要求は…
要求です!誰に対してかは本分で!
盗賊事件から二日後。
港町の片隅にある警備兵士の詰め所で、ライクスが難しい顔をしながら目の前にいる部下達に向かって語りかけた。
「それで?あの子は見つかったか?」
「いえ。彼処が、どこの森かも分かりません」
「町人達にも聞きましたが…この近くに森は無いようです…」
「港町から離れた村々の近くには幾つか森があるらしいのですが、村人も迷うような深い森が多い上に、一軒家を支えられる大木など知らないそうです」
他の部下達から得た情報と然程変わらない事にガックリと方を落としたライクスは、ハアーと深いため息を吐きながら呟いた。
「盗賊達にも…あの場所が何処にあるのか聞けなかったからな…王都の騎士が直ぐに来たせいで聞く暇も無かった…」
ライクスが隊長室の窓から見える王都に繋がる転移陣が設置されている建物をチラリと見ながら、王都の騎士達が来た時を思い出していた。
騎士とは自分達の様な警備兵士と違い、貴族の子弟しかなれない職業で、大体は家を継げない次男や三男等がなるのが一般的だ。
親が大貴族で爵位を幾つも持って居る場合は、親より低い爵位を貰う場合もあるが、大体は上位の文官や騎士になる。
王都の騎士など、皆上位貴族の子弟ばかり…なので、実家の権力を使われ手柄は殆んど彼等に奪われた。
その対応に苦労した部下の男達は、疲れたように深いため息をつく。
本当に…我が儘貴族ばかりだったのだ…
「ハアー…王都の騎士も…まさかこんな田舎に要るとは思わなかったでしょうね」
「ここ…ド田舎ですもんね…」
「しかし…見つからないか…礼の一つも出来ないとはな」
「そうですね…」
ハアーと兵士達とライクスが諦めモードでため息をついていると…
突然。
ライクス達の耳に、幼い子供特有の高い声が響いた。
「また強盗でもでましたか?」
「いや。情報提供をしてくれた子供が見つからな…!!坊主!」
何の前触れも無く…誰も居なかった筈の場所から現れたオウルが、ライクスに笑いかけた。
そして兵士達は、オウルの無邪気と言うよりも邪悪に見える笑顔に悪寒を感じながら、信じられないモノを見るようにオウルを見つめる。
そんな兵士達の様子を気にも留めずに、オウルはライクスを見ながらニッコリと笑い再び口を開いた。
「俺に何のようですか?最近塩を取りに行くにも、砂浜に警備兵士がうろちょろしてて面倒なんですけど」
オウルはそう言うと、心底嫌そうな顔でライクスと兵士達を見る。
ライクスは、そんなオウルの嫌そうな態度を咎める処か、目をウルウルさせて立ち上がり、ツカツカとオウルに近づいたかと思えばオウルの小さな体にカバと抱きつき泣きそうな声で叫んだ。
「!!!探していたんだぞ!」
「っく!何故!?」
そんな暑苦しいライクスの抱擁から、やっとの事で逃げ出したオウルがライクスに自分を探していた理由を聞く。
正直…砂浜や町中で兵士が自分を捜している光景は、自分が犯罪者にでもなったようで凄く嫌な気分だった…自分は悪い事など何もしていないのに!!
オウルが怒気を滲ませてライクスを睨むと、ライクスはキョトンと目を丸くして、ばつが悪そうに頭を掻くとオウルを申し訳なさそうに見下ろした。
「君のお陰で賊を捕まえられたから…礼を言いたかったんだよ。それと盗賊達には懸賞金がかかっていてな…おーい!懸賞金を持ってこい」
ライクスに話しかけられてハッと我に反った部下の兵士達は、バタバタと部屋を出ていき数分で戻って来ると兵士の一人が握り拳三つ位の袋を持っていた。
王都の騎士から、やっとの思いでぶんどった懸賞金だ…かなり大変だったが何とか半額は確保できたモノだった。
兵士はその懸賞金を、笑顔でオウルに渡す。
結構重いそれを渡されたオウルは、何も考えずに何となく両手で受け取ってしまった。
「百ゴルクある」
「…かなりの大金だね」
両手で受け取ったオウルは、思わず受け取ってしまったが自分が貰って良いのかカナリ悩んだ。
自分は盗賊達の居場所を密告しただけで、戦闘にすら参加していない。
受けとるべきは、実際に盗賊達を制圧した目の前にいる兵士達のだ。
戸惑った様子のオウルに、ライクスはニコッと笑って頷き、オウルの両手を包み込むようにして懸賞金を握らせる。
「貰っておけ。俺達はあいつらの居場所すら見つけられなかったんだからお前の手柄だ…そういえば…あの家…お前の家は何処にあるんだ?俺達が荒らしたんだし掃除てつだうぞ?」
ライクスにそう言われたオウルは、フルフルと首を振る。
荒らされた家の掃除も修繕も、既に終わっているからライクスもその部下達も正直 必要ない。
それに…人の良さそうなこの男を家に招いたりなどすれば、色々と世話を焼かれそうで面倒臭そうだ。
「結構です…ですが…お礼したいなら、辛くない香辛料と寝具。小さめの机。それに甘味料と…」
人員は要らないが物資は欲しい。
オウルは、チャンスとばかりに盗賊被害とは全く関係無い品物をライクスに要求する。
今回の報酬としてライクスに頼めば、金も要らない。
次々に出てくる(オウルの欲しい物)にライクスは呆れながら冗談混じりに呟いた。
「…いっそ町に住めばいいんじゃないか?家を紹介してやるぞ?」
メモを取る事すら面倒になってきたライクスが、オウルにそう提案するとオウルは心底嫌そうに叫んだ。
「嫌だよ。人類と共存したくない」
オウルがそう叫んだ瞬間。ライクスが疲れた顔から鬼の形相に代わり、オウルをガシッと小脇に抱え腕の中に居るオウルに叫んだ。
「お前も人類だろうが!こい!その性根を叩き折ってやる!」
そのままオウルは荷物のように肩に担がれ、詰め所の外に連れ出された。
体を捕まえられていれば、気配を消したところで無意味…
体格のいい大人であるライクスに抱えられたオウルは、抵抗らしい抵抗すら出来ぬままに、ライクスによって何処かに連行されていった。
とうとう奴隷に売られるかもしれない…いや…炭鉱夫として働かされるかも…
好い人だと思ったのに!!
読んでくださりありがとうございます!
因みにライクスは好い人です!
間違ってもオウルを売り飛ばす様な事はしないので安心してください。




