ミリアンナ
第2話です!今回は結構長めです!
さて、自己紹介をしようか。
私の名前はミリアンナ。
ミリアンナ・ウィング・ゼルギュウム。
この国の第一王女だ。
私の名前を見れば一目瞭然だが、私の母はウィング伯爵家の出身だった。
私が生きていた時代から百年位の時がたっていて、ウィング伯爵家は…何と言うか凄い一族になっていた。
初代に似た者…つまり私に似た、めんどくさがりな子孫達が代々当主を勤めたせいと、多産な性質が災い? したようで、国…いや。
正確にはウイング家が、戦争に巻き込まれようとした時。
当主は、各国に散らばる親類に指示を出して、全力で戦争を回避してきたらしい。
その原因は、ユリナが戦争の面倒さを染々と子供達に語ったせいだと思う。
多分 私の子供達が自分の子供達に語り、そのまた子供に語り継いたせいで、代々戦争が嫌いな当主達が出来上がったのだろう。
親類や兄弟達が大量なので、一族の大半は国外で働いる。
しかも、異様に優秀な奴が多く…夫達の血筋のせいだが、皆大物になっていた。
一族には、国王に金を貸す程の大商人や、宰相や将軍をしている者。
冒険者ギルドのマスターを勤めている者や、二つ名を持つ傭兵。そして大魔法使いに、義賊をしている者までいる。
しかも皆。何処の国に属しても何故か、優秀な者ほどウィング伯爵家の頼みを喜んで聞くらしい。
それに彼等も、戦争なんか大嫌いなので頼みを断る理由もない。
商人をしている者は民意を操り、軍人は言葉たくみに兵の良心を揺さぶり剣を振れなくし、時には上官や貴族を脅す事もあった。
そして文官は、王族や上位貴族の弱味を握り脅していた。
百年の間に、何人も居た好戦的な王や王太子は、何故か皆。何らかの罪を犯し立場を追われている。
…実に恐ろしい一族だ。
その上一族は、皆。例外無く恋愛結婚で、なんと王族に嫁いだ私の母も、恋愛結婚で父王と結婚したらしい。
普通。王族などは政略結婚するモノだが、城で開かれたパーティーに出席した母に、父が惚れて口説きに口説きやっと口説き落としたらしかった。
かかった期間は、一年以上。父の粘り勝ちだったようだ。
ウイング伯爵家は、恋愛結婚の一族で有名だったので、父は母を口説き落としてからウイング伯爵。既に跡目を継いでいた伯父に、結婚の許しを乞いに行ったが、なかなか許可がおりなかった。
伯父は、王家の外戚になりたくなかったらしく…外戚になると、城に呼び出される頻度は高いので面倒なのが理由らしい。
少々抵抗したのだが、妻に叱られ仕方なく了承し、ウイング伯爵家は王家の外戚と言う名誉を得てしまった。
そして無事。王妃となった母は、結婚して直ぐに王太子となる男児を産み、その三年後に双子の女児。私と妹を産んだ。
そして。今年八歳になった私達は、王女としての教養や礼儀作法の勉強が始まった。
教育が始まった事で、今までより行動範囲も、接触する人間も増えた。
だから…今から行動を起こそうと思う。
父様達に嫌われる為に…
バリン!!
ミリアンナが、どんな悪事を働こうかと城内を歩いていると突然。
目の前の花瓶が割れた…え?まだ何もしてないよ?
「…あ…あ…どうしよう…」
ミリアンナが声がした方を見ると、若い下女が割れた花瓶を呆然としながら見ている。
彼女は雑巾を持ったまま、泣きそうに顔を歪めていた。
彼女が、花瓶を割ってしまったらしい。
割れた花瓶は、どう見ても彼女の給金では弁償不可能だ。
ミリアンナは、ハアーとため息をつきながら彼女を突き飛ばし、腹に力を込めて声を張り上げた。
「きゃあ!!」
「邪魔よ!!退きなさい!!あら?花瓶割れちゃったわね!!ちょっとそこの貴女!!女官長を呼んできなさい!!」
「はっはい!!」
ミリアンナは、近くにいた下女にそう命じると、突き飛ばした下女にコソコソと耳打ちした。
「いい?話を合わせて。分かった?」
「へっ?あっはい…」
突き飛ばされて、倒れ込んだ下女は、訳もわからず頷いた。
そして直ぐに、先程女官長を呼びにいかせた下女が、女官長とともに走って来る。
女官長の顔は真っ青だ。
「ミリアンナ様どうなさいました?!」
女官長が叫ぶようにそう言うと、ミリアンナは腹に力を込めて声を出した。
「この下女が!私の目の前を歩いていたのよ!第一王女である私の前を!だから突き飛ばしてやったんだけど、この下女が花瓶にぶつかって花瓶が落ちて割れたの!だから代わりの花瓶を持ってきて!」
ミリアンナが、ビシッと花瓶の破片と倒れ込んだ下女を指差した。
「……ミリアンナ様!!それは余りにも…」
女官長が、何て酷い事をしたの!と言いたげな目でミリアンナを見る。
「何よ!女官ごときが私に逆らうの!!」
普段。女官長は、自分の子供の様にミリアンナを可愛がっているが、ミリアンナは王女。主家の者には従わなければならない。
例え、主が非道な行いをしたとしても、叱るのは自分の仕事ではなく。彼女の母である王妃の役目だ。
女官長は、叱り飛ばしたい気持ちを胸に押し込んで、下女達に指示を出した。
「……分かりました。貴女達。割れた花瓶を片付けなさい。貴女は代わりの花瓶を」
「「はい!!」」
命じられた下女達が、素早く割れた花瓶を片付ける。
ミリアンナは、それをバカにするように見下してから、ヨロヨロと立ち上がった下女にそっと耳打ちした。
「フン…絶対本当の事を口にしたらダメだからね。人生終わっちゃうよ」
下女は真っ青で、コクコクと俯く。
割った事がバレて、弁償なんて事になれば…きっと直ぐに支払いが滞り、労働所行きとなってしまう(この世界にはまだ刑務所が無く。死刑以外の犯罪者は、死亡率の高く危険な工事現場や炭鉱等で、服従の魔術印を入れられた状態で刑期を過ごす)
……まあ……
母と父や女官長が、そんな無慈悲な真似等するはずが無いがな……
ミリアンナが、突き飛ばした下女に耳打ちしたのを見た女官長が、避難するようにミリアンナに叫ぶ。
「ミリアンナ様!!今何を!!」
…内容までは、聞かれていなかった様だ。良かった…
ミリアンナは、密かに胸を撫で下ろしてから怒った様に叫ぶ。
「うるさい!!私は部屋に戻るわ!!」
ミリアンナはそう叫ぶと、ドスドスと足を踏み鳴らしながら自室に戻って行った。
ミリアンナが居なくなるのを確認すると、女官長は花瓶を割ってしまった下女の手を取って、優しく彼女に語りかける。
「…大丈夫? 手を怪我しているわ。医務室に行きましょう…全く…いつもはお優しい方なのに…どうしたのかしら…あっ!!そう言えば、最後に何を言われたの?」
「いえ…何も…」
「そう…話す気になったら言って!力になるわ!」
「はい。ありがとうございます」
女官長は目の前にいる下女の、血の気の引いた顔を見て再びミリアンナに怒りを覚えた。
しかし……
花瓶を割ってしまい、しかもその罪をミリアンナに被せてしまった彼女は、心の中でミリアンナに土下座して謝っていた。
庇ってもらいながら、彼女を悪役にしてしまっていたのだから……
そして数分後。
女官長が、花瓶の一件を王妃に報告すると、彼女は大激怒。
直ぐ様、ミリアンナの自室に乗り込んで行き、部屋に入るなり大声で叫んだ。
「ミリアンナ! 貴女なんて事をしたの!王女として恥ずかしいと思わないの!! 」
今日は先程から雨が降り始め、薄暗く少し肌寒い。その上、今世で初めて怒鳴り散らしたミリアンナは、怒鳴り疲れていた。
そのせいか、ミリアンナは自室に戻ると猛烈な眠気に襲われた。
なので、ミリアンナは部屋に戻ると、直ぐに寝室から毛布を引っ張り出し、ソファーで昼寝を始めた。
何故 わざわざソファーで寝るのかと言うと、昨日 昼間からベットで寝ていたら、それを見つけた母に昼寝にベッドに入ってはいけません!! と叱られたからだ。
そして寝つきが良く、既に熟睡していたミリアンナは、母が大音量で怒鳴り散らしても、ピクリともしない。
「ミリアンナ!! 」
再度 母が叫ぶが、全く起きない。
「ミリアンナァァァァァァ!! 」
母が揺すってもひっぱたいても、何をしてもミリアンナは起きるどころか、全く動きもしなかった。
その日の夕方。
やっと目が覚めたミリアンナが見たのは、泣き崩れる母と慰める妹。呆れ顔の兄と父だった。
翌日。
ミリアンナは、こっそりと昨日。花瓶事件があった場所に来ていた。
そして暫く隠れて待っていると、昨日。花瓶を割ってしまった下女が、雑巾とバケツを持ってやって来る。
ミリアンナは、ヒョコッと隠れていた部屋から顔を出して、下女の前に姿を現した。
「あ!王女殿下!」
下女が驚いて声をあげると、シーっと口に手をあて隠れていた部屋に彼女を引き込む。
「ミリアンナでいいよ。体は大丈夫?結構力一杯やっちゃったしね…癒しを…よし。これで痣も無くなったハズだよ。年頃の女の子だもんね。はい。女官長に黙って貰ったお礼と、賄賂」
ミリアンナは、下女に風の癒しを施すと、お菓子の入った袋を渡した。王家御用達のお菓子だ。
「!! 何故お礼を…賄賂? 」
ミリアンナは、混乱する下女にニヤリと笑う。
「貴女には、協力して欲しい事があるんだ。受けるか受けないかは貴女次第だけど、僅かでも私に感謝しているなら、お願いを聞いて欲しい。一つだけでいいからさ」
「お願いとは? 」
「私サイズの子供服が、一枚欲しい。」
その言葉を聞いた下女は、目を見開いた。
「服…まさ街に行きたいのですか!?」
「うん。」
「駄目です!危険ですよ!」
大恩ある王女殿下を、護衛無しで街なんかに行かせられない。
「駄目か。分かった。ありがとう…じゃあ子供の下女とかいる?」
「…盗む気ですか!」
「……」
下女がジトーと睨むと、ミリアンナは目をそらした。
こっそり、拝借するつもりだったらしい。
いや!! ちゃんと銀貨を置くつもりだったからね!!
暫くミリアンナを見つめた下女は、ハアーとため息を吐きながら口を開いた。
「分かりました。私のお古がありますから、それをお貸しします。ただし…私も付いていきますよ!良いですね」
こればかりは譲れないと、下女がミリアンナを睨み付ける。
それを見たミリアンナは、素直に頷く。
実は、一人で街に行くのは少し不安だったので、逆に有難い。
「うん。了解。休みいつ?」
「明後日です。」
「じゃあ私は行くね。二人でいたのがバレると面倒になるから。」
ミリアンナが扉を指差しそう言うと、ミリアンナに下女は頷いた。
「はい、分かりました。お待ちしています。
私は、五分位したら出ますね。ミリアンナ王女殿下を見かけたので逃げた。と言えば大丈夫でしょう」
下女がにこやかにそう言うと、ミリアンナは楽しそうに笑った。
「うん。誤魔化しは、まかせるよ。じゃあ明後日のお昼頃にここで!」
ミリアンナは、そう言うと笑顔で部屋を出ていった。
ミリアンナ王女。活動開始しました。
コレから、毎週月曜日更新を目標に頑張って行きたいと思います!