バレた!!
今度はルシアがピンチです!
オウルが、ルシアと夫婦になってから一年たったある日。
オウルは妻のルシアを連れて、港町に来ていた。
買い物の為でもあるが、もっと大事な用がある。
それは何かと言うと、あの盗賊の一件以来。何故か仲良くなってしまった ライクス率いる警備兵の皆に、妻のルシアを紹介するためだ。
一応。ライクスの母には、口頭でルシアの事を告げていたのだが、ライクス達にはまだ話していなかった。
本当はもっと早くに、ルシアをライクス達に会わせる予定だったのだが、重大な問題が発生した。
妊娠。ルシアがオウルの子供を妊娠したのだ。
妊娠したルシアは、悪阻が酷くて情緒不安定になり、暫くオウルから離れなかった程に不安定だった。
しかし子供が産まれるのだから、必要なモノは多い。
なので買い物に出かける時は、体内で眠っている精霊を魔術を叩きつけて起こし、不安がるルシアの話し相手をさせている隙に港町に買い出しに出かけていた。
港町に行ったオウルは、ライクスの母に新生児に必要なモノを売っている店を教えてもらい、必要品を買うと大急ぎで家に帰り、ルシアに涙ながらに迎えられ、食材が減ると急いで獲物を狩って帰り泣きじゃくるルシアに抱きつかれるの繰り返しだった…色々な意味で大変な毎日だったのだ。
ルシアの体調も戻ってきたので結婚式は近々する予定だが、取り敢えず ライクス達に紹介しょうと思いオウル達は、ライクス達がいる港町に来たと言うわけだ。
ルシアが妊娠していても、転移魔術で移動すれば問題ないのではないか?思うかもしれないが、ルシアを探している追っ手達が諦めていないともかぎらないので、素早く逃げることが出来ない妊婦を町に連れていく事は出来なかった。
転移魔術も魔法陣を書く時間がいるから、どのみち逃げ回らなければならない。
オウルの魔術は万能でもないのだ。
そう言うわけで身重の彼女を町に連れてこれなかった為に、結局ルシアはあのツリーハウスでオウルとの子供を出産することになった。
幸いオウルは、前世で何人も子供を産んだ記憶があるので産婆役は問題無く、ルシアは無事。男の子を出産した。
息子であるオルクの事は、一切ライクス達に話していない。
ルシアの事すら言っていなかった…いや…言い忘れていたのだ。
ライクスの母親から伝わっていると思っていたのだが、息子が何か最近忙しくて全く店に来ないと言っていたので、母親経由でルシアの話がされている可能性は低い。
なので改めて、盗賊事件以来。オウルの知人に昇格した詰所の皆に、妻子を紹介しに来たと言うわけだ。
オウルがそんなことを考えながら、ツカツカと町を歩いていると目的地である兵士詰所が見えて来る。
オウル達は、兵士詰所の前で止まると赤子を抱いていて両手がふさがっているルシアの代わりに、オウルが詰所の扉をトントンと軽く叩く。
オウルがノックすると、中から兵士達が出てきて扉を開けてくれて、兵士達は久しぶりの再開を喜んでくれた。
そしてオウルが、その場でルシアと息子。オルクを皆に紹介すると、兵士達は驚きながらオウル達を祝福してくれた。
奥さんに似て良かったな!なんて言った奴がいたが、オウルはそいつのポケットにコッソリと、ルシアにプレゼントする予定だった香水と、それを染み込ませた女モノのハンカチを入れる。
ルシアへのプレゼントは後でまた買えば良い。
クックック…
確か彼は既婚者だ…奥さんと喧嘩になるが良いさクックック…
黒い笑顔を浮かべながら、オウルは妻子を周りに紹介しつつ施設内を歩く。
そして、一番奥の部屋の扉の前まで来るとオウルは、その扉をコンコンとノックした。
「ライクスさん!オウルだよ」
「オウルか。入れ」
ガチャリと扉を開けてオウル達が入ると、声を出そうとした顔をあげたライクスは、カチンと固る。
何故かと言うと、オウル以外に美少女がいたからだ。
「オウル?その子は」ライクスさん。俺父親になったよ。この美人な人が妻のルシアで、このこ息子のオルク」
妻?!しかも子供だって!
ガタッ!!と椅子を蹴倒して立ち上がる彼の目には、美少女に抱かれる赤毛の赤ん坊が映る。
あの真っ赤な髪は、明らかにオウルと同じものだ。
「いつの間に!ってかオウル女がいたのか!」
奥さんどころか彼女すらいないライクスは、悲痛な声で自分の半分しか生きていないオウルに叫ぶ。
人間関係すら面倒がっていたのに、妻子持ちになったなんて!
「うん。俺もビックリだよ。彼女はね…俺の住んでる森に逃げてきたんだ。何か訳ありみたいだし…そこらへんは追及しないであげて」
…彼女はかなりの訳有り少女らしい…面倒事を嫌うオウルが、家に招くなんて珍しい。
良く自分の家に住まわせたな…とルシアの顔を直視してライクスは納得した。
彼女はオウル好みの、人形のような…凍り付きそうなくらい冷たい美貌を持っていたからだ。
…オウルは美しいモノをこよなく愛す。
なので見捨てられなかったようだ。
「分かったよ。祝い代わりにこれをやろう…」
ライクスはそう言うと立ち上がり、執務机の引き出しから小さな箱を取りだし、オウルに渡した。
オウルはその箱を受けとると、そっと箱を開ける。箱の中に入っていたのは、小さな青い宝石のついたネックレスだった。
実は昨日。
ライクスは長年片想いしていた雑貨屋の娘さんに、このネックレスをプレゼントしようと思っていた。
…しかし…彼女は今日…王都に…
実は彼女は…王都に恋人がいたらしく、数日前やっと家族を説得できて、想い人と結婚できる事となったらしい。
式も王都でする予定と言っていたので、家族も一緒だ。
…告白する前に振られてしまった…
オウルは、ライクスの苦い思い出の品を何も知らずに笑顔で受け取り、ライクスに軽く頭を下げるとそのネックレスを、ルシアに抱かれた息子の首にかけた。
女物なのだがオウルは分からなかったようで、息子の誕生祝いだと考えて息子に貰ったのだと考えたらしい…まあ…いいか。
「有り難う御座います。大事にしますね。俺は買い物がありから」
「ああ。またな」
オウルが部屋を出て三十分後。
ライクスが、羨ましい妬ましい気持ちを押し殺しながら黙々と仕事をしていると、バン!!と扉を殴るように開かれた。
ライクスは、ノックもせずに入る馬鹿は誰だと睨み付けようとして慌てて笑顔を作る。
招かれざる侵入者は、王都の貴族だったからだ。
彼は中肉中背の中年男性で、爵位など細かい事は知らないがかなり偉いらしい。
「ルハン殿。見つかりましたか?」
ライクスは見つかったかと聞かれて、内心冷や汗をかきながら作り笑いを深めると、言いにくそうに部下からの報告の結果を口にした。
「紫紺の髪に青い目をした十六歳の少女ですよね…民にも聞きましたが…目撃情報はありませんでした」
「…そうですか…くっ…もう時間が無い!」
進展が無いと聞いた貴族の男性は、苛立ち紛れに殴るように扉を閉めると執務室を出ていった。
扉が壊れていたら、あの貴族に修理費を請求しよう。
ライクスはハアーとため息をつくと、再び実務をするためにペンを手にした時…
ライクスは、あ!とオウルとオウルの妻の姿を思い浮かべた…そう言えば…
「…あ…ルシア…瞳の色が…いや…まさかな」
ライクスはフルフルと頭を振ると、再び書類整理に没頭する。
実はあの貴族のせいで、かなり滞っていたので今日も残業である…ハアー…家に帰っても誰もいない…疲れた体と心を癒してくれる奥さんが欲しい…
ライクスは寂しげに執務を再開した。
その頃。
こうなったら自力で探そうと町に飛び出した貴族男性は、数人の護衛を引き連れてドスドスと苛立ち混じりに町を練り歩く。
町人は、触らぬ神に祟りなしと貴族達を遠目で眺めるだけで近づきもしなかった。
「くっ…田舎の兵士は本当に役に立たんな!!ルシア…何処にいるのだ!」
彼の名前はルシハルト・ルイデクス。
ケントルム国。公爵家当主。
彼には息子と娘が一人づつおり、絶世の美貌を持った娘は王太子に気に入られて、成人を待って王太子妃となる事になった。
しかし…娘が十三歳になったある日。
娘が王太子との婚姻は、やはり嫌だと私に泣きついてきたのだ!
勿論。私は突っぱねた。
王太子妃が嫌だなどと、何を考えているのだろうか?
理解できない。
我が儘を言うなと、言い聞かせていたら…ある日ルシアは、家出をしてしまった。
ルシアは箱入り娘だし、俗世に疎いので直ぐに捕獲できると考えていたのだが…見つからない!!
三年たっても見つからず、王太子に言い訳するのも苦しくなっていた。
ルシハルトが思い通りにいかない娘に、苛々しながら町を歩いていると…
「オウル!この布どうかしら」
「いいね。それにするか…後は栄養の有るものを」
目の前に…三年…探しに探し続けたルシアがいたぁぁ!!
「ルシア!!」
「!!お父様!なぜここに!」
捜し人が見つかり安堵と怒りを露にする貴族男性が、見つかった事に脅え固まるルシアに手を伸ばす。
するとオウルは、ルシアを庇うようにルシアの前に立ち、妻を呼び捨てにした男を睨み付けた。
ルシアパパ登場です!
オウル編も後少しですが、まだまだ続きます!




