捕獲
オウルは、どんどん人と関わっていきます…彼は孤独死できるのでしょうか…
結論から言うと、奴隷としても炭鉱夫としても売られる事は無かった。
オウルがライクスに連れてこられた場所は食堂で、大きさはソコソコ大きいと言う程度。
危険な香りも一切しない…庶民的な町の食堂だった。
ここで働かされるのだろうか?…危ない感じはしないから…まあ良いか
…
オウルが諦めモードでそんな事を考えていると、ライクスはオウルを連れて躊躇うこと無くズカズカと店に入る。
かなり馴染みの店なのか、なれた様子でカウンター席にオウルを下ろすと、近くの席に座りオウルに笑いかけた。
「座れ。奢ってやるから」
「美味しいの?」
オウルはライクスの指示に大人しく従いライクスの隣に座り、挑発するように黒い笑顔でライクスに笑うが、ライクスは全く気にせずに笑った。
「ここの飯は旨いぞ!母さん!ムーアのステーキを二枚だ!」
母さん!?ここはライクスの実家だったのか!!
何故ライクスの実家に行く事が、自分の根性を叩き直す事に繋がるのだろうか?
オウルが不思議に思っていると、中年女性がステーキを持って此方にやって来た。
ライクスはそんなに従業員が多いようにも思えないので、この女性がライクスの母親のようだ。
ステーキを持ってきた女性は、持ってきたステーキをライクスとオウルの前におくと、外に客が居ないのを良いことにライクス達の座っているテーブルの前にドカッと座り、ニヤニヤしながらライクスとオウルを見る。
何故笑う?
「その子。アンタの隠し子かい?」
「ブハッ!!俺はまだ二十歳だぞ!」
ライクスはそう言われた瞬間。
飲んでいた安物の葡萄酒を、ブハッ盛大に吹き出した。
ニヤニヤ笑っている母親を見てオウルは顔を歪める。
彼女は息子をからかう気に満々だ。
その態度にオウルはムッとして、女性を軽く睨み付ける。
このままでは、俺までからかわれるではないか!
「私は十歳なので、彼の子種ではありません」
オウルが素っ気なくそう言うと、彼女は近所の子供をあやすようにオウルの頭を撫でる。
子供扱いは止めて欲しい。
「そうかい。坊主名前は?」
「オウルと申します」
オウルはそう言うと、座ったままお辞儀をする。
その仕草に女性はおや?と不思議そうにオウルを見る。
…何か可笑しかっただろうか?
「礼儀正しい子供だね。貴族か何かかい?」
女性が不思議そうに…いやまるで値踏みするような目でオウルを見る。
そんな彼女の言葉に、オウルは首を振って否定した。
「いえ。親に該当する生き物は農民でしたから、貴族の血はついでいません」
オウルがそう言った瞬間…人気のない食堂が凍りつく。
…たった十歳の少年が口にするには、悲しすぎる言葉だ…
凍りついていたライクスの母親が、我に返るとガタッと立ち上がりズカズカとオウルに詰めよるとしゃがみこんで、オウルと視線を合わせる。
「…該当?生き物…あんたは親を何だと思ってるんだい?」
彼女自身。一男一女の母親である女性が諭す様にそう言うと、オウルは嫌そうに彼女を一別し、スクッと立ち上がる。
オウルはライクスの母親に向かってペコリと頭を下げると、冷静な口調で口を開いた。
「…では失礼します。代金はこの方に請求!!」
オウルは隣の席にいるライクスに支払いを押し付けると、そのまま出入り口に向かおうと歩き出そうとした。
そんなオウルを、ライクスの母親は素早く捕獲しガバッと抱き上げた。
「待ちな!あんた捨て子だね!よし!今日からあんたは私の子供になりな!」
オウルの台詞から彼の悲しい素性を察した女性は、抱き上げたオウルを床に下ろしてから再びオウルをギュッと抱き締める。
抱き締められたオウルは、慣れない事態に困惑する。
オウルは、なんとも言えない恥ずかしさでムズムズしながら、居心地が悪くて、ジタバタもがいて女性から逃れた。
そして、ライクスの母親を軽く睨み付けると彼女に冷たくいい放つ。
「ご遠慮いたします」
オウルがそう言った瞬間。
ライクスの母親は、オウルの体を再び捕獲してギュッと力を込めて抱きしめた。
「遠慮なんか出来ると思って「私は自力で生きられますので、代わりに自力で生きられそうにない別の孤児を引き取ってください。焼け石に水…大して変わりませんが数人くらいなら救えるはずです。本当に子供達を救いたいのならば、この土地の貧しさをどうにかするしか無いでしょうね。では私はグヘッ」
オウルの真理をついた言葉に、愕然となった母親が力を緩めたのを見計らい、母親の腕から逃れたオウルが急いで出入口に向かおうと駆け出した。
オウルが出入口を出た瞬間。
オウルは、食堂の扉の外にいた中年男性に捕まり抱き上げられた。
捕まった!!
「良く言った!坊主!」
オウルを捕獲した中年男性は、オウルを抱き上げたまま食堂に戻る。
ずっと話を聞いていたようだ。
逃亡に失敗したオウルが項垂れていると、ライクスとライクスの母親が中年男性を見て叫んだ。
「あんた!」
「父上!」
この中年男性は、ライクスの父親だったらしい。
オウルがチラリとライクスの父親を見ると、オウルの視線に気づきた父親は、ニヤリと悪戯っぽく笑ってオウルを見た。
「俺はこの土地の領主に使えてる者だ!それだけ偉そうな事を言うって事は、何か対策あるんだろうなぁ?」
ライクスの父親はそう言うと、オウルを床に下ろしてから困惑気味なオウルの顔を除き混む。
オウルを見る父親の目がギラリと輝き、意地悪そうにニヤニヤ笑っていた。
自分の妻に色々と偉そうな事を言ったオウルが、嫌いなのかもしれない。
父親の態度に怯えとに震えを必死で隠し、オウルは頑張って辛辣に聞こえる様な口調でライクスの父親に言い捨てた。
「十歳の子供を恐喝するんですか?大人としてどうなんですか?」
オウルが怯えを隠して白けた目でライクスの父親を見ると、父親はガハハと豪快に笑いオウルの頭をガシガシとかき回した…髪がぐちゃぐちゃになるから止めてくれ。
「そんだけ頭が回る奴を子供とは認めん!行くぞ!」
ライクスの父親は文句を言うオウルを再び捕獲して抱き上げると、ライクスの父親は素早く店を出た。
後ろでライクス達が何か叫んでいるが、父親は完全無視だった。
良いのか!!
抱えられたオウルは今度こそ売られもしれない恐怖で、礼儀も忘れてライクスの父親に力一杯怒鳴り付ける。
怖いけどな!
「!!何処に連れていくつもりだ!」
オウルがそうライクスの父親に叫ぶと、父親は自分を睨み付けるオウルを見てニヤリと笑った。
…何か嫌な予感が…
「ここら一帯の領主である シュラス子爵の屋敷だよ。領地の運営で悩んでいるあの方に、助言してくれ」
シシャク…ししゃく…子爵…子爵?!
ライクスの父親の言葉を理解した瞬間。
オウルは、今いる場所が町中である事も忘れて絶叫した。
「嫌だぁぁぁぁ」
子爵と言う事は相手は貴族…貴族と言えば権力者!
権力者との繋がりなど…一番ほしくない!!!
売られませんでした!
ライクス親子は好い人です!!




