。
「ええ。しかし…可笑しいんですよね…王妃様が日々シュナ様に嫌がらせをしているにも関わらず、シュナ様への被害が皆無なのです。シュナ様に虫の死骸が届けられたハズなのに、それが王妃のベッドに撒かれていたり、王妃の命令でシュナ様の食事を減らされたハズなのに、何故か王妃用の食事がシュナ様に出されていたり、果ては刺客を送られたと密偵から連絡を受け慌てて駆けつけると刺客がのびていたりと…陛下はシュナ様に護衛なんてつけてないですよね」
宰相がチラリと王を見ると、王はガバリと立ち上がり目を見開いて宰相に詰め寄った。
「お前に任せて安心していた…と言うかお前がしたんじゃないのか?!」
「私ではございません」
「シュナが…そんなことを出来たら売り飛ばされるなんてないか…しかし…誰が」
シュナには友人もいなければ、守ってくれる様な優しい親兄弟は居ない。
派閥も持っていないし、誰が助けているのか検討もつかなかった。
「…シリウス様かもしれませんね」
宰相がボソリとそう言うと、王はフルフルと首を降った。
「剣術バカのアイツが秘密りに刺客を撃退なんかできるわけ…」
「先日の晩餐会で私はシリウス様をずっと観察していました。言葉遣いにマナーもカンベキで、母に笑いかけながらも良く回りを観察していた様子でした。給事のメイドの中に顔色の悪いメイドがいて、シリウス様は彼女を何故か魔術で転ばせて運んでいた飲み物を駄目にさせていました。後で彼女を調べると毒を所持していらしく…シュナ様にその毒を盛れと命じられたらしいのですが、黒幕を口にする前に突然苦しみだして死んでしまいました。どうやら彼女も毒を飲まされていたらしく、毒殺が成功すれば解毒剤を与えると言われていたらしいです。シリウス様は確信犯ですよ」
…シリウスがシュナを守った?しかし偶然にしては出来すぎているし、宰相の言葉は教師達話と食い違う点が多い。
「シリウスと話してみるか…」
今まで避けてきたが、一度話をした方がいいかもしれない。
マグダリア王がそう言うと、宰相は嬉しそうに頭を下げた。
「その時は是非。私もご一緒させてください。もしかしたらあの御方かもしれないので!」
「…あの御方?」
「何でもございませんよ。さあ行きましょう!」
あの御方…そう言えば宰相の一族は…面倒な事になりそうだ。
宰相の一族が何者なのかは直ぐに判明…と言うかバレバレかもしれませんね。




