撃退
田舎の和花な港町。
何時もこの時間は、買い物客や地元の子供達が駆け回って賑やかなのだが…今。町に人気は無い。
そんな人気の無い町で、深刻な表情をしながら必死で駆け回っている男達がいる。
男達は兵士。
町を守る警備兵だ。
「まだ見つからないか」
「はい!ただいま全力で捜索中です!」
部下と共に町を駆け回っていた兵団長 ライクス・ルハンは、盗賊達を見つけられない事に顔色を悪くさせて、昨日の事件を思い出していた。
実はこの和花な田舎の港町で、昨日…前代未聞の大事件が起こったのだ。
時刻は早朝。
この町の名家の商人の夫婦と、夫婦のまだ幼い娘が無惨な姿で惨殺されていた。
第一発見者である夫婦の使用人の話によると、特に婦人と娘は見てられない有り様だったらしい。
しかも、商人夫婦の屋敷の荒らされた手口と、首都から指名手配されている強盗の手口が同じだった。
犯人は、こいつらで間違い無いだろう。
首都の兵士達の話によると、強盗は七人。
彼等は元傭兵で、首都で同じく強盗殺人を犯したにもかからわず、上手く首都を逃げ出した頭の良さもあるので、捕まえるのが困難な相手だ。
ここは首都から遠く離れた上に、貧しい田舎町。
まさか…こんな貧しい町に盗賊が来るとは思わず、そこまで警戒していなかったので盗賊を取り逃がしてしまった…
…第二の被害者が出るかもしれない。
ライクスが自責の念で歯を噛み締めていると…
「ねぇ。お兄さん」
いきなり現れた小さな少年。
オウルが、クイクイとライクスの制服の裾を引っ張ると、オウルに気づいたライクスがオウルに視線を向けた。
「坊主。すまんが俺は今忙しいんだ。だから…」
ライクスは、制服を引っ張るオウルと視線を合わせるようにしゃがみ、申し訳なさそうにそうに口を開く。
それを見たオウルは、ライクスを見ながらニヤリと笑う。
「お兄さんの探してる強盗殺人犯って、焦げ茶色の髪の大男に、頭を借り上げた赤目の男。丸々太った褐色肌の男に、不自然に細い白髪混じりの男。ゴリラみたいにムキムキの栗毛男に、緑の目をした長髪男。短く切った楠んだ金髪で細身の男でしょ?俺。そいつらのいる場所知ってるよ?」
「何!教えてくれ!」
オウルが、笑顔でそう言った瞬間。
ライクスは、目を血走らせてオウルに詰め寄ってきた。
オウルは、その迫力にちょっと逃げ腰になりながらも、ライクスにニッコリ笑いながら彼から離れると、クルッと円を描くようにライクスの回りを回ってから、チョイチョイとライクスを手招きする。
「いいよ!お兄さん達ちょっとこっちに来て!」
オウルはそう言って魔力で描いて作った魔法陣の上から、ライクスといつの間にか戻って来ていた自警団達を手招きした。
「…?まあ教えてくれるなら…」
「「「「「「「「??」」」」」」」」
自警団達は不思議に思いながらも、隊長に従いオウルの側に寄る。
「これで全員?みんな強い?」
オウルがそう聞くと、ライクスが考えながら答える。
「一小隊だけだが…これだけいれば充分だ!犯人は何処にいる」
ライクスが、オウルにそう言った瞬間。
オウルが描いた魔方陣が光り、自警団達にも視認出来るようになり、突然の事態に慌て蓋ふためく自警団達を無視してオウルは叫んだ。
「ロワン・サファル・オウル!」
オウルが転移呪文を唱えた瞬間。
辺りは強烈な閃光に包まれる。
そして次の瞬間には、オウルと男達は港町から消えていた。
「「「「「「「「うわっ!」」」」」」」」
光に驚き目を閉じていた自警団達が目を開けると、目の前には大きな大木がそびえ立っていた。
「!?」
驚愕して固まっていた自警団達を可笑しそうに笑いながら、オウルは大木を指差して口を開く。
「あの家の中だよ」
オウルが、自警団達にそう言った丁度その時。
占領した家に、住んでいるハズの少年を探していた強盗の一人がオウルを見つけて叫ぶ。
「あ!ガキ見つけ…!!自警団!!ボス!大変だ!」
オウルを捕まえようと前に出た盗賊は、自警団達がいるのに気付くと慌てて家に刺したフックに付いたロープを使い、スルスルとロープを登りオウルの家に逃げ込む。
盗賊に気付いたライクスは、オウルを安全な場所に避難させようとしたのだが…
「坊主!危険だから…あれ!居ない!」
「消えた…」
自警団達は、音も無く忽然と消えたオウルに驚愕して固まった。
隊長であるライクスも一瞬固まっていたが、盗賊達が木の上にある家らしき建物から、武装した盗賊がゾロゾロと出てきた事で我に返り部下達に叫んだ。
「避難したなら良いか…!行くぞ!」
ライクスはオウルが自主的に避難したなら良いと気持ちを切り替えて、目の前に迫る盗賊に意識と剣を向ける。
そして降りてきた盗賊達は、自警団達の数に驚きながら悪態をついていた。
居場所がバレていないハズなのに、一小隊要るとは思わなかったからだ。
「ちくしょう!!」
「あのガキがチクりやがったな!」
「殺してやる!」
盗賊達は口々に罵り、オウルの姿を捜すが見つからない。
実は普通にその辺の森の木の側に立っているのだが、魔術を発動させているので、誰もオウルに気づかない。
自警団達に襲いかかろうとした盗賊を、ボスと呼ばれた男が軽く叩いて止めた後に叫ぶ。
「逃げるぞ!」
ボスがそう言うと、盗賊達はボスの指示に従って一斉に森に向かって駆け出した。
「逃がすな!拘束しろ!」
盗賊の逃亡にいち速く気づいた隊長が、部下達にそう叫ぶと同時に素早くボスを拘束した。
その後…
他の盗賊達を拘束していき、自警団達が最後の一人を拘束し終わって気を抜いた瞬間。
自警団達の前に、突然オウルが現れた。
「お兄さん達終わった?」
驚愕して固まっていた自警団達に、オウルはニコニコ笑って自警団達と拘束された盗賊達に近づいたオウルを、暫く固まっていたライクスは直ぐに我に返りオウルに笑いかけた。
「!!…ああ…ありがとう。坊主のお掛けだ」
オウルはライクスにコクリと笑い頷くと、ニコニコ笑いながら汚い体で大事なベッドに寝転んでいた男に近づく。
「そう。ところで彼等はどうなるの?」
オウルがライクスにそう訪ねると、ライクスは憎々しげに盗賊達を睨み付ける。
「死罪だ。王都で貴族も殺しているしな」
「そうなんだ…なら安心だね!」
オウルはそう言うと、ベッドを汚した男を力一杯 ゲシッと蹴りつけた。
あの家の家具の中で、ベッドは一番労力を使って作った品なのだ。
オウルに蹴りつけられた男の顔面には、靴の後がくっきり残り鼻からは血が出ている。
自警団員に拘束されていた男は、オウルに蹴られた事に激怒して力一杯暴れだし、自警団員は慌てて男を縛るロープを強く締め上げた。
「殺してやる!」
「動くな!」
大事なベッドの復讐を遂げて気がすんだオウルは、港町でやった様に魔力で線を書きながら、自警団達と盗賊達を大きく囲むように魔方陣を描いた。
「バイバイ お兄さん達。ロワン・サファル・サハイル!!」
オウルは嬉しそうに自警団達に笑うと、転移魔術を発動させた。
突然の目映い光に、自警団達は目を閉じる。
「「「うわああっ!」」」
そして次の瞬間。始めにいた港町に戻っていた…
「あのガキ何者だよ…」
「知るか!」
自警団達が混乱して言い合いをしていた頃。
大事な家を取り戻したオウルは、家に戻った瞬間。
オウルは、異臭に鼻を抑えながら窓を開け放った。
「掃除に洗濯して水ぶきして乾拭きしないと…臭すぎて息できないよ」
オウルはため息をつきながら、雑巾を取りに倉庫に向かった。
盗賊撃退しました!
オウルは食料を漁られた事より、大切なベッドを汚された事に激怒しましたので、あいつだけを蹴りつけたようです!
まだまだ続きますので、次回もよろしくお願いいたします!




