海と花火大会
旅行から帰ってきた次の日、昼過ぎに京子先輩がやって来た。
「やあ。凛。今日は暇かい?」
今日はこれと言って予定はないから頷いた。
「そうか。昨日、家に帰って荷物を整理して思ったのだが水着を使っていなかったことに気が付いた。それでこれから、海かプールに行かないか?」
やはり、京子先輩も気が付いたようであった。
{わかりました。直哉と美樹にも聞いてみます!}
「よろしく頼むよ」
{昨日はお疲れ様!昨日旅行から帰ったばっかりだけで、今から海かプールに行かない?}
この文章を二人に送った。返信はすぐに返ってきてどちらも行くそうである。それから三十分後にピーンポーッと鳴った。おそらく直哉と美樹であろう。ドアを開けた。
「こんにちはー!」
「二人とも来たな」
「その件ですが、実は二人じゃないんです……」
直哉の発言に僕と京子先輩は誰だと疑問に思った。いったい他に誰がいるのであろうか。すると直哉の陰からヒョコッと現れた。
「凛、来ちゃった!」
「お前は……」
京子先輩の顔が一気に険しくなった。その正体は真理さんであった。
「なんでお前がここにいる!この場所はどうやって調べた!」
「調べたわけじゃないもん。凛にお土産送ることになっていたから、その住所を見てきちゃった!近くまでは、昔あんたの家に電車で行ったことがあったからこの町までは来る事が出来たんだけど、道に迷っていたら偶然二人に出会えたから助かった」
まさかあの住所を頼りに来るとは思っていなかった。
「凛はお前に送ってもらうために住所を教えたわけで来るために教えたわけでわけではない!」
「細かいことは気にしない!」
「それに昨日のバスで何をしたか忘れたとは言わせないぞ!」
「凛の唇、柔らかかったなー」
「お前はぬけぬけと!」
「まーまーまー」
直哉が今にも殴りかかりそうな京子先輩の前に立ち、止めに入った。
「凛!この女は放っておいて海に連れて行ってよ!」
京子先輩を除いた僕を含めた三人が真理さんのタイミングの良さにキョトンとしてしまった。
「実は今から海かプールに行こうってことになっていたの」
「どうやら決まりのようだね」
三人で話している中、いまだに京子先輩はまだ怒りが収まらないようであった。
納得のいっていない京子先輩を連れて、電車で一時間もかからない海に向かった。数十分で、すでに電車の窓から海が見えるようになった。
「綺麗。山育ちだから海に一度も行ったことがなかったから前から行きたかったのよね。凛たちが帰ってすぐに、凛の住所を調べたら海がそこまで遠くなかったから後で行こうと思ったんだけど我慢できなくて来ちゃった」
確かにあれだけ山奥であれば海に来るのも一苦労である。しかし、真理さんの行動力には驚きである。僕が逆の立場であれば一人で遠くに行く気にはなれない。
「海に着いたー!」
今日の天気は痛いほど日差しのいい、海にはちょうどいい天気である。すでに数多くの客がいた。一面に広がる砂浜、境界線が見えないほどの広い海。僕も海は久しぶりである。
キャキャーと海に入る前から真理さんはテンションが高めであった。早速、海の家に設置されている更衣室で水着に着替えた。僕は到って普通の膝まである派手すぎない水着。直哉は少し派手な花がちりばめられた水着。女性組もこちらと着替える時間は大差なく出てきた。京子先輩はやはり僕が選んだ漆黒のビキニであった。
「選んでもらったのはいいが、一度見られているとリアクションが薄いな……」
確かに僕はたいしたリアクションは出来ていなかったが、内心綺麗すぎて僕の目には眩しすぎるぐらいである。
美樹はピンク色の柄のないシンプルなビキニである。真理さんは黄色と白の縞々なビキニであった。この三人を見ている直哉は鼻の下を伸ばして目つきがちょっといやらしく見えた。すると真理さんが近づいてきた。
「凛!私の水着どう?」
「こら!凛に近づくな!」
「うるさいわね。このガリガリ女!」
「ガリガリですって?スタイルがいいって言ってほしいわね。あなたこそ無駄なお肉が付いているんじゃない?」
「なんですって!」
この二人はどこに来ても喧嘩ばかりのようである。相変わらず仲良い。
「あ!そうだ。凛、これを塗ってくれない?」
真理さんに渡されたものは日焼け止めのクリームであった。僕に渡すとシートを敷き、そこにうつ伏せになった。
「じゃあお願いね」
そういうと京子先輩が無言で僕から日焼け止めクリームを奪って真理さんのところに向かった。
「キャッ。冷たい。ちゃんと手で温めてから塗ってよ。…そーいい感じ。それにしても男の子なだけあって手が大きいのね」
なんと京子先輩は自分の足で真理さんの背中を塗っているのである。真理さんは目を閉じているせいで京子先輩が塗っていることに気が付いてないようだ。しかしようやく不自然に感じたのか目を開けて後ろを振り返った。
「あんた。何やっているのよ!」
真理さんはそのまま立ち上がってしまい正面を僕たちに見せてしまった。直哉は目を見開き、美樹はアチャーといったふうに頭をふり京子先輩はニコッと笑った。僕は顔を背けて見なかったことにした。
「キャッ。馬鹿!」
遅れて気が付いて顔を真っ赤にした真理さんは慌てて前を隠した。そして今度は真理さんが攻撃し始めた。京子先輩から日焼け止めを奪い取ると無理やり全身に塗り始めたのである。
「こら。やめろ。くすぐったい。私が悪かった」
「許すものですか」
これで二人は日焼け止めを塗るのは大丈夫であろう。そんな二人は放って起き僕たちも日焼け止めを塗ることにした。
「凛。私が背中塗ってあげるね」
僕は頷き美樹が僕の背中に日焼け止めを塗ってくれた。前は当然自分で塗った。
「直哉はどうせ塗らないでしょ」
「当然だ。男は黒くてなくては」
僕も男ではあるが日焼けして痛いのは嫌である。
「凛。私の背中にも日焼け止め塗ってくれる」
京子先輩と真理さんはいまだに暴れているし、美樹の背中を直哉に塗らしたらよからぬことをしそうだから、恥ずかしいが仕方がなく塗ることにした。
「そうそう。いい感じ」
「こら。凛」
京子先輩と真理さんにばれてしまった。僕は慌てて海に向かった。バシャン。海の水は冷たく気持ちがよかった。僕に続いてみんなやってきた。最初はみんなで海水を掛け合った。
しばらくするとビーチバレーをして美樹は直哉のことを砂で首から下を埋めて大笑いしている。京子先輩と真理さんはどっちがすごい砂の城を作れるか競争し始めた。僕は浮き輪でひたすら海を漂った。お風呂に浸かるのも好きだが海の波に揺られるのも悪くわなかった。なんだか眠くなってきてしまった。海の上で眠るのは危ないから岸に上がることにした。みんなも遊びをひと段落させてシートが引いてあるところに集まった。
「山もいいけど海もいいわね」
真理さんは海を見ながらそういった。確かにどちらもいい。またどっちにも行きたい。
「ねーねー!見て!」
美樹が何かを見つけたようである。美樹が指をさす方には一枚のチラシがあった。
「なるほど。この近くで花火大会があるらしい」
「花火大会と言ったら出店」
直哉は花火大会より出店に興味があるらしい。
「もちろん、みんな行くわよね?」
京子先輩の提案に乗らないものはもちろんいなかった。
「そうね。海も満喫したことだし思い残すことはないわ。花火大会に向かいましょう」
真理さんも満足いったようでよかった。シートなどを片付けてみんな更衣室に向かった。設置されているシャワーを浴びると少ししみて痛かった。どうやら少し日焼けをしてしまったらしい。直哉を見てみると全身真っ赤になっていた。シャワーを浴びて痛がる直哉を見ていたらつい笑ってしまった。つい直哉の背中を叩きたかったが可愛そうだからやめておくことにした。シャワーを浴び終えたら体をタオルで拭き軽く頭を乾かした。
外に出てみるとまだ女性組の姿は見当たらなかった。やはり男と違って時間がかかるようである。直哉と僕はとりあえず待つことにした。
「おまたせ」
三人が出てきた。まだ髪は生乾きのようであった。
「とりあえず、いったん家に帰って荷物をおいて来よう。本当であれば駅などのコインロッカーなどに閉まっておけばいいのだが祭りのときなどは利用者が多くて使えるとは思えない」
相変わらず京子先輩の冷静な判断は頼りがいがある。
「じゃあ行きと同じの電車に乗って帰るとしよう」
京子先輩に言われるがままみんな付いて行った。歩いている途中、美樹が真理さんに尋ねた。
「今から家に帰るけど、真理さんはどうするの。ホテルでも予約してあるの?」
確かにどうするのであろうか。もしかして行動力に身を任せて何も考えずにここまで来たのであろうか。
「もちろん凛のお家に泊めてもらうのよ?」
みんな僕を見た。しかし僕には許可した身に覚えがない。慌てて首を横に振った。
するとなぜか直哉と美樹は納得がいったような素振りをした。もちろん京子先輩は納得がいくはずもなかった。
「そんなのダメに決まっている。どこかのホテルに泊まればいいだろ!」
「いきなりこっちに来たから予約なんてしてないわよ!」
「だからってなんで凛の家に泊まるのだ。他の人の家でもいいだろう」
「もう昼に凛のお家に行ったとき荷物おいて来ちゃったから仕方ないじゃん」
「凛には私といった彼女がいるのだぞ。凛が許すはずがない」
みんなまた僕を見た。対応に困る。
{でも、泊まるところがないなら仕方ないんじゃないかな……}
直哉と美樹はため息をつき、真理さんは跳ね上がりながら喜んだ。京子先輩は不機嫌そうである。
「凛は優しすぎる…」
そういうと京子先輩は何かを考え始めたようだ。
「決めた。私も今日は凛の家に泊まる。拒否は許さん。決定事項だ」
そういうと京子先輩は小走りで駅に先に行ってしまった。僕たちも後を追って駅に向かった。
電車は到着してすぐ着いた。その電車に乗ると浴衣を着たカップルが何組かいた。みんな花火大会に行くのであろう。花火大会も楽しそうで行く前からワクワクしてきた。
到着するとみんな解散した。集合場所はこの駅になった。
「凛。何かあったらメールするのだぞ」
京子先輩は少しの時間なのによほど僕と真理さんを二人にするのが心配らしい。
「それじゃあ凛行こうか」
僕は頷き家に向かった。家に付くと真理さんは持ってきた大きめのバックをあさり始めた。
「じゃーん!浴衣持参で来ちゃいました。実は昨日ネットで凛の住所調べている時、近くで花火大会がやるって書いてあったから凛と行きたいなって思って今日来たの。本当は海に行き終わったら二人で行きたかったけどみんなにばれちゃったから仕方ないね。欲張り過ぎだったね」
確かに不思議ではあった。昨日、さよならして今日また会うなんていくらなんでも急すぎる。海なんて夏休み中ならいつでも行けるのになぜ今日なのだろうと思っていた。どうやら花火大会にも行きたかったらしい。
「そういうわけで着替えるからあっち向いていて。あ。こっそり見てもいいよ?」
僕は慌てて真理さんに背を向けた。ゴソゴソと僕を気にせず、着替えているようだ。着替えはすぐに終わった。
「凛。私の浴衣姿はどう。似合っている」
僕は振り返り一目見てニコッと笑顔でコクンコクンと二回頷いた。真理さんの浴衣は白い生地に紫色の花が綺麗に咲いていてとても似合っていた。
「ありがとう。じゃあ行こうか」
二人で駅に向かった。外はもう薄暗くなっていた。
駅に到着すると浴衣を着た人がたくさんいた。人ごみの中にこっちに手を振っている美樹が見えた。行ってみると他の二人もいた。
「なんであんたは浴衣着ているのよ」
「なんだっていいじゃない」
「別にかまわないが。私も着たいな…」
最後だけボソッと京子先輩は言った。さっそく電車に乗ると大勢の人が乗っていて窮屈で暑苦し時間が続いた。それに耐えること二十分、ようやく到着した。そこには先ほどとは比べ物にならないほど大勢の人がいた。
「こっちに来た時も人が大勢いて気持ちが悪かったけど、ここはそれ以上にひどいわね」
真理さんがそういうのも仕方がない。真理さんの家の周辺は人が全然いないからこんな光景に慣れていないのであろう。そんな真理さんをお構いなしに京子先輩は人ごみの中を進んでいった。僕たちもそれに付いて行った。
「生徒会長。あれ見てください!」
美樹が何かを見つけたようである。
「浴衣貸し出しますって言う看板がありますよ」
京子先輩の目がキラキラと輝くように目をしていた。もちろん答えは
「行こう!」
一目散に京子先輩は店に入って行った。僕たちも続いて店に入った。そこには色とりどりの生地が畳んであり浴衣が飾られてあった。そこにはカップルと思われるお客も多数いた。
僕はグルグルと店を徘徊した。すると京子先輩が浴衣を持って近づいてきた。
「凛。こっちとこっち、どっちがいいと思う」
京子先輩は黒の生地に白い花びらが散りばめられた浴衣と白の生地にアジサイが咲いている浴衣を前に出した。やはり京子先輩は黒のイメージがあるから黒の生地の方を指差した。
「やっぱりこっちか。凛は浴衣を着ないのか?」
僕は京子先輩ほど浴衣を着たいとは思っていなかったからコクンっと頷いた。
「そうか。浴衣姿はあいつの家で見たからいいとするか。…では早速借りてくる」
そういうと京子先輩はレジに向かって行った。
他のみんなは何をしているのかと周りを見てみると、美樹も浴衣を持ってレジにいた。真理さんは頭飾りを見ているようだ。直哉を探してみると姿が見当たらなかった。外に出てみるとそこには直哉がたこ焼きを食べていた。
「お。凛も食べるか」
{浴衣はいいの?}
「俺か。俺はいいや。やっぱ男は動きやすい服装が一番だ。それに食べ物が浴衣に付いたら嫌だしな」
直哉らしい。もう外は暗くなりそろそろ花火が打ちあがりそうであった。それに伴い人も続々と増えている気がした。
「お待たせ」
三人が店から出てきた。
「凛が選んでくれた浴衣だから借りるのではなく買ってしまった。あと髪飾りも買ったのだが似合っている?」
京子先輩は想像通りあの浴衣がとても似合っていた。そして、いつも黒髪のストレートの髪型だったがどうやら店内で頭にお団子のように丸い髪型を作ってきて浴衣の柄と同じような白い花の髪飾りを付けている。
「凛。私は浴衣を借りたけど、似合っている?」
美樹は浴衣を借りたようだがその浴衣は白い生地に向日葵が綺麗に咲いている浴衣であった。美樹らしく明るい色でとても似合っているので頷いた。
真理さんは店内で髪飾りを見ていたがどうやら買わなかったようである。
「これだけ浴衣美女がいるとお兄さん、お腹が空いて来ちゃった」
直哉の言っている意味が分からない。さっきまで食べていたたこ焼きはすでに食べ終わりもう次の食べ物のことを考えているらしい。
「お前は食い物ことしか考えてないのか……」
美樹の手が直哉の背中にバシッと叩かれた。みんなでクスっと笑っていると、ドンっと鳴った。急に明るくなった。それに続いて次々と花火が打ちあがり始めた。
「綺麗……」
「小さい花火もいいけど大きい花火もいいわね」
「それじゃあ、花火を見ながら出店を回って今日の夜を満喫しますか!」
直哉の言う通り夏休みももうじき終わるからいい思い出に今日の夜を満喫しよう。
直哉はやはり花火より食べ物に興味があり、どんな胃袋をしているのかと不思議に思うほどすごい勢いで食べ進んでいった。僕たち四人は空を見上げて花火を楽しみながら直哉に付いて行き、食べ物をみんなで分けながら食べ進んだ。
「ちょっとそこの公園で休憩しようぜ」
どうやら直哉の胃袋と体力にも限界があったようである。みんなで公園にあるベンチに座った。すると真理さんが喋り始めた。
「こんな楽しい日を友達と過ごすのは初めてかもしれない。…みんなありがとね」
「何を言っているの。まだまだこれからでしょ」
美樹の言う通りまだこの夜は終わっていない。
「……それもそうね。あんたのおかげでこんないいお友達もできたし少しは感謝しないとね」
急に京子先輩の顔がカッと赤くなったように見えた。
「……そんなこと言われると気持ち悪い」
「気持ち悪いってなによ!」
花火の明かりが途切れ途切れで見えづらかったがその時の京子先輩はニコッと笑っていた気がした。
「楽しかったわねー」
「そうだな。いっぱい食べられて俺は満足だ」
「あんたは食い過ぎよ」
花火大会は終わり電車で帰宅中である。行き同様帰りも駅は大混雑である。電車内も満員で相変わらず窮屈で暑苦しい。またそれに耐えること二十分、地獄のような暑苦しさから解放された。
「今日もいっぱい遊んだね。もう時間も遅いことだしこれで解散だね」
「そうだね。じゃあ凛、またなー」
「バイバイ」
そういうと直哉と美樹は先に帰って行った。
「それでは私たちも帰ろうか」
「そうね。もう歩き疲れたからタクシーで行こう。もちろん金は私が払う」
「さすがお嬢様」
「そんなこと言っていると置いていくぞ」
「冗談だって」
京子先輩に甘えてタクシーに乗ることができた。もともと僕の家から駅まではたいした距離はなかったのであっという間に家についてしまった。家の鍵を開けると真理さんは僕を手でどかして無理やり先に入っていった。僕と京子先輩はキョトンとしながら続いて入ると
「凛。ご飯にする。お風呂にする。それとも、わ、た、し?」
京子先輩がものすごい勢いで顔を豹変させた。
「……殺されたいのか?」
「一回言ってみたかっただけだからいいじゃん!」
「冗談はこれぐらいにして、ご飯はいらないとしてお風呂に入るとするか。凛、先に入ってきな。私は浴衣を着替えながらこいつを見張る」
「見張るなんてひどい!」
お言葉に甘えて先に入ることにした。もちろん浴槽には湯が溜まってない。お湯を出したが溜まるまで待って入っていたら二人を待たすことになってしまうから今日はシャワーだけにしよう。髪を洗い、体を洗い終わる頃には浴槽にはお湯が溜まった。お風呂から出ると二人はソフャーに座りながらテレビを見ていた。
「早かったね。では今度は私たちが入ろう」
「私たち。なぜ二人で入る?」
「そんなのは決まっているだろう。お前を放っておくと何をするかわからないからだ」
「何もしないわよ!」
「誰が信じられるか。いいから来い!」
そういうと京子先輩は真理さんを連れて風呂に行った。僕は二人が入っている間に寝るところを作ることにした。すぐに布団の準備は終わった。一階にリビングに行ってテレビを見ることにした。適当にチャンネルを回していると、音楽番組がやっていた。人気アイドルグループやロックバンド、いろいろな有名人がいた。そんな中お人形のような二十代前半と思われる女性が出てきた。テレビを見ていると、どうやら今期待の人気歌手らしい。さっそく歌が始まった。メロディーからしてバラードを歌うらしい。一言でいうと妖精のような綺麗な歌声である。透き通った高音の声で人気があるのも納得である。
「いい歌手だよね。この曲は特に好きだ」
京子先輩と真理さんがお風呂から出てきていた。つい聞き入ってしまい気が付かなかった。
「私もこの歌手は好き」
それから三人でその番組を鑑賞した。
「番組も終わったし、そろそろ寝るとしましょう」
「おやすみ」
ベッドに入り目を閉じて寝ることにした。
次の日、僕は目を覚ました。まだぼやけた視界で二人を見てみるとまだ眠っていた。時計を見てみると時刻は十時を過ぎたところであった。昨日はいっぱい遊び歩き回ったから疲れてぐっすり眠っていたようである。僕は二人を起こさないようにゆっくりベッドから降りて部屋を出た。先に顔を洗い、歯を磨いた。部屋に戻ってみると京子先輩が目を覚ましていた。
「おはよう。久々にこんなにぐっすり眠った。…こら、起きろ」
京子先輩に叩かれ、真理さんも目を覚ました。
「朝ご飯はどうしようか。と言ってももう朝ご飯を食べるような時間ではないな。朝とお昼ご飯は一緒だな」
「私は、ご飯はいいわ。もう帰りの準備をして電車で食べるわ」
真理さんはまだ眠そうな顔で目を擦りながら言った。
「そうか。じゃあ私はこの女を送るついでに家に帰ってから食べるよ」
そう言うと二人も顔を洗いに行き帰りの準備をし始めた。
「凛。じゃあ帰るね。ありがとね。楽しかったわ。また家に泊まりに来てね。バイバイ!」
僕は頷き真理さんに手を振り玄関で見送った。
「じゃあ凛。私はこの女を送ってから家に帰る。ではまたな」
京子先輩も帰って行った。