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目指せ孤独死!御一人様!!  作者: 柳銀竜
捨て子のオウル
22/55

ルシア

あの人の生まれ変わり登場です!

 

 盗賊事件から三年後。


 十三歳になったオウルの住む静かな森に、またもや招かれざる客が現れた。


 長くしなやかな紫紺の髪を風に靡かせ、玉のような汗を陶器のような肌に張り付けたオウルと同じくらいの年齢の少女だ。


 彼女は今。美しい顔を歪ませながら、労働などした事がなさそうな細い手足で、大人でも苦戦しそうな獣道を歩き続けていた。


 彼女が着ている使用人風のワンピースの裾は、長時間森をさ迷ったせいで擦りきれていて、靴もボロボロになっている。


「ハアハアハア…此処までくれば大丈夫…これからどう生…」


 人が立ち入らないほど深い森を、丸一日飲まず食わずでさ迷った少女は、そのまま力尽きた折れ込んだ。


 そんな彼女の様子を、魔術を使って隠れながら観察していたオウルは、慌てて少女に駆け寄り彼女が地面に倒れる寸前。何とか間に合い抱き止める。


 今までオウルは、魔術で楽をしていたせいか男にしては腕力が弱く、少女を抱き止めた瞬間。


 自分の腕で彼女の重みを支えきれず、によろけて転けそうにしまった。


 転ぶのは回避できたが…カッコ悪い…


 オウルはちょっと恥ずかしくなりムッと口を尖らせると、少女を休ませるべく、住み慣れた我が家に連れて帰った。


 彼女を助けた理由は、何かから逃げてきた風な彼女の姿に同情したのと、単純に美しい女性が地面に倒れて石ころなどで顔に傷をつけるのが嫌だったからだ。



 次の日の朝。


 オウルのベッドに寝かしていた美しい少女は、やっと目を覚ました。


 目を覚ました少女はスクッと上半身を上げると、回りをキョロキョロと見回す。そして台所に立つオウルを見つけると、怯えた顔でオウルを見つめた。


 少女の視線に気づいたオウルは、怯えた顔をする少女に苦笑いしながらベッドに近づき、今出来たばかりのスープを少女に差し出す。


「気が付いた?スープ食べる?」


 オウルは何かに怯えている少女を、出来るだけ刺激しないように優しく笑い語りかける。


「…ありがとうございます」


 少女はオウルの笑顔に頬を染めながら、スープを受けとるとよほど空腹だったのか直ぐに食べ始めた。


 オウルは少女がスープを食べ始めたのを微笑ましく見ながら、世間話をするように気軽な感じで少女に話し掛ける。


「君は貴族だよね?迷子かな?それを食べたら町に連れていってあげるよ。君の家族もさがしているだろうし…!!」


 オウルは彼女が軽装だった事から、好奇心で森に入り迷子になって獣から逃げてきた…もしくは身代金目的で誘拐されて逃げてきたかと思いそう告げると、少女は空になったスープの器をボトリと落とし、ガシッとオウルに抱きついた。


 器は木製だから割れなかったし、ベッドの外側に落ちたのでシーツは汚れずにすんだ。


「止めてください!私は家族から逃げてきたのです!お願いです!」


 逃げてきた…逃げてきた?!


 彼女の服装は軽装で、録な準備も金も行き場も決めずに慌てて逃げ出した様にも見える。


 彼女の様な美少女ならば、上級貴族にだって嫁げそうだしから、親は必死で探しているだろう…うわぁ…なんと言うか…


「…面倒そう…」


 オウルがそうぼやくと、少女はスクッと立ち上がり、泣きそうな顔をしながらオウルに頭を下げた。


「!!わかりました…スープありがとうございます…美味しかったです」


 少女はそう言うなり台所にかけより、食材を切るのに使っているナイフを手に取って自分の首に当てる。


 それを見たオウルは慌てて少女に駆け寄り、彼女が握ったナイフを取り上げた。


「止めっ止めろ!…ハア…分かったよ…匿ってあげるから!死ぬなんて止めて!」


 少女の腕力は意外と強く、ナイフを取り上げるのにオウルはバレない程度に魔術を使う。


 …今度から薪割りは魔術に頼らず自力でやろう…男として駄目だ…


 オウルが落ち込みながらも少女に匿ってやると告げると、少女は絶望的な表情から一変して、心底安堵した様に弱々しく笑ってその場に崩れ落ちる。


 そんな彼女を、オウルは慌てて抱き止め抱き止められた少女は、オウルを見て微笑んだ。


「ありがとうございます」


 人の…美少女の生き死が、かかっているなら仕方ない。


 オウルは気ままな独り暮らしを諦め、この美少女を彼女が出ていく気になるまで匿ってやる事に決めた。


 まだ長旅で疲れきっている少女をベッドに再び寝かすと、オウルは盗賊に家が襲われた後に作った魔術 (隠蔽)を発動させ家を隠してから家を出て地面に下りる。


 下りると、家の土台になっている木に穴を開けて隠していた懸賞金を取り出してから、転移魔術で港町に出かけた。


 目的はベッドや食器、小物類だ。


 一人暮らしだったので、家に一つ ずつしかない。


 食器やベッドは同じで良いとから悩まないが、服は別だ。


 前世で好んで着ていたシンプルなデザインのワンピースを選んだのだが、少女が気に入るか分からない。


 少し不安だったのだが、ワンピースを受け取った少女は嬉しそうに袖を通していたので、そう悪くは無かったのだろう。


 良かった…


 オウルは彼女を風呂場に案内して、体を洗わして服を着替させた後。


 直ぐに夕食を作り、風呂上がりの濡れ髪の少女とともに夕食を食べる。


 彼女は完全にオウルに心を許した様で、ポツポツと自分の現状を語ってくれた。


 自分の事情に巻き込んでしまったオウルに、聞かせた方がいいと考えたのだろう。


 彼女は自分が貴族で、意に沿わぬ婚約話が出たこと。


 その男と結婚するくらいならば、のたれ死ぬ覚悟で使用人の服を拝借し、アクセサリー以外何も持たずに行き先も知らぬ荷馬車に潜り込み、あの港町に着いたこと。


 数日間は、身に付けていた装飾品を売って食べ物を得ていたが、町で王都の騎士を見かけ慌てて町を逃げ出し、偶然この森に迷いこんだ事をオウルに告白した。


 そして彼女の名前はルシアと言い、姓はオウルにも言えないらしい。


 名前がわかれば呼ぶのに困らないし、姓はどうでも良いから教えてもらえずとも別に構わないが…姓が言えないなんて…やはり名家の出だろう。


 貴族は醜聞を嫌うので、家族は必死で探しているだろうと思う…ルシアを結婚させる為に。


 思ったよりヤバイ感じだし、ほとぼりが冷めるまではルシアを町に近づけない方が良さそうだ。






 それから二年。


 もうそろそろ、町に行っても大丈夫かと思い始めたある日。


 大木の前で洗濯をしていたオウルは、最後の一つを絞り洗濯物を干しているルシアに渡すと、大きめの切り株に座りボウッと空を眺めた。


 何か悩んでいる様にも見えるオウルを心配したルシアは、洗濯物を干し終わった後。

 オウルの横に座り、気遣わしげな表情で彼を見上げ話し掛けた。


「どうなさいました?オウル様」


「様は要らないよ。それに貴族言葉になってる」


 オウルがクスクス笑いながらルシアを見ると、ルシアもクスクス笑いながら口を開いた。


「そうでした。で?どうしたの?オウル」


 直ぐに笑いを引っ込めたルシアが、誤魔化すのは許さないとばかりにオウルはを見ると、オウルは遠くを見る様な目で空を見上げてから、力なく口を開いた。


「いやね…何か俺達…夫婦みたいになってきたなと思ってさ」


 ベッドは違うが同じ部屋で寝起きし、力仕事でもある洗濯物を一緒に片付け、一緒に食事を作り一緒に食べて、ルシアが食器の片付けや掃除をしている間に狩りや町で買い物をして、一緒に洗濯物を取り込み、夕食を一緒に食事を作り、一緒に食べる毎日。


 まるで、仲の良い夫婦のようである。


「!!私は…その…」


 夫婦のようだと言われたルシアは、モジモジしながらオウルを見る。


 戸惑っている様にも見える彼女の仕草を見たオウルは、ルシアが結婚を無理強いされた過去があるのを思いだし、慌てて両手と首を振った。


「ああ。大丈夫だよ。ルシアに結婚を迫ったりしないから…「私に魅力がないからですか!!」


 安心させようと言ったオウルの言葉を、途中で遮ったルシアはオウルにズイッと詰め寄る。


 そして彼女の青い目が、鋭くオウルを射抜いた。


 余りの鋭さに、小心者のオウルは正直に自分の気持ちを口にする。


 誤魔化せば、何をされるか分からないと彼女の目が言っていた。



「え?いやルシアは魅力的だよ。かなり」


 魅力が無いなんてとんでもない。


 出会ってから二年たつが、ルシアは本当に美しくなった。


 始めから美しいが、蕾が花咲くように少女から大人になっていった彼女は、本当に魅力的で男であるオウルは気になって仕方がない。


 なので寝る時は、二人のベッドの間に衝立を立てて彼女のあられもない寝姿を極力見ないように過ごしている。


 オウルがルシアと一緒に生活するには、高い忍耐力が必要だった。


 オウルがルシアに思ったままの言葉を告げると、ルシアは嬉しそうに顔を綻ばせオウルに抱きつき叫ぶ。


「本当!オウル!オウルも魅力的です!優しくて柔らかい笑顔が素敵!貴方の子供を生みたいくらい愛してますわ!」


 え?今何て言った?


 オウルが目を見開いてなされるがままになっていると、ルシアはオウルから少し離れ悲しげにオウルを見つめた。


「迷惑ですか?貴方に嫌われたら…」


 悲しげに自分を見上げる美少女に、オウルは慌てて「迷惑な事なんかないし俺も好きだ」と言ってしまった…その瞬間。


 ルシアはオウルの口を塞いだ…!!口を塞いだぁぁ!!


「嬉しいわオウル…なら…良いわよね?オウル…」


 ルシアはそう言うなりオウルを抱き抱え、ルシアが来てから不便だろうと取り付けられた梯子を登って家に戻るり、ルシアはオウルをベッド下ろした。


「わっ!ルシア!ちょっ」


「ルシアではなく、ルーとよんで!私の愛称よ!」


 ルシアは、ズイズイオウルに詰め寄る。


「ルシア!ルー!ちょっ止めて!」


 オウルは叫ぶが、その口をルシアが塞いで黙らせた。


 翌朝。


 ベッドの上でオウルは項垂れていた。横には生まれたままの姿のルシアが眠っている。


「…やっちゃったよ…」


「やはり私では…」


 いつの間にか目を覚ましたルシアが、悲しげにオウルを見つめてきた。

 それを見たオウルは、慌ててルシアを抱き締めた。


 ルシアに悪い所は無い。


「いや違うよ!ルシアとの事は後悔してないけどさ…お一人様計画が…」


「お一人様?」


 …そう…このままでは、お一人様計画が…まあ…いいか…


「仕方無い…ルシア此れからも宜しくね」


「はい!これからもよろしくお願いします!」


 良く良く考えれば、彼女と暮らし始めた時点で既にお一人様ではないし、何よりルシアを悲しませたくはない。


 それに自分を抱えるほどの…この二年で自分以上の腕力を身につけたルシアがちょっと怖いので、逆らいたくはない


 オウルが色々と諦めてルシアの頬にキスをしながらそう言うと、ルシアは幸せそうに笑った。



オウルは結局。大した腕力が身に付きませんでした。

面倒臭がりですからね。

ルシアはスープは、スープを差し出した時のオウルの儚げで優しげな笑顔にノックアウトされてしまい。

オウルの役に立とうと、家の掃除から薪割り料理とかしているうちに腕力が身に付きました。

ルシアの回りの男たちは、男尊女卑が激しく躾に厳しいので優しい言葉などかけて貰った事がなく。

オウルの優しさに思いが募り食ってしまいました。

お一人様は無理ですね…

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